連載

無神論者になった私が、フェミニストとして居心地が悪い理由

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wikipediaより

信仰とフェミニズム

 前回の連載では魔女や女神信仰とフェミニズムをとりあげ、個人的に魔女は素晴らしいと思うけれども、ついていけないところがある……という話をしました。今回はその対極にあると言っていい、無神論について書いきたいと思います。無神論も女神信仰も、西洋においてキリスト教的モデルへの対抗文化としてとらえられているという点においては似たところがあり、無神論者が女神を研究している場合もあったりするのですが(大著『神話・伝承事典 失われた女神たちの復権』を編纂したバーバラ・ウォーカーは無神論者です)、思想的にはこの二つは大きく異なります。

 フェミニズムはもともと、宗教を理由とする抑圧に対して極めて批判的です。とくにユダヤ教、キリスト教、イスラームなどのアブラハムの宗教は家父長制的で、女性抑圧のもとになっていると考える人は多くいます。その中には、宗教が女性に対する抑圧になるのは腐敗した宗教組織、時代背景を考えない恣意的な経典解釈、本来は教義に関係ない民俗的伝統との融合などによって信仰が堕落したからであり、改革によって抑圧的でない信仰が取り戻せると考える人もおり、そうした人たちはフェミニストとして宗派改革を目指します。

 敬虔なユダヤ教徒やクリスチャン、イスラーム教徒であるフェミニストはとくに珍しいわけではありません。たとえばアメリカにはフェミニスト・モルモン・ハウスワイヴズという、モルモン教徒の主婦が中心に運営する人気のあるウェブサイトがあり、あらゆる話題をフェミニスト的観点から扱っています(日本にこういうのがあるのかどうかは寡聞にして知らないのですが、もしフェミニズム神道とかいうものがあったら笙野頼子とかになるのかもしれません)。

 信仰を持ちながらフェミニズム運動をする人々は所属宗派から糾弾されやすく、活動は大変です。世俗的な人が多い日本人からすると、なぜそこまでして信仰に留まるのか不思議に思えることもあるかもしれませんが、生まれ育った宗派を離れるのは場合によっては家族や友人、そして今まで人生で培ってきたものの見方全てと決別する一大事です。信仰に見切りをつけるのではなく、自分の属する組織を改革しようとする人は尊敬に値すると思います。

 一方、既存の信仰とフェミニズムは相容れないので、信仰自体を捨てた人々もたくさんいました。無神論者のフェミニストは昔から多く、19世紀にはユダヤ系のポーランド移民で、アメリカ合衆国で無神論者かつ女性参政権運動家として活動したアーネスティン・ローズがいます。これは、科学や哲学など理性に基づく思考が、女性は男性より劣っているという迷信を打ち破ってくれるはずだという期待によるものです。現在でも、ムスリムの家庭に生まれたバングラデシュ出身の作家タスリマ・ナスリンや、宗教からの自由財団を創設したゲイラー母娘など、無神論者のフェミニストはたくさんいます。

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北村紗衣

北海道士別市出身。東京大学で学士号・修士号取得後、キングズ・カレッジ・ロンドンでPhDを取得。武蔵大学人文学部英語英米文化学科専任講師。専門はシェイクスピア・舞台芸術史・フェミニスト批評。

twitter:@Cristoforou

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  • 単行本310ページ
  • ISBN-104560096007
  • ISBN-139784560096000
  • 出版社白水社
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