2018年4月、メルカリでは 「ブロックチェーンによる分散化を考えナイト」というイベントを開催しました。
今後、ブロックチェーンによって分散化の世界が広がるとも言われています。イベントでは、そのような世界で求められるサービスはどのようなものか、皆さんでワークショップ型で議論しました。
この記事では、イベントで利用した「ブロックチェーンの概要」資料を共有いたします。
※イベントレポート記事を以下の記事ご覧ください。
今回紹介する資料では「ブロックチェーンは何がすごいのか」の概略をお伝えできればと思います。特に、「今後、ブロックチェーンが普及すると推進される5つのこと」という観点にてご説明いたします。
※ブロックチェーンの凄さは様々な切り口や見方によって変わるので、これはそのうちの1つの切り口となります。
目次
(1)非中央集権型のサービス
まずは、1つめとして 「非中央集権」のサービスが増えるでしょう。これが、「ブロックチェーンが普及すると推進される5つのこと」全体を支える骨子になります。
なぜ「ブロックチェーンが普及すると非中央集権のサービスが増えるのか」をご説明します。
従来、物を買ったり借りたりした時には、間には誰かがいました。たとえば、事業者であったり、国であったり。
しかし、ブロックチェーンによって、場合によっては、間にひとがいなくても、取引ができるようになりました。これが「非中央集権」の概念です。
では、なぜブロックチェーンがあると「非中央集権」が実現できるのか。それは、ブロックチェーンでのやりとりのデータが「正しい」といえるものだからです。
今までも「正しいデータ」はありました。ただ、それは詐称されたり、書き換えられたりする恐れが常にありました。それに対して、そのような不正を受けない構造をブロックチェーンは持っています。
もし、マンハッタンの町中で、ロレックスが手売りで売られていたとします。すると、皆さんはそれを買うでしょうか。おそらく買わないでしょう。それが「偽物かもしれない」と思うからです。だからこそ、高いものを買う時はきちんと手数料を払ってでも、正規のお店を通じて買います。
ただ、もし、手売りされているロレックスが「正規品」と確認が持てるものだったらどうでしょう。しかも店に売っている価格より3割も安い。もしかすると購入手段としては検討するかもしれません。
ブロックチェーンが実現しているのはいわばこのようなことです。今までのデータは「怪しい(ロレックスが本物かわからない)」というものでした。なので、そのデータを保証する役割として間に誰かがいたのです。そこに対して、ブロックチェーンは構造的に「そのデータが正しい(=ロレックスが本物だ)」ということを保証したのです。そうすると、間の店は不要になりました。こうして、非中央集権が実現されることになります。
では、そのブロックチェーンはどのように「正しいデータ」を担保しているのでしょうか。
今回はビットコインを例に仕組みの概略を説明したいと思います。
上の図はビットコインでのやりとり例です。金額や送り先、時間などが記載されています。
この取引データは、世界で1つしかない台帳に保存されています。
その取引履歴がブロックごとに分かれてつながっているため「ブロックチェーン」と呼ばれます。
しかし、単純に取引履歴を入れたデータをつなげた場合は、改ざんされる可能性があります。
そこでブロックチェーンは、「ナンス値」というマジックナンバーを見つけなければ、データを台帳に書き込めないようにしました。
このマジックナンバーは賢いパソコンでも10分ほど計算しないとなかなか見つけられない数字です。
このマジックナンバーを見つけると、ブロックチェーンから報酬を得ることができます。そのため、世界中から、多くの人たちがこのマジックナンバーの発掘に参加しています。そしてこの採掘のことをマイニングと呼び、採掘をする人をマイナーと呼びます。
その数は数百万人とも言われています。
流れは上記のようになります。
誰かが取引をした場合、「このデータを記帳に書き込んでよ」と依頼が始まります。記帳に記載されないと取引は行われませんから。
そのデータを書き込むためのマジックナンバーであるナンスを世界中の人たちが探し始めます。そして、見つけた人がいたら、その数字が正しいか、他の参加者は検証します。
正しかった場合のみ、台帳に書き込めるようになります。
こうすれば、もし悪い人が不正をしたい場合、数百万人の参加者を欺く必要があります。考え方としては可能でも、実際問題は不可能です。このような仕組みからブロックチェーンに書き込まれているデータは正しい、と言われているのです。
※なお、今回は主にビットコインの仕組みをベースに説明しましたが、他の方法でもデータの正しさを検証する仕組みはあります。
では、非中央集権の取引とはどのようなものでしょうか。どのようなことができるようになるのでしょうか。
カーシェアで考えてみましょう。
日本のカーシェアでいえば、タイムズ24さんが運営されているタイムズカープラスやDeNAさんが運営されているAnycaなどがあります。しかし、カープラスの車はタイムズ24さんが所有していますし、Anycaでも車の所有は個人ですが、サービスの管理・運営はDeNAさんがされています。そういう観点でいえば、間に事業者がいる状態です。
しかし、ブロックチェーンを使えば、「この地方の人たちでカーシェア」という仕組みを、その地方で住んでいる人たちがコミュニティ主導で作れるようになるのです。
