東京・原宿の有名DJバー「bonobo」が、改正風営法下の取り締まり強化でピンチを迎えている。BuzzFeed Newsの取材に対し、店主の成浩一さん(54)は「ダンスをさせてはいけない、という規制に疑問を抱いている」と語る。

「bonobo」店主の成浩一さん
音楽を遊ぶ場所
1989年から10年間ニューヨークで過ごした成さんは、異色のニューウェイブバンド「のいづんずり」のNY版メンバーとして活動するなど、音楽にどっぷりと浸かる生活を送った。
故・デヴィッド・マンキューソが主宰していた伝説的なパーティー「ザ・ロフト」に衝撃を受け、日本にも「音楽を遊ぶ場所」をつくろうと、2003年末にbonoboをオープンした。

ぱっと見、まったくクラブには見えないbonobo
海外セレブも来店
bonoboの最大の特長は、クラブとホームパーティーの中間のような、自由でくつろげる空気感だ。
築58年の民家を改装した店内には、1階のバーに2階の畳部屋、テラスと多彩な空間があり、アットホームな雰囲気と高音質な音響が、感度の高い音楽ファンたちに愛されている。
ジェーン・バーキンやアニエス・ベー、デヴィッド・ゲッタらの海外セレブが店を訪れ、ミックスマスター・モリスやプラスチックスの故・中西俊夫、久保田麻琴らがパフォーマンスを披露したこともある。

2階の畳部屋
「ああいうお客さんは止めなきゃ」
そんな名店が、危機にさらされている。
3月23 日の午前1時半過ぎ、スーツ姿の警察官3人が店に現れた。当時店内には15人ほどの客がおり、外国人男性1人は音楽に体を揺らしていた。
「踊っているね?」
「いやー楽しそうに揺れてますね」
「いや、あれは踊っているよ。法律違反です」
警官の質問に「揺れているだけ」と答えてはみたものの、追及を受けて最後は「踊っていた」と認めざるを得なかった。
「ああいうお客さんは止めなきゃいけないんだよ、とも言われましたね。反論してもお客さんに迷惑が掛かってしまうので、その場では認めました」

警察から渡された「指示書」
特定遊興飲食店のエリアは限定的
2016年に施行された改正風営法では、深夜に客を踊らせ、酒を提供する店は「特定遊興飲食店営業」の許可を取得する必要がある。無許可で営業すれば2年以下の懲役か200万円以下の罰金、もしくはその両方が科される。
改正前は深夜のダンス営業が全面的に禁止されていたので、以前に比べて規制緩和されたことは確かだ。
一方で特定遊興の許可取得が可能な地域は、繁華街の一部に限定されている。エリアから外れたbonoboは、許可を取りたくても取ることができない。1月末に摘発され、経営者ら3人が逮捕された「青山蜂」と同じ状況だ。

天井から吊るされたミラーボールや装飾
赤や緑の照明は「積極的」
成さんは3月28日と4月10日に原宿署に呼び出され、詳しい事情を聞かれた。
警察庁の解釈運用基準は「営業者側の積極的な行為によって客に遊び興じさせる場合」を規制対象としている。
「文書のなかに『積極的にお客さんを踊らせている』という言葉があったので、そこがよくわからないと質問しました。お客さんが自発的に体を揺らしているだけなので」
すると、警官からはこんな答えが返ってきたという。
「赤とか緑の照明、それからああいう類いの音楽をかけることが、積極的にお客さんを踊らせていることになるんです」
成さんは言う。
「疑問はありつつ、最終的には書類にサインしました。警察に楯突けば勾留されてしまうのではないか、という不安もありました」

bonobo1階のDJブース
逆風の小箱
2010年代に入ってクラブに対する摘発が強化され、反発した利用者や経営者、ミュージシャンらが風営法の改正運動を推し進めた結果、規制緩和が実現した。
改正前に取り締まりの対象となっていたのが、比較的規模の大きい「大箱」ばかりだったこともあり、「小箱」と呼ばれる小規模クラブやミュージックバーの多くは、なかなか当事者意識を持てずにきた。
しかし、そんな雰囲気は一変しつつある。
22年続く老舗の小箱、青山蜂が1月末に摘発され、4月に入ってからも渋谷や六本木の小箱、少なくとも10店舗に対して警察の一斉立ち入りが行われた。
危機感を募らせた小箱側は、業界団体「ミュージックバー協会(MBA)」を設立。法律の運用改善や立地規制の緩和などを求めていく構えだ。

bonoboのテラス
「ダンスがなぜ悪いのか」
成さんは、取り締まりの強化で、小箱が育んできた豊穣なクラブカルチャーが細っていくことを懸念している。
「小箱の文化的側面は非常に重要。bonoboのテラスでは、普通のサラリーマンとヒップホップの青年が自然に会話をしています。普段出会うことのない人たちが良質の音楽を共有し、垣根なしに混ざり合うんです」
世界最大規模のクラブミュージックの祭典「アムステルダム・ダンス・イベント」や米マサチューセッツ工科大学でのシンポジウムなど、海外で講演する機会を得るたび、日本のクラブカルチャーの実情を発信してきたという。
「照明を明るくして、お客さんには『踊らないでください』と注意する。そういうつまらない形で小箱を残してもしょうがない。近隣への騒音対策や健全化も含め、業界全体で対応を考えていく必要があります」
「ダンスがなぜ悪いのか。いまの規制は疑問です。クラブが好きなみんなに関心を持ってもらえるように、声をあげていきたいと思います」

マサチューセッツ工科大学でクラブカルチャーについて講演する成さん
BuzzFeed Newsでは、ナイトカルチャーや風営法の問題について、継続的に報道しています。
・改正風営法下で取り締まり強化 警察が小箱に一斉立ち入り、業界に危機感
・クラブ「青山蜂」摘発に波紋 水曜日のカンパネラ、コムアイも思い吐露
・「22年の営業、犯罪だったと思うと悲しい」 青山蜂の経営者が明かした思い
・「青山蜂」がクラウドファンディング 摘発後に再開、防音工事費を募る
・「無許可でダンス」警察が有名バー立ち入り 風営法の拡大解釈に経営者は反発
・東京にも「夜の市長」を創設へ Zeebraが準備委員会の設立を宣言
・月曜午前休で「ラグジュアリーマンデー」 自民ナイトエコノミー議連が提言
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