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【格闘技】

比嘉、900グラム超過で王座剥奪 日本人世界王者で初の計量失敗

2018年4月15日 紙面から

1回目の計量をオーバーしたWBCフライ級王者の比嘉大吾(左)に声をかける具志堅用高会長=東京・飯田橋のホテルグランドパレスで(七森祐也撮影)

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 日本ボクシング史上初の失態が起きた。15日に行われるダブル世界戦(横浜アリーナ)の前日計量が14日、東京都内で行われ、セミファイナルで日本新の16連続KO勝利を目指すWBCフライ級王者・比嘉大吾(22)=白井・具志堅=が規定体重を900グラム上回る51・7キロとなり、2回目の計量も行えず王座を剥奪された。日本の世界王者が計量失敗で王座剥奪されたのは初めて。挑戦者の同級2位クリストファー・ロサレス(23)=ニカラグア=は300グラムアンダーの50・5キロ。15日はロサレスが勝った場合のみ新王者となる変則タイトルマッチで行われる見込みだが、比嘉の健康状態などにより中止になる可能性もある。

 900グラムオーバーに終わった1回目の計量から約1時間半後。比嘉の所属ジムを率いる具志堅用高会長(62)が計量会場で頭を下げた。

 「重大なことが、あっちゃいけないことが起こりました。ボクシング関係者、大吾ファン、みなさんに本当に申し訳ないと思っております。本人は必死に体重を落とそうとしていましたが、汗がもう出ません!。選手を信じておりましたが、最終的には私の責任です」

 声を詰まらせ、2度目の計量を行わずギブアップするとの報告。この瞬間、日本人世界王者が初めて計量失敗でタイトルを剥奪された。

 陣営は15日の試合は中止せず行いたい意向。それを受けて両陣営、日本ボクシングコミッション(JBC)、WBCが調整し、当日の15日午前8時の計量で比嘉がフライ級リミットから10ポンド(約4・5キロ)上の55・3キロ以内であればロサレスにのみ王座の可能性がある変則タイトルマッチとして行うことで合意した。

 だが、比嘉は計量前の検診で血圧が188/99と極めて高い数値を記録するなど体調が悪く、直前に試合が中止される可能性もある。一方で、試合が行われれば公式戦として認定されるため、KO勝ちすれば比嘉は16連続KOの日本新記録を樹立する。  (藤本敏和)

<記者の目>階級上げる前に取り返しのつかないことに

 1回目の計量。900グラムオーバーとの発表が絶望的な状況を告げた。徹底して体を絞ってきたボクサーが、再計量猶予の2時間で落とせる体重ではない。比嘉は涙を流し無言で会場を後にした。

 今のボクシング界で、比嘉ほど減量に苦しむ選手はいない。15戦全勝全KOのパワーを生む胸囲は97センチ。20キロ以上も重いミドル級の村田は98・5センチだ。これほどの筋肉を50・8キロに押し込むのはもともと無理があった。

 減量は毎回、過酷を極めた。昨年5月、初の世界戦前には減量中にパニック障害を起こし救急搬送された。今年2月、故郷・沖縄での凱旋(がいせん)マッチ直前には脱水症状から足がけいれんする緊急事態を経験。本人も、戴冠から毎回「すぐにでも階級を上げたい」と言い続けてきた。

 3月1日、東京・両国国技館では前WBCバンタム級王者ネリ(メキシコ)が前日計量1回目で2・3キロもの体重超過を犯し、王座剥奪された末に元王者・山中慎介(帝拳)に2回TKO勝ち。その姿に、国内のボクシング関係者は激怒した。

 唯一の例外が、3月4日に鹿児島・徳之島で合宿していた比嘉だった。

 「俺は責められないです。毎試合(体重を落とせるか)不安でしょうがないので、どうしても自分がオーバーした側に立って見てしまう。ネリがたたかれてるのを見ると、もしやったら自分もこうなるのかと思う。怖いです。取り返しがつかないことになる前に階級を上げたい。周りから何と言われても次をフライ級最後の試合にしたいと思ってます」

 だが、階級を上げる前に取り返しのつかないことが起きてしまった。同情の点もいくつかあるとはいえ、プロとしての責任を果たせなかった重い事実が残った。すべての試合をKOで制し、一歩リングを離れれば人懐っこく誰からも愛された22歳は、リングではなく、測りの前でボクシング人生最大の危機に立たされた。 (藤本敏和)

 

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