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中国がまもなく「世界最強のIT国家」になる歴史的必然性

プライバシーも独禁法もない国だから

中国のIT産業は、いまや世界の最先端を走っている。

しかし、それに対して世界は危機感を強めている。なぜか?

個人のプライバシーを尊重しない中国の特殊な社会構造が、中国ITの強さの基礎にあるからだ。そして、中国ITの膨張によって、個人の自由が奪われる危険があるからだ。

 

正確な個人識別が可能になりつつある

「プロファイリング」という技術がある。

もともとは、犯罪捜査で、犯罪の特徴などから犯人像を割り出す方法のことだった。

最近では、インターネットから得られる個人データを分析し、個人像を描き出すための手法を指すことが多い。

プロファイリングが進めば、個人の行動を予測できるようになる。そこで、一人ひとりの好みに合わせた商品の広告などを出すのに使われる。

最近では、AIとビッグデータの活用によって、精度が向上している。

プロファイリングの応用は、広告以外にも広がっている。まず、金融に利用され始めている。

保険では、「テレマティック保険」というものがある。自動車にセンサーを搭載し、運転状況を詳細にモニターする。「運転行動連動型保険」では、アクセルやブレーキの踏み方などの運転情報を取得し分析し、診断結果に応じて、契約者ごとに異なる料率を適用する。

中国の衆安保険は、糖尿病患者を対象とした新しい医療保険を提供している。これは、テンセントが開発したタッチパネル式測定端末で血糖値のデータを取り、規定値を下回れば、保険金が増額される保険だ。

これにより、人々はこれまでより健康管理を心がけるようになり、医療費や医療保険の支払いが節約できると言われる。

また、融資判断に用いる個人の信用度を算出する試みも始まっている。アリババの関連会社、アント・フィナンシャルサービスが2015年1月に始めた「芝麻(ゴマ)信用」は、学歴、勤務先、資産、返済状況、人脈、行動の5つの指標の組み合わせで信用度を計算し、950点満点で評価する。

スコアが高いと、シェア自転車を無料で使えたり、海外旅行時にWi-Fiルータを無料で借りられる。芝麻信用のスコアだけで無担保融資をする業者も出てきている。人々は信頼を失わないように心がけるので、人間の質を高めるとされる。

また、趣店というスタートアップ企業は、ビッグデータを利用することによって、個人の信用を識別する消費者金融を開発した。

以上では、秘密にされている情報を使うのではなく、オープンにされている情報を大量に集めて分析する。だから合法だ。

しかし、危険な面もある。プライバシーが侵されるリスクがあるからだ。

アメリカでできないことを中国ではできる

グーグルは、検索やメールなどの情報を用いるプロファイリングを、以前から行なっていた。それを広告に用いて、巨額の収益を上げてきた。フェイスブックも、書き込みなどから、同様のことを行なっている。

グーグルはさらに、個人の行動を予想してアドバイスを与える「Google アシスタント」というサービスを2016年から提供している。勤務先等を入力しなくても、グーグルカレンダーなどに書き込まれた予定やグーグルマップの利用状況などから推測しているようだ。

ただし、グーグルやフェイスブックは、ビッグデータを集め、利用する面で、本質的な制約にぶつかる。

アメリカは個人主義を基礎とした民主主義社会であり、個人のプライバシー保護について、強い社会的要請があるからだ。

ところが、中国ではそうした制約が非常に弱い。したがってビックデータを簡単に集めることができる。そしてその利用についても、社会的な制約が働かない。

中国でも2017年から、「インターネット安全法」を施行している。しかし、これは、個人情報の保護というよりは、むしろ、当局によるインターネット支配を強化するものだと考えられている。

実際、中国では、インターネットは検閲されている。テンセントやバイドゥは、政権にとって都合の悪い書き込みを排除している。

思い起こせば、2010年3月に、グーグルはこの問題で中国から撤退したのである。

前出のアリババの関連会社アント・フィナンシャルが運営する電子マネー・アリペイでは、顔認証のシステムが導入されている。これが広がれば、決済にスマートフォンさえ必要なくなる。

顔パスで支払えるのは、確かに便利だ。しかし、そのためには、アント・フィナンシャルに写真を提供する必要がある。その情報が政府に渡れば、街角に設置されたカメラで行動を監視されてしまうことになりかねない。

個人の信用情報について懸念されるのは、それが融資の際の評価に用いられるだけでなく、様々な用途に用いられることだ。そのうち、雇用の際の評価に用いられるようなことにもなりかねない。そうなれば、この点数が個人の一般的な評価として社会的に用いられることになってしまうだろう。

そうした評価が一企業によって決められてしまうことに対して、中国の国民はあまり強い危険を感じていないようだ。