私は父の告別式でご挨拶しただけですが、いつもあたたかく穏やかに微笑んでいるお顔が思い出されます。
監督がアニメ化してくださった父の直木賞受賞作品「火垂るの墓」。
ジブリは大好きだけど、この作品だけは観ているうちにいつのまにか目を背けてしまいます。
「火垂るの墓」は小説だから、もちろん全てが事実ではないのですが、でもあの清太くんは少年時代の父なのだ…と思うと。
自虐的、露悪趣味、おまけに「小説家はみな嘘つき」が口癖の父は、私小説やエッセイを多く書きましたが、その都度エピソードが変化していたりして、家族にも真実は分かりません。
例えば「実際はアニメのように妹に優しく出来なかった」とか…。
ちなみに…
野坂昭如の娘が、国語の試験に出た「火垂るの墓の作者の気持ち」という問題に、父親に聞いた通り「締め切りに追われて必死だった」と答えたら✖︎をつけられた
という楽しいお話は全くの事実無根。
いかにも父が言いそうなことではありますが。
一部で都市伝説のような有名なネタとなっているみたいです。
まあ、それはいいとして。
私が幼い頃、父は「火垂るの墓」の前に「プレイボーイの子守唄」というエッセイを書きました。
その中に、生まれたばかりの赤ん坊(私)の寝息を何度も確かめる、という場面が出てきます。
かつて幼い妹を失ったことを思い出し、同じように死んでしまうのではないかとずっと恐ろしかったそうです。
また、娘が欲しがるままにたくさんのお菓子を与えてしまうとも書いています。
妹に食べさせてあげられなかったことへの罪滅ぼしの気持ちと、それを無邪気に食べ散らかす娘への複雑な気持ちと。
妹を死なせてしまったことへの罪の意識を生涯持ち続けた父でした。
高畑監督の「火垂るの墓」の中で、清太くんと節子ちゃんは懸命に生きて、そして死んでいきます。
健気で哀しくて美しくて。
アニメ化していただいたことで、日本中の、そして世界中の方に「火垂るの墓」を知っていただくことが出来ました。
戦争は悲劇しか生まないし、いちばんつらい思いをするのは子どもたち。
社会情勢がどんなに変わっても、「火垂るの墓」のアニメ作品を観て、戦争を二度としてはならないとみんなが感じる世の中であってほしいです。
フランスで芸術文化勲章を受けられた高畑監督に敬意を表して、現地のテレビで「火垂るの墓」が放映されると聞きました。
4/13には、日本テレビの「金曜ロードSHOW!」でも。
高畑監督、素晴らしい作品をありがとうございます。
どうぞ、安らかに。