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政府主導で進む働き方改革。企業でも取り組みが進んでいる。しかし実際に本格化すると、改革にかかわる社員やその上司の思い込み、誤解がもとで、改革が進まないことが見えてきた。いわば改革を阻む厄介な存在である。
厄介な存在がどういったもので、どんな策で突破すればよいのか。日立ソリューションズの社内で長年、働き方改革を推進し、その経験を踏まえて顧客企業向けにコンサルティングを手掛けるエバンジェリストが自らの経験を踏まえて切り込む。
働き方改革の推進役としてオフィス現場の担当者と接していると、気がかりな人と出会うことがある。「夕方6時に帰るなんて嫌だ。残業してもっと仕事がしたい」と訴える人だ。ある現場でその理由を尋ねると「担当しているプロジェクトの企画書のクオリティをもっと高めたいから」という返事が返ってきた。
こういう発言をする部下を好ましいととらえる上司も少なくない。自身が若いころ、毎日残業して成果を出してきた成功体験があるからだ。管理職になってからも「残業は美徳」というイメージを強く持っているケースが多いようだ。
そのためこれまでは「成果さえ出れば、残業が多くても高く評価する」という企業が多かった。現場の社員も「成果が出るまでは、残業してがんばる」という意識を持ちがち。企業全体で「残業している人はがんばっている」と前向きに評価するのが普通だった。
しかし、これからも果たして、こう評価し続けてよいのだろうか。労働力人口が減少し、働き方改革が叫ばれている今、そういった考え方は時代遅れと言わざるを得ない。
背景には、企業が直面する人材不足がある。このような状況では「効率よく仕事ができて、プライベートに十分な時間を割り当てられる」といった職場環境を実現しなければ、優秀な人材を確保できない。そのためには、成果を出したことを単に評価するのではなく、「限られた時間の中で成果を出した」ことを高く評価する会社にならなければいけない。
そういう会社になるためにはまず、会社として高く評価するのは「残業をせず、限られた時間で成果を出す社員」であると明言する必要がある。そのうえで、社員一人ひとりが「残業ありき」でしていた仕事のやり方を見直す、現場レベルの働き方改革を推進していくとよい。
「定時で帰る」と決めると現場は変わる
「残業が美徳」になっている現場の働き方改革には、簡単で有効な策がある。「午後6時の終業時間に必ず帰る。それ以降、仕事は一切しない」という現場ルールを設定してしまうのだ。
こうすると社員は「それを達成するにはどう仕事のやり方を変えていくか」を考えるようになる。「何時までにどの仕事をどのレベルまで終わらせるか」「今日はここまでやって、続きは明日に持ち越そう」といったスケジューリングをし始めて、実践するようになるはずだ。
それでも「どうしたらよいか分からない」と戸惑う社員がいる。そういった場合、「子供を保育園に送り迎えしなければならない」といった理由で短時間勤務をしている社員を先生役に付けるのがお勧めだ。
そういった社員は、日中にしか仕事の時間を確保できない状況の中で、仕事をこなすことが求められている人たちだからだ。そのような社員を、周囲は「早く帰るなんてずるい」とよく思っていないケースが多い。それを現場の働き方改革を機に改めて、「その筋のプロ」として教えを請おう。
「午後6時の終業時間に必ず帰る。それ以降、仕事は一切しない」という現場ルールの設定と並行して、ぜひ行いたい施策がもう1つある。「ムダとりワーキング」だ。現場で手掛けている業務を棚卸ししたうえで「本当に必要かどうか」を見極め、不要な仕事をなくす取り組みである。
これをやると「この報告は毎日していたけれども、そんなに頻繁でなくてもよい。週1回にしてもいいな」「この承認フローは長すぎるので短くしよう」といった気づきを得て、策を講じることができる。