ダサさが一周回ってカッコよさに⁉ 注目される“ダッドシューズ”とは
- 文・ライター 神田桂一
- 2018年4月16日
今、ファッションに敏感な若者たちの間で流行しているダッドシューズ(またはダッドスニーカー)をご存じだろうか? “ダッド”とは、お父さんのこと。つまりお父さんが履くような、ゴツゴツしたちょっとダサいシューズのこと。それを、DJやヒップホップのラッパーたち、または、スケーターなんかを中心に広まっている。インスタでハッシュタグをつけて検索すると出るわ出るわのダッドシューズの写真。インスタ映えもばっちりだ。
ダッドシューズが流行り始めたのは去年の11月頃からだと記憶している。ストリート系の若者たちから火がついた。そこからクラブに通う若者たちも好んで履くようになった。
ダサいものをかっこよく履きこなす。そこにセンスが現れる。一種のセンスの競い合いから始まったダッドシューズブームだが、インスタを見れば、「かっこいい!」というコメントが並ぶ。いまでは、履きこなしがかっこいいというよりは、ダッドシューズそのものがかっこいいと見られているニュアンスである。
かつて、建築史家の井上章一は、著書『つられた桂離宮神話』で、近代的(モダン)な建築の代表的なひとつで、世間では美しいとされている桂離宮を、「美しいとは思えない」と言い、美の基準には人間の作為が入っており、美しいと思わされていることを喝破したが、筆者には、このダッドシューズブームにも、それと同じ問題が内包されているように思える。
ダッドシューズブームが起きつつあるなか、あるシューズメーカーのシューズが脚光を浴びつつある。そのメーカーとは、ダンロップ。タイヤメーカーとして有名だが、ライセンス契約によって、広島化成という会社がダンロップブランドのシューズを製造している。
しかしながら、過去のダンロップのシューズのイメージといえば、ダサい、オタク専用ブランドといったものが多く、基本的にファッションに興味のない人たちが履くものだった。
そもそも大手シューズショップには置いておらず、個人商店や、ショッピングモールの専門売場などでよく見かける。値段もだいたい3500円くらいと安く、お母さんがよく買ってくるシューズというイメージもある。グーグルで「靴 ダンロップ」と検索すると、予測候補に「オタク」「ダサい」と出て来る有様だ。しかし状況は変わった。
筆者の取材に、広島化成株式会社広報部はこう話してくれた。
「まだ、ブームが始まったばっかりなので、直接的な数字として表れるのはもう少し先だと思いますが、反響は肌で感じています。お問い合わせも多くなりましたし、去年は、東京コレクションに2足使用されました。それを見た若者たちが、かっこいいと目をつけて買っていただいているのだと思います。ダンロップ愛好者の人のことを最近ではロッパーと呼ぶらしいです。それだけ親しまれてきたということでもあると思います」
新しいジャンル「タイヤ靴」
では、実際に履いている人の意見を聞いてみよう。沖縄県那覇市に住んでいる会社員、本村哲也さん(35)はこう述べる。
「まず、日本製で日本人の足に合わせた幅広なシューズなので、履いていてとても楽です。これはナイキなどの外国製のシューズにはない、メリットです。あとはデザインのSF感が特に気に入っています。現在公開中の映画『ブラックパンサー』に出てきそうなシューズ。かっこいいですね。あと一番重要なのが、マジックテープを採用していることです。正直、マジックテープのシューズを履くことには、最初、とても勇気がいりました。バカにされるんじゃないか。周りの目が気にならなかったと言えばウソになります。でも、あのビリビリという音、別に不快な音じゃないんですよ。慣れれば快感に変わります」
趣味はブログとネットラジオという本村さん。自身のブログとネットラジオでダンロップのマジックテープシューズの魅力を発信し続ける。
先ほども述べたが、ダンロップはタイヤメーカーである。なぜタイヤメーカーがシューズを作るのか。作る必要性があるのか。じゃあミシュランがシューズを作っているとでもいうのか!と思って調べてみると、これが作っていたのである。しかも平均15000円程度はする高級品だった。
驚いて、他のタイヤメーカーを調べてみると、なんとブリヂストンもシューズを作っている。というか、ブリヂストンはもともとゴム靴の会社であり、こうじてタイヤ製造を始め、世界的なタイヤメーカーとなったのである。これらを総合して、「タイヤ靴」とカテゴライズされるようになった。共通点は、ダサいこと。
「タイヤ靴=ダサい」。その常識が今崩れようとしている。ファッションは何十年ごとに繰り返すというが、タイヤ靴がオシャレという時代が、過去にあったのかどうかは知らないが、いずれにしても、現在、タイヤ靴の株はうなぎのぼりである。流行とは、こんなにも面白いものなのか。
僕はダンロップのデザインを悪くないと思う。だが、自分のなかの相対的な価値基準を持ってしても、僕は、まだ、ダンロップを履く勇気はない。
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