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 日本年金機構のデータ入力ミスの波紋が広がっている。入力業務の外部委託先であるSAY企画(東京・豊島)の不手際などから、所得税源泉徴収額の計算を誤り、年金(老齢年金)受給者約14万9000人の支給額に影響があった。

 個人情報を含むデータ入力の外部委託は官民ともに珍しいことではない。だがSAY企画が契約に違反して中国の業者に再委託し、入力ミスを多発させたのは言語道断だ。そのような業者に発注し、監督し切れなかった年金機構の責任も重い。

マークシートなどは採用せず

 ただ、筆者はもう少し根本的なところに3つの課題があるとみている。1つ目は申告書の様式だ。

入力ミスが問題になった「扶養親族等申告書」
(出所:日本年金機構)
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 年金機構は扶養家族の状況を把握して所得税額を計算するために、年金受給者に毎年、申告書の提出を求めている。一般的な会社員が会社に提出する、いわゆる「年末調整」の書類に似ている。年金機構は年金受給者に対し、「平成30年(2018年)分 公的年金等の受給者扶養親族等申告書」を2017年8月下旬から順次発送した。

 年金機構はこの申告書のデータ入力をSAY企画に委託した。一般競争入札を経て、2017年8月9日にSAY企画と入力1人分当たり14.9円、総額見込み金額1億8254万7000円で契約したと年金機構が公表している。約528万人分のデータをパンチ入力する過程でミスがあった。

 申告書には受給者本人の氏名や住所、生年月日、マイナンバー(個人番号)に加え、扶養家族の氏名や続柄、生年月日、マイナンバー、年収、障害の有無など、多くの項目を記入する必要がある。他の官公庁や民間企業の申請書類でよくあるOCR(光学的文字読み取り装置)用紙やマークシートを採用しておらず、これでは入力を自動化しにくく、手作業によるパンチ入力に頼らざるを得ない。

 例えば、国税庁の所得税確定申告書はOCR用紙を採用している。マイナンバーや生年月日、収入金額などの数字を自動的に読み取る方式だ。年金機構がなぜいつまでも手作業による入力にこだわるのか理解に苦しむ。

 効率化に目を向けない姿勢が問題を起こした遠因でもある。リクルートジョブズの調べによれば、2017年8月時点の3大都市圏における「データ入力」担当者の募集時平均時給は1394円だ。入力1人分当たり14.9円の落札なので、単純計算するとSAY企画はデータ入力担当者に1時間当たり94枚、およそ38秒に1枚を入力させ続けなければペイできない。

 文字が汚くて読みにくい場合もあるだろう。品質チェックなどの工数も考慮すると、そもそも日本国内の賃金水準では入力が困難だったことも、SAY企画が契約に違反して中国企業への再委託に手を染めた動機だったかもしれない。