オックスフォードの看板学部、PPE(Philosophy, Politics and Economics)を勉強して

オックスブリッジの社会的意義Ⅱ
オックスブリッジ卒業生100人委員会

また、オックスフォードは文系の歴史が長いからこそ教授のレベルも高い。私も在学中各分野で有名な教授から講義を受け、参考図書もオックスフォード大学の教授が筆者であることが多かった。PPEに限らず、このように各分野の先駆者から学べる事を売りにしているオックスブリッジに世界中から生徒が集まってくるのは不思議でない。私の周りにも少数派ながらヨーロッパやアジアからの留学生がPPEを専攻していて、将来彼らのようなPPE卒業生が世界でも活躍するのではないかと期待している。

さらにPPEは文系のジェネラリスト志向の学生にとても魅力的だと思う。政治家やジャーナリストを目指す学生は、歴史や法律のように特定の分野に絞って勉強するよりは、幅広く多くの事を学びたい人が多いと思う。そのため、PPEという学科を選択するのは自然ではないかと思う。

「PPEでは結局皆何も身に付かず、論理的にでたらめが言えるようになるだけである」、「結局PPE卒業生はコネだけで成功しているのでは」と、イギリスではオックスフォードPPEに対する批判も多い。これは「blagging(ごまかす)力」に通じる意見だが、私も共感できる。知り合いのPPEの卒業生と話しても、「オックスフォードのPPEで良かったことは何一つない」や「結局何が勉強できたのだろう」等の意見も多い。しかし、私はそれでもPPEやオックスブリッジの文系科目を勉強したからこそ習得できる「何か」があると感じている。

まず、独学に近い勉強方法はかなり大変である。その中で自分で「考える」力、成し遂げる力、徹底的に議論する力が身に付く。特にPPEは3つの学問を勉強することによって全体感を持って物事を考えることが訓練される。これは学生のその後の人生において、必ず強みになっていると思う。哲学を中心に勉強したPPEの友人は「本質をとことんロジックで突き詰めて考える方法」や「多角的視点の養成」、「答えのない課題に対して考える力」等が卒業後の仕事や私生活で役立っていると話している。また問題意識を常に持つ事を教えられるからこそ、「PPEの社会的意義は?」と聞かれると、「そもそもPPEやオックスフォードに社会的意義はあるのだろうか?」と逆に問い返してしまうのもPPEやオックスブリッジ卒業生の素質だと思う。

また、オックスフォード全体、イギリス全体で「学問というものを常に追及して良い」という雰囲気があることもPPE卒業生の成功に繋がっているのではないだろうか。イギリスでは、就職を考えず大学では勉強したいことを専攻すべきだという意見を持っている人が多い。私は卒業後ロンドンの会計事務所へ就職したが、考古学や物理学科を勉強してきた同期もおり、会社側も実用的な知識だけではなく、大学時代に好きな学問に打ち込めたかという事も重視しているようだ。

PPEも良くも悪くも実用的な知識を学生に教えるということは重視していない。それよりも、多様な議題に対してとことん考え学んでいって欲しいという意向が強い。これは、卒業後の仕事を意識しているビジネススクールやロースクール等とは正反対である。PPEやオックスブリッジで文系科目を学ぶ意義とは学生一人一人が考え抜き議論をしながら、皆それぞれ違った「何か」を身に付けていくということなのかもしれない。

私にとってのその「何か」は、世の中に正解というものが一つもないという事に気が付いた事かもしれない。単純な問題であっても、育った環境、信じている思想の違いによって、正反対の意見を持つ人が存在していることが多い。また、哲学・政治・経済という多面的な観点から問題を考えることによって、自分の中での考え方も変わってくる。例えば、私は発展途上国の開発に興味があるが、哲学の倫理に触れた上で、開発経済やアフリカ政治を勉強すると果たしてどのような活動が良いのかということに疑問を持った。今でも答えは模索中であるが、このように問題に対して全体感を持ち、考えを整理していくのがいかに重要かという事は身に染みて習得できた気がする。

大学夏休み中。オックスフォード大学の学生団体を通してウガンダでのボランティア活動。

最近ではイギリスでも実用性の高い大学の有り方が問われつつある。しかし、時代遅れの考えかもしれないが、「仕事に繋がらなくても好きな勉強をする」イギリス式の考えこそがPPEやオックスブリッジの社会的意義なのではないかと私は思う。実用性がある知識よりも考える力を養えるPPEやオックスフブリッジの卒業生を認め、そのような人材の能力を伸ばしていくイギリス社会があるからこそ、PPEやオックスフブリッジに価値が生まれるのではないかと思う。そう考えるとPPEやオックスブリッジの社会的意義とはPPEやオックスブリッジそのものにあるのではなく、その卒業生を受け入れる社会全体にあるのかもしれない。

参考:
”Why does PPE rule Britiain?” BBC 2010年9月記事
http://www.bbc.co.uk/news/magazine-11136511
https://www.bbcworldnews-japan.com/uk_topics/view/0000097
“Is PPE a passport to power – or the ultimate blagger's degree?” Guardian 2013年9月記事
http://www.theguardian.com/education/2013/sep/23/ppe-passport-power-degree-oxford
LSE launches new PPE degree”

http://www.lse.ac.uk/newsAndMedia/news/archives/2014/09/PPE-degree.aspx

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                                                    オックスブリッジ100人委員会より

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