2018年4月13日 20:20
「違法業者どもーっ! 作品の横取りは絶っ対に許さねえ!」名探偵コナンがそう叫び、海賊版を買わないこと、違法サイトを見ないこと、偽キャラクターグッズを買わないことを一般消費者に呼び掛けるYouTube動画が、3月下旬に公開された。映画やアニメ、テレビ番組、音楽、ゲームなどのコンテンツの権利者団体である一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)と経済産業省が、若者向けの知的財産権保護啓発キャンペーンの一環で制作・発信したものだ。若者のYouTube視聴者をターゲットに、動画CMとしても配信しているという。
コナン作品中ではいわば敵役である怪盗キッドも登場し、「どんなにソックリでも、本物はたった1つ……だろ? コピーをいくら買っても、権利者には還元されないんだぜ」と説明。さらに「安易に見ることが、違法アップや違法サイトを助長しているんだ!」と工藤新一が訴える。
このほか、ポスターも制作。キッドとコナンが並んで「NO! 海賊版・違法サイト」を掲げている。
CODAのような権利者団体といえども、一般消費者/インターネットユーザーに対して海賊版サイトを見ないよう呼び掛けるのは、これまでにない異例のことだ。というのも、例えば、常識的にいけないことだというイメージはあると思うが、海賊版ソフトや偽ブランド品を買うこと自体が罪に問われないのと同様に、海賊版サイトを見ること自体も違法ではないからだ。
確かに、違法にアップロードされた映像や音楽と知りながら、それらをダウンロードすることは著作権法で禁じられている(ダウンロード違法化)。しかし、現在問題になっている海賊版サイトはストリーミング配信を視聴する方式のため、ダウンロードに該当しないという。また、そもそも、この規制に該当するのは映像・音楽やゲームソフトなどのコンテンツに限られ、静止画像であるコミックなど書籍コンテンツにまでは及ばない。
こうした事情もあり、従来の知的財産権保護啓発キャンペーンといえば、法律に基づいた範囲、すなわち、権利者に無断でコピーしてアップロードしてはいけない――といった、違法行為をやらないよう呼び掛けるのが関の山だったという。
今回、違法・適法という枠を超えて、海賊版・違法サイトを見ること自体をやめるよう呼び掛けるというのは、かなり踏み込んだ取り組みと言える。キャンペーンに至った経緯を、CODA代表理事の後藤健郎氏(一般社団法人日本映像ソフト協会専務理事)に聞いた。
後藤氏は、政府の知的財産戦略本部の会合において、こうした海賊版サイトの“ブロッキング”の導入を訴えてきた人物でもある。「漫画村」「Anitube」「MioMio」といった海賊版サイトに対して、権利者側では手の打ちようがなくなってきている危機的状況であることを訴えた。
日本に向けて侵害コンテンツが垂れ流し、もう術がない……
CODAは、経産省と文化庁の支援を受けて2002年に設立された。「日本のコンテンツの海外展開の促進とその障壁となる海賊版対策」が目的であり、中国をはじめとする海外において、日本のコンテンツの海賊版を販売する業者の摘発などを進めてきた。あわせて、日本の権利者が各国の現地事業者とライセンスを締結することで、現地で正規のコンテンツが流通するような環境づくりも推進。その結果、従来は日本から行っていたような現地の海賊版業者に対する刑事告訴や訴訟などの手続きを、正規ライセンスを受けた現地事業者が行うことで、迅速に刑事摘発に漕ぎ着けられるといった成果も出てきているとしている。
また、インターネット上の海賊版コンテンツに対しても、2009年より「自動コンテンツ監視・削除センター」を運営。動画サイトなどに無許諾アップロードされた動画をフィンガープリント技術で自動認識し、動画サイト運営者に対して削除要請を出す活動も行っている。2016年6月からは、テレビ放送と同時並行してフィンガープリントを生成する「エア受け」という仕組みも導入し、テレビ放送直後から無許諾アップロードされる動画へも対応した。同センターがこれまでに中国、韓国、米国、フランスの動画サイトに出した削除要請は累計27万6719件(URL)に上り、その97.97%が削除される実績を挙げているという。
海賊版天国などと揶揄される中国の動画サイトでも、例えば「Youku」は、8万9980件の削除要請に対して8万9906件について削除対応しており、削除率は99.92%に上る。このほか、「Dailymotion」は削除率100%、「YouTube」で99.90%、「fc2」で99.11%などの実績が出ている(統計データはいずれも、2011年8月~2017年3月のもの)。
その一方で、同センターからの削除要請には応じないサイトや、以前は対応してくれたサイトがその後、削除に応じなくなるような事例もあるという。
例えば、中国の「MioMio」は、2011年8月~2017年3月の実績として、削除要請数577件に対して削除数549件、削除率95.15%となっているが、後藤氏によれば、現在まで、削除要請に応じないまま無許諾アップロード動画を公開し続けているという。これに対してCODAでは、中国国家版権局へ情報を提供。2017年3月に行政指導が入り、罰金が科せられるまでに至ったが、MioMioはその後、“ジオブロッキング”という手法で規制を回避して、サイトを継続しているというのだ。
これは、同サイトを利用できる国・地域を制限するもので、中国国内からは同サイトを利用できないよう設定した。すなわち、中国国内に対しては違法サイトのサービスが提供されず、違法ではなくなったため、中国当局ではそれ以降、取り締まることができなくまってしまったのだ。もちろん、日本からは従来どおりアクセスできるため、日本向けには無許諾アップロード動画が垂れ流しの状態だと、後藤氏は説明する。
ブラジルの「Anitube」も同様のパターンだ。ブラジルの警察当局に告訴し、2017年10月に被疑者の起訴まで漕ぎつけたものの、ジオブロッキングにより米国とブラジルからのアクセスを遮断。閉鎖されないまま、日本向けにアニメの無許諾アップロード動画が配信され続けているとしている。
