ShionMurray’s blog

イングランドで学んだ事を発信していきます。サッカーを1から学べる教科書のようにしていきたいと思っています。

日本人の特徴は持久力があることだって言うけど、そもそもサッカーに求められる持久力って?

ちょうどこの記事を書こうと思っていた際に、ハリルホジッチ監督が解任され、田嶋会長が「日本人らしいサッカー」という事を何度か会見で言っていました。

その中で日本人らしいサッカーのフィジカル的特徴は、「俊敏性、持久力を活かしたサッカーである」という風に述べられており、なんだかざっくりしすぎて具体的な絵が浮かばないなという感想を持ちました。

俊敏性とはおそらくアジリティの事を指していると思われるので、アジリティについて詳しく知りたい方は アジリティについての考察 を読んでみてください。

で、サッカーにおいて日本人は最後まで走り切るという風にも言われていましたが、サッカーでトップレベルに行くためにはどのような体の準備をしていけばいいのか?エリートレベルの選手はどのような持久力を持っているのか?その前提となるものとは何なのか?

そして最後にポジションやシステムにおいて違いはあるのか?という事を今回の記事で明らかにしていきたいと思います。

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まず結論から言いますと、

スプリントとHigh Intensity Runningの「質と量」を最後まで維持する

という事がトップレベルでプレーをする前提である、と研究で言われています。

 

研究によって若干の差異はありますが、それぞれの定義は

・スプリント 25.2km/h以上の速さ

・High Intensity Running 19.8 – 25.2km/h

 

速さには個人差があり、もしかしたら22km/hがMaxスピードの選手がいるかもしれません。その選手にとってそのスピードがスプリントかもしれませんが、研究の便宜上このようになっています。

 

ではどのくらいの頻度でスプリントとHigh Intensity Runningが試合中に行われているのでしょうか?

Di Salvo の研究から、プレミアリーグを例に見ていきます。

まず、総走行距離は平均して、10.8±1.0km 走っています。

High Intensity Runningは 681~693m。

スプリントは 248~258m 走っています。

見ていただければわかる通り、案外少ないんです。

試合中に高い強度で走るのは全体の8.6%しかないんですね。

しかしその量、すなわち頻度がエリートレベルでプレーする前提となっているわけです。それは、この高い負荷の走りが試合の重要な局面を左右するからです。

頻度とは、回復とも言えます。一度スプリントを行ったあと、どれだけ早く次のスプリントを繰り出せるか、という事です。

レイモンドフェルハイエンも本で述べていますが、

X.X..X…X….X…..X……X

よりも

X.X.X..X..X..X...X...X...X...X

の方がいいのは明白です。

(Xの間のピリオドは回復時間を表しています)

 

さきほど述べた総走行距離やスプリントのデータは全選手の平均です。ここにはポジションの違いが示されていません。

各ポジションによる違いは以下です。(GKは含まれていません)

 

総走行距離

CMとSHの選手はチームで一番距離を走っています(約12~13km)

CBが一番少ない距離を走っています(約10kmかそれ以下)

FWとSBは10.5~11.5kmほど走っています。

 

High Intensity Running

SHが一番走っており、900~1050mほど走っています。

CMは 700~765m。

FW、SBは 900~970m。

CBが一番少なく 500mほど。

 

スプリント

SH、FWが 260~350m で一番走っており、

CMが一番少なく 140~170m しかスプリントしていないことがわかっています。

不満なのが、ディフェンス陣のデータがなかったことです。

 

また試合の局面(ボール保持、不保持)や勝敗、システムによってもポジションごとに負荷が変わります。

Bradley and Noakes 2013 が示した試合の勝敗における傾向を見ていくと

CBは勝つ試合において High Intensity Running が 10~17% 少ない傾向があり、ディフェンス全体で見ると、重要な試合の後半に High Intensity Running が減る事がわかっています。

FWは勝つ試合において、負け試合に比べると High Intensity Running が 15~54% 多くなります。

サブの選手の場合、例えば15分出た場合、90分間出場した試合の総走行距離やHigh Intensity Runningを6で割った数字よりも多く走っているという事です。要は張り切っていつもより走るという事です。

 

Di Salvoら(2009)は試合の局面における走りの傾向を示しています。

保持時においてはサイドバックがもっともHigh Intensity Runningを行っており(498m)、CB (489m)よりも中盤の選手は走っています。保持時においてはFWが一番少なく、331mでした。

相手がボールを持っている時はFWの High Intensity Running 一番多く (566m)、中盤サイドがそれを追います (505m)、CBが一番少ない結果 (179m) となりました。

 

Bradleyら (2011) が示したフォーメーションによる違い(4-5-1、4-3-3、4-4-2)ですが、フォーメーションによってフィジカル全般の要求は変わらないが、High Intensity Runningに影響はある、としています。

4-5-1と4-3-3の攻撃陣は相手ボールにおいて、4-4-2の攻撃陣と比べると、37~68%も多くHigh Intensity Runningで走っています。などなど。

 

また、これらはプレミアリーグをサンプルにした研究でしたが、Dellealら (2011) はスペインをサンプルに同様の研究を行っており、リーグごとの違いを明らかにしています。

 

リーグごとに若干の違いはあるにせよ、ポジションやシステムによって求められる走力は変わりますし、選手一人ひとり持っている特徴も違います。

このことから、私は「日本人の特徴は持久力があることだ」という主張に違和感を覚えています。

ポジションごとに特徴は変わるし、なにも日々持久力を高めている努力をしているのは日本人だけではないからです。最初に述べたように、トップレベルでプレーするにはHigh Intensity Runningとスプリントを繰り返すことができる、というのが 前提 なのです。

私が知っているのはプレミアリーグのことですが、トップやアカデミーでは、学術的なバックグラウンドを持ったS&Cコーチが日々体力面の指導をしています。このブログ記事で使った研究はほんの一部です。彼らはより深い理解をし、現場に落とし込んでいるので、「体力が武器」なんて決してひとくくりにせず、選手一人ひとりの長所を伸ばしています。

最後に日本サッカー協会の批判で終わるのは少し気持ちが悪いですが、欧州でこれだけポジションやシステムごとの走力の違いを明らかにしているのであれば、日本でもしているはずです。日本とサッカーの列強国と比較をして、どこが特徴で、どこを伸ばしていくべきかを、あいまいな表現をせずに方向性を示してほしいと思いました。

 

今回は、Soccer Science (2016) 内のGreg Dupont and Alan McCall, Targeted Systems of the Body for Trainingをかなり参考にしました。Soccer Scienceは全25本の研究をまとめた本で、フィジカルだけでなく、戦術や心理学など多岐にわたっており、サッカーを学術的に入門し、理解するにはおすすめの本です。