たとえば、トークンを事前に買ってもらい、トークン購入者全員の意思を元に、そのお金で車を買い、その車の利用にはトークンを使うという仕組みができあがります。
※このようなことは従来もできたものの、ブロックチェーンで行えば、与信機能やトークン管理なども含めた全体のエコシステムを構築しやすくなる特徴があります。
今、ご紹介した「非中央集権のサービスの台頭」がブロックチェーンの変化のもっとも大きなものであり、アルファでありオメガになります。ブロックチェーンが持つ、もっとも可能性を秘めた点となります。
しかし、それに付随して生じるであろう4点の特徴がありますので、これからそちらを説明したいと思います。
(2)価値の送付 / 保存
1つは「価値の送付/保存」です。
ビットコインの場合、発行量は2100万枚までと決まっています。
さきほど説明したブロックチェーンの「正しさ」に「希少性(発行数が決まっている)」が加われば、価値の代替に活用しやすくなります。
昔の貝殻であれ、金であれ、あるいは昨今話題になっているバーキンのカバンであれ、正しい(偽物を作りにくい)&希少性があるものが価値の代替として使われます。バーキンも売れば高い値段(元金額に対する割合も)で売れるということを考えると、カバンに価値の保存がされているといえます。
しかし、単純にブロックチェーン/ビットコインが価値の代替をできると言っても、利用者がいないと使えないものです。では、なぜビットコインは使われるようになったのか。
ビットコインが生まれた時に、その可能性に目をつけた人たちがいました。個人を重視し、小さい政府を重視するリバタリアンの方々です。
今まで法定通貨は国の発行するお金であり、すなわち国の管理下にあるお金でした。しかし、ビットコインは国という概念を超越して存在しています。
そのため、リバタリアンの方々にとっては、ビットコインが「今までの国という枠組みからとらわれずに利用できる手段」として注目を集めたのです。
そしてユーザ数が増えると、ビットコインの潜在的価値から投機目的で購入する人も増え、紆余曲折を経て、今にいたります。
このような貨幣的な意味合いを持ったブロックチェーンを称して、人によっては「価値が送れるようになった」という人もいます。
いわば、それまでのインターネットは情報をおくることが主流でしたが、ブロックチェーンが生み出す新しいインターネットにおいては、価値を送り合うことが増えそうです。
ただ、ブロックチェーンは「価値を送れる」だけではないのです。
「簡単に価値を送れる」というのがポイントなのです。
価値自体は今までも送る方法はありました。ただ、非常に手間がかかったのです。
海外送金では事前の契約や海外の銀行口座の入力があり、時間がかかります。高い手数料もかかります。
投資もそうです。海外の銘柄だとそもそも対応していないものもありますし、未上場株だと、契約も非常に厄介です。
しかし、ブロックチェーンでは、そのような海外送金や投資(に近いトークンの購入)も1クリックでできるようになります。
2日でかかっていたのが5秒でできるようになると、3.4万倍の速度改善です。
亀をベースに比較するとNASAが研究するX53の速度になります。
「簡単になっただけ」といっても、亀と世界最速の航空機ほどの違いがあります(:
また、「価値」に関していえば、ブロックチェーンの仕組みとも切り離せません。
さきほど、ブロックチェーンのデータの検証にはマイニングが行われているといいました。
そのマイナーたちは報酬があるから、マイニングをしてくれるのであり、報酬がなければマイニングするモチベーションがうまれません。
そうすると、トランザクションも起こりません。ブロックチェーンが機能不全になります。
ゆえに、ブロックチェーンのエコシステムを作るには、報酬制度が非常に重要です。
さらにいえば、トークンエコノミーと切り離せないです。
※コンソーシアム型やプライベートチェーンでは、別の力学でデータの検証(バリデート)が行われることもあります。
(3)所有権 / 帰属の管理
次にご紹介するのは「ブロックチェーンの所有権/帰属の管理」の機能です。
さきほどお伝えしたとおり、ブロックチェーンのデータは「正しい」データです。その正しさは、他にも使い用途があります。世の中には「正しさ」が求められる情報が少なくありません。
たとえば、土地の登記。これは間違っていると人の資産に影響を与えることになります。また、食べ物のトレーサビリティにおいても正しさは重要です。野菜がどこからとれたかというのも衛生面や健康観点において間違いは大きな問題です。
他にIDや特許管理、デジタルコンテンツ管理もそうです。たとえば特許管理では「どちらが先に提出したか」が重要であるため、そのような情報を不正なく管理できるブロックチェーンとは相性がよく、実際に活用も検討されています。
このような「データ管理」にもブロックチェーンの「データの正しさ」は活用できます。
デジタルコンテンツに関してもう少しご説明しましょう。
今まで、ネット上のデータは複製可能だと思われていました。確かに「コピペ」すればデータは複製できてしまいます。
しかし、ブロックチェーンを使えばコンテンツの帰属先を規定することによって、「唯一のコンテンツ」を作ることができます(たとえ、ネット上ではコピーできても、そのデータの帰属先まではコピーできないので、そのコンテンツを管理する世界上では、帰属先のないデータは意味のないものになる)。
CryptoKittiesという猫をブロックチェーン上で管理するサービスにおいては、最も高い猫が11万ドル(約1200万円)で購入されました。
