シスジェンダー男性の役者、マット・ボマー(Matt Bomer)がトランス女性の主人公を演じる映画『Anything』のトレイラーが公開されました。これを受け、シス男性がトランス女性役を演じることの問題を、ジェン・リチャーズが改めて指摘しています。
詳細は以下。
The Trailer For "Anything," Starring Matt Bomer As A Transgender Sex Worker, Is Out | NewNowNext
トレイラーはこちら。
この作品を始め、『リリーのすべて』、『トランスペアレント』など、ハリウッドではシス男性がトランス女性の役を演じた作品があいついで発表されています。このようなキャスティングに関してはさまざまな議論があり、本作品へのマット・ボマーの起用についても、トランスの女優/脚本家/プロデューサー/アクティヴィストのジェン・リチャーズ(Jen Richards)が以前から明快に批判していました。ジェンはこのトレイラーの公開を受け、以下のようにツイートしています。
訳:「メンションでわかったんだけど、マット・ボマーがトランス女性を演じる映画『Anything』が公開されるの? 前に言ったことを繰り返す気はないけど、最初にニュースを聞いたときにわたしが言いたかったことはここで見られます」。
ツイートに添えられている動画は、ジェン・リチャーズが2016年に公開したもの。大事な話がいっぱい出てきますが、その中でも特に重要だと思われる点を箇条書きにすると、こんな感じ。
- トランス女性の役をシスジェンダーの男性に演じさせるのは、わたしたちの文化の中に、「トランス女性は本当は男なのだ」という発想があるから
- 本物のトランス女性の役者は、「トランスらしさが足りない」としてトランス女性の役を落とされてしまいがち。つまり、「男」に見えなければトランス女性の役がもらえない
- ちなみに「そもそもトランスの役者がいない」というのは間違い。『タンジェリン』などを見てもわかる通り、実際にはたくさんいる
- マット(ボマー)もジェフリー(タンバー)もエディ(レッドメイン)もすばらしい演技をする人だが、論点はそこではない
- 問題は、このようなキャスティングのせいで、社会の中の「トランス女性は『男』だ」という発想が強化されてしまうことにある
- この発想はトランス女性への暴力につながっている
- 米国だけでも今年(2016年8月時点で)19人、そして世界全体では何千人ものトランス女性が殺されている
- シスヘテロの男性の中にはトランス女性に惹かれる人たちがいるが、彼らは周囲から「トランス女性が、つまり『男』が好きなのだからこいつはゲイだ/男らしくない」と思われることを恐れる
- そして、自分の男らしさを証明しようとしてトランス女性に暴力をふるい、時に殺してしまう
- 有色人種のセックスワーカーなど、弱い立場のトランス女性が特にその被害を受けやすい
- 芸術の自由は大切だが、それは人命を犠牲にしてまで追求することではない
少しでも海外ニュースを見ていれば、ジェンの言っているような暴力事件の実例はいくらでも思い出せるはず。2013年、ジェイムズ・ディクソン(James Dixon)という男は、ニューヨークでイスラン・ネットルズ(Islan Nettles)さんを口説こうとした後、彼女がトランスだと知って「猛烈に怒り」(本人の証言)、殴り殺してしまいました。米ミシシッピ州のギャング団の一員ジョシュア・ヴァラム(Joshua Vallum)は、元彼女のメルセデス・ウィリアムソン( Mercedes Williamson )さんがトランスジェンダー女性だということを隠していて、それが友人にばれたため、2015年にメルセデスさんを殺害してしまいました。2016年、ドウェイナ・ヒッカーソン(Dwanya Hickerson)という元米国海軍軍人は、ディー・ウィガム(Dee Whigham)さんというトランス女性とセックスした後、彼女がトランスジェンダーだと知って「自制心を失い」(本人の証言)、ナイフで119回も刺して殺してしまいました。こうした現状がある以上、ジェン・リチャーズの主張は無視できないと自分は思います。「トランスの役者がシスの役をやってもいいんだからその逆もOKなはず」という人もいるけど、そう単純に反転させられるものではないと思うのよ。
IMDbによれば、『Anything』の米国での公開は2018年5月11日から。マット・ボマーの演じる役は、「フリーダ」という名のトランスジェンダーの娼婦だそうです。