このほか、そもそも削除要請窓口を設けておらず、運営者の特定が難しいいサイトもあり、例えば「漫画村」がこれに該当する。後藤氏によれば、同サイトのドメイン名は、顧客の秘匿性を売りにしたドメイン名登録代行サービスを使って登録されている。また、サーバーもCDNサービスに置いていることから、そこからはサイト運営者を特定できず、発信者情報開示請求をしなければならないことから時間と手間がかかるとしている。
Alexa Traffic Rankによると、2018年2月時点の漫画村のランクはグローバルで1710位。その97%以上が日本からのアクセスとなっており、日本に限れば87位という、いわば人気サイトのクラスに入る。このようにかなり大きな規模で海賊版コンテンツの配信が継続している状況にあるのが実情であり、特に2016年から2017年にかけて、こうした海賊版サイトによるオンラインの著作権侵害が進展してしまったという。
「我々が権利行使しても、日本に向けて侵害コンテンツが垂れ流しになっている。こうなるともう術がない、危機的状況である。最後の手段としてブロッキングをしてくださいとお願いした。漫画村が矢面に立っているが、あのような状況が改善できないということは問題だし、ドメイン名登録代行サービスやCDNは誰でも利用できてしまうサービスのため、漫画村のようなものがいくつもいくつも出て来る可能性がある。クールジャパンとしてマンガやアニメで外貨を稼ごうと言っている日本政府の立場からすれば、こうした状況がどう見えるのか? (日本政府としてもブロッキングを)検討してほしいと提案した。」(後藤氏)
後藤氏は2月16日、知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会の会合で、ブロッキング対象にすべきサイトの種類などについて具体的に提案。これに対して、出版業界やアニメ業界などから賛同が得られたという。
その後、知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議が4月13日、海賊版サイトのブロッキングに向けた法整備の方針を決めたことは、各メディアで報道の通り。法整備が行われるまでの措置として、「漫画村」「Anitube」「MioMio」の3サイトおよびこれと同一とみなされるサイトに限定して、ブロッキングを行うことが適当としている。CODAも同日付で、これを歓迎するコメントを出した。
ブロッキングは「漫画村」「Anitube」「MioMio」だけ
海賊版サイトのブロッキング導入議論については、つい最近になってにわかに動き出した印象もあるが、後藤氏はすでに2016年2月に行われた知的財産戦略本部のヒアリングで、リーチサイト規制の法制化や、海賊版サイトにおけるオンライン広告配信の問題とともに、ブロッキングの運用について提案していたという。
しかし、総務省や通信事業者との歩み寄りがなく、すり合わせもないまま、今年2月の提案に至ったかたちだ。今後、ISPに協力してもらうために話し合いをしていかなければならいとし、今回、CODAがISPにお願いするのは、前述の3サイトに限定したブロッキングであり、双方にとって過度の負担にならないレベルで、効果的なブロッキングを共同でやっていきたいとしている。具体的には、CODAが求めているブロッキング対象サイトはあくまでも3サイトだけだと強調。ただし、そのサイトがドメイン名を変更するなどした場合は、それを迅速に追跡して再ブロッキングできるよう徹底することは必要だとしている。そうした場合も含め、ブロッキング対象サイトの選定は権利者側が行う。
すでに日本で唯一認められている児童ポルノのブロッキングについては、通信事業者業界が業界団体「一般社団法人インターネットコンテンツセーフティ協会(ICSA)」を新設、識者なども含めてブロッキング基準を策定し、ブロッキング対象とする個々のサイトの判定も同団体が担っている。児童ポルノという重大な犯罪に対して、いわば、ブロッキングのためのコストを通信事業者業界が負担しているかたちだ。
これに対して海賊版サイトのブロッキングについては、当面はCODAが権利者側の代表として、その業務をする考えだ。ただし、ゆくゆくは厳格な審査機関を設置することを議論する必要があるとし、審査機関の運用コストも含め、海賊版サイトのブロッキングについてはコンテンツ業界としてコストを負担するのは致し方ないとしている。
リーチサイト対策の法改正議論は続く、海賊版サイトの広告封じも動き出す
なお、リーチサイト規制については、これに対処できるようにするための法改正を求める要望を、後藤氏が知的財産戦略本部に出した2016年2月以降、文化庁の文化審議会で2016年度から2017年度にかけて慎重に議論されており、まだ結論は出ていない。引き続き同審議会で議論を行い、2018年度には結論を出すとの方向だけ決定しているという。
また、オンライン広告の問題については、削除要請に応じない動画サイトのほか、悪質なリーチサイトを含む17サイトをCODAがブラックリスト化。広告業界3団体に対して2018年2月より、それらのサイトへのネット広告の配信を自粛するよう要請しているとした。
ブロッキングよりも効果的な海賊版サイト対策とは
冒頭でも述べたように、海賊版サイトを見ること自体は違法ではない。CODAでも啓発動画の公開当初は、「でも、違法じゃないよね?」「何で見ちゃいけないの?」と突っ込まれて炎上するかもしれないと考えていた。しかしCODAが把握している限り、そうした批判はなく、逆にきちんと購入してくれている人たちから応援のコメントもあったという。
「海賊版サイトを見ることは、違法行為を手助けすること。みんなが見なくなれば、広告収入もなくなり、海賊版サイトは衰退する。消費者に対して『安易な気持ちで海賊版サイトを見ないで!』と訴える広報・啓発活動を具体的に進めていかなければならない段階に来ている。」(後藤氏)
「みんなの行動が最も効果的な海賊版対策であり、クリエイターの支えになるんだ!」(江戸川コナン)