生きている猫でもっとも高い猫の種類の1つであるサバンナキャットでも数百万円だそうです。それよりも高いですね。
なお、国連も、個人のID管理にブロックチェーンの活用を検討しています。
日本のIDとしては免許証がありますが、海外にいくとパスポートくらいしか手軽に個人を証明できるものはありません。そして、世の中には、そのようなパスポートを持っていない人もたくさんいます。
またパスポートでは学歴や職歴のデータを入れることはできません。そこで、ブロックチェーンを使えば個人の特定に必要な情報も付加することができるようになります。
このような観点から、難民の方などのIDとしてブロックチェーンの活用が検討されています。
また、ポイントとして、ブロックチェーンにおいては、データを特定の国におくということではありません。今までだと、原理上、そのデータはどこかのサーバにおく必要があり、すなわちそのサーバはどこかの国に所属するものでした。しかしブロックチェーンのデータは国を超えて分散で保存されます。あるいは個人で管理されます。
上記のような世界的なIDの考え方では、国に依存しない形でのデータの保有が好ましく、そういう観点でもブロックチェーンの特性と相性がいいでしょう。
(4)オープン / 信頼できるデータの増加
次に、「オープン/信頼できるデータの増加」に関してご説明します。
今までの中央集権的なやり取りではデータは中央集権のプレーヤーが持っていました。たとえば、ECの購買データは、そのEC事業者が持っています。
しかし、非中央集権のやりとりではデータは個人が所有します(ないし、分散して所有します)。
※プライベートチェーンなどでは特定の企業が情報を持つこともあります。
そう考えると、ブロックチェーンで管理されるデータは、管理主体がいないという観点において、オープンになることを意味します。
そうすると、今まで、オープンではなかったデータがオープン化されるかもしれません。たとえば、購買履歴や仕事の履歴、位置データ、あるいはインターネットの閲覧情報に誰もがアクセスできる状態になるかもしれません。
これらも今まではデータはありましたが、特定の企業が保有することが多かったのです。また、改ざんもできるデータでした。しかし、改ざんができないデータになることで、これが与信としての価値も持つようになります。
※もっとも、このようなデータがオープン化されることの是非の問題は別に存在します。
たとえば、C2Cの売買ですと、レビュー数が0の人から物を買うのは心配ですよね。詐欺師かも、と思ってしまったり。
しかし、そのような他のサイトでの購買履歴がオープンになっていれば、そのデータを「私の信頼できるデータ」として伝えることができます。他のECサイトで100以上の良い評価のデータがあれば、安心できます。
また、婚活では今まで「年収」「学歴」くらいしかちゃんとしたデータはありませんでしたが、今後「健康」や「運動神経」といったデータもブロックチェーンで管理され、婚活の場の証明として使われるようになるかもしれません。
もちろん、これが良いか悪いかの倫理的な問題は今後、取り組まないといけない問題になるかと思いますが。
また、国が管理する医療や教育、交通のデータなどもブロックチェーンを通じてオープン化を進めようとしている国もいます。これらが進むと、社会活動に活用がすすむでしょう。
(5)トラストレスな取引
最後に「トラストレスな取引」に関してご説明をします。
ブロックチェーンでは、「正しいデータ」を管理することができます。その上で、「正しく施工されるルール」としてスマートコントラクトという概念ができました。
たとえば、「2020年になったらデータがなくなる」「晴れならポイント倍増します」といった「AならばB」のような条件が満たされると起こるというルールをブロックチェーン上に組み込むことで、自動で施工されるようになります。
それによって、たとえば音楽の配信に対して動的に課金する仕組みを作ることができます。また投資や仕事の契約などにも使えるかもしれません。
ただ、ブロックチェーン内でのデータややり取りは正しく施工されますが、懸念点として、ブロックチェーンに接続する外部のデータが正しいかどうかわからないという問題は存在します。そのため、まだまだ挑戦が求められますが、使い方次第では、効率的な取引が実現できるでしょう。
つまり
このようにブロックチェーンは大きくインターネットを推進される可能性を持ったものです。
そういう意味では、これはインターネットの登場にも匹敵するインパクトを持っているのかもしれません。
ブロックチェーンの活用について
すでにブロックチェーンを活用したサービスなどは生まれてきています。とはいえ実用性はまだまだで各社が模索中です。
普及するには、スケーラビリティや電力の問題など解決しないといけないものは数多くあります。しかしながら、いつかテクノロジーはそれらも解決するでしょう。
その時に生まれる新しい世界を想像しながら、今からブロックチェーンに携わってみるのはいかがでしょうか。
採用情報
ブロックチェーンの未来に興味をお持ちの方は、以下の職種などで関連した業務を携わることができますので、ぜひご応募を検討いただければと思います。
»[merpay]ソフトウェアエンジニア(Blockchain)
»プロデューサー(事業戦略)
* Write:原田和英(Mercari, Inc.)
* Edit:原田和英(Mercari, Inc.)
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