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防災計画
平成24年3月に内閣府が発表した「南海トラフ巨大地震の被害想定(第一次報告)」に基づき、自治体はそれまでの避難計画を見直している。それを「いかに使えるものにするか」には、住民自身が参加して考え、シミュレーションなどを行い、修正を重ねることが欠かせない。小学校単位で避難計画を策定する高知市の取り組みを取材した。
高知市は人口約33万6千人、世帯数約16万世帯。四国の南部に位置し、市の中心部が海岸線に近く、海抜0mの地域が約7平方キロメートルを占め、ひとたび大地震が発生すれば、津波による被害が容易に想定される。平成 24 年 12 月に高知県が公表した10mメッシュの詳細な津波浸水予測によれば、最大クラスの地震が発生した場合、高知市では、2m弱の地盤沈下が予想されるとともに、沿岸部には10mを超える津波が到達すると想定されている。平成 26 年3月には「南海トラフ地震防災 対策推進地域」及び「南海トラフ地震津波避難対策特別強化地域」に指定された。こうした厳しい状況下でも犠牲者を限りなく0に近づけるべく、これまで以上のスピード感を持って実効性の高い津波対策に取り組むために、高知市は従来の津波避難計画を見直し平成27年3月に公表した。
津波避難計画は、限られた時間の中でそこに住む人・居る人全員が安全を確保できる場所に避難を完了させることが求められる。高知県黒潮町では戸別に避難カルテが作られているというが、大きな都市でその手法は現実的でない。高知市では小学校の通学区域を津波避難計画の基本単位とし、その中に含まれる地域の自主防災組織や自治会と連携して計画の策定や避難訓練の実施にあたっている。高知市内には41の小学校があり、そのうち28が津波の浸水エリアにある。
避難計画や避難マップは地域住民と話し合い、またフィールドワークをしながら1校区のものを約2年間かけて作成した。地区別の避難計画書にはその地区の地勢や特性を踏まえた避難の基本的な考え方や、津波による浸水被害予想、津波の到達時間などが写真や図付きでわかりやすく表示され、地域内にある緊急避難場所となる高い建物が写真つきで掲載されている。避難にかかる時間などをできるだけ正確に計算し、「本当に使える」ものを目指している。例えば、地震で避難するときのスピードは、2.17㎞/時(1秒60㎝)と想定する。通常の歩行速度4㎞/時よりずいぶん遅いが、津波で浸水したり、地震で道路状況が悪くなったりすることを想定した数字だ。フィールドワークで見つかった避難の課題や、避難経路のわかりにくい場所などをまとめているページもある。40ページ以上にもなる充実した内容だ。地区の詳細な津波避難マップは、耐水性・耐久性に優れた合成紙を使い、折りたためばポケットに入るサイズだ。そうしてできた避難計画やマップを活用して避難訓練を行い、情報を追加したり見直したりして、精度を高めていくという。
「住民の皆さんに参加していただきご意見を伺うのは、行政主導のやり方から考えれば最初は遠回りに見えるかもしれません。でも、地域防災の趣旨をご理解いただけると結果的にはずっと有効性が高まるのです。例えば避難経路一つとってみても、皆さんがよく使う道や危険個所について教えていただけますし、避難訓練にも熱心に参加して意見を出してくださいます」と地域防災推進課の鍋島地域防災推進担当係長は言う。
南海トラフ巨大地震は、今後 30 年以内に 70%程度(地震調査研究推進本部:平成 27 年 1月現在)の高い確率で発生すると予測されている。それだけに、緊急避難場所や避難経路の整備を急がなければならない。高知市内では現在9か所に津波避難タワーが計画され、そのうち2か所が完成している。小・中学校の耐震化工事は平成27年度には完了するという。浸水地域にある学校は、津波の際に緊急避難場所になるため、外付け階段も整備する予定だ。
夜間に地震が起こった場合や、停電で電力供給が断たれたことを想定した準備も必要だ。夜間であれば、緊急避難場所に指定されている建物は施錠されている場合が多い。それが避難の妨げにならないよう、高知市は大きな地震の揺れによって開錠するキーボックスの導入を進めている。また、市内240か所の避難経路の入口や、津波避難タワーにソーラー式の誘導灯を設置する。
津波避難タワーの階段やスロープには、暗い中でもそこに階段があることを認識でき、安全に避難できるよう蓄光材を使った床材を採用している。また、緊急避難場所などを示す標識にも、一部に蓄光標識を設置している。反射材の標識は廉価だが、灯りを当てないと光らないため、旅行者や外出先で災害に遭い、十分な知識や備えのない人が見落とす危険性もある。高知市では、県の補助などを活用しながら、蓄光標識の導入を進めていく意向だ。
高知市では地域の自主防災組織により、夜間の避難訓練や実際に避難所で一夜を明かす防災キャンプも行われる。実際に体験することにより、暗い中で必要な装備や注意事項が見つかるという。情報提供や施設整備する行政と、防災・減災を自分のこととして関わる市民。連携できる関係性の構築こそが、防災・減災の最大のカギであると高知市の例は示している。
高知市の津波避難マップには、緊急避難場所、津波到達予測時間とともに、避難経路が明示されている。避難経路は、住民からの情報をもとに実際に現地確認をして作られている
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