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マイナンバーは生かされず
2つ目の課題は、年金受給者にマイナンバーを記入させているにもかかわらず、それを十分に生かしていない点だ。マイナンバーがあれば、氏名や生年月日などの記入・入力は不要になるはずではないのか。年収なども税務署(国税庁)や地方自治体に照会すれば分かる項目ではないのか。
今回、氏名・フリガナの入力内容が誤っていたために、年金機構が発行した源泉徴収票には約55万人分の誤字があった。年金支給額の誤りほど注目されていないようだが、氏名を間違えるのはそもそも失礼なことだ。
筆者の問い合わせに対し、年金機構の広報室は「扶養親族等申告書に関しては、氏名や年収とマイナンバーをひもづける運用にはなっていない」と回答した。一方で、年金機構全体で見ると地方自治体などに照会する業務は少なくない。例えば国民年金保険料免除申請があった場合、地方自治体に氏名や年収などを照会し、本当に免除の資格があるかを確認するという。
現時点ではシステム構築や法令などの制約があるのかもしれない。だが、マイナンバーを生かしてもっと申告書の記入項目を簡素化できないのかというのが率直な思いだ。
「歳入庁」構想はどうなる
3つ目の課題は、所得税を徴収する税務署と年金機構の関係だ。年金にも所得税がかかる。現状の流れは次の通りだ。年金受給者はまず年金機構に申告書を提出する。次に年金機構は源泉徴収票を発行して年金受給者に送る。年金受給者は税務署に、年金機構から受け取った源泉徴収票に加えて、年金以外の所得の源泉徴収票を添付した確定申告書を提出する。
筆者は年金受給者ではないので、こんなにややこしい手続きになっている事実を今回初めて知った。国民にとって分かりにくいだけではなく、国税庁と年金機構にそれぞれ事務コストがかかり、その分、財源が失われている。
税金の徴収と年金保険料の徴収を一体化させる「歳入庁」の構想は昔からあるが、実現に向かう気配はない。本来なら一体化を含めて組織のスリム化を図ってほしいが、それが難しいのならせめて手続きを簡素化してほしい。
年金機構は2018年4月10日、外部専門家による「日本年金機構における業務委託のあり方等に関する調査委員会」を設置した。年金機構の業務の在り方を検証するのは歓迎だが、国税庁なども含めて、年金の支払いやそれに関わる徴税を含むプロセス全体の在り方も検証してもらいたい。将来、年金受給者となる1人の国民として切に願う。