3回ほど、「家族」をテーマに原稿を書いてきました。自民党の憲法改正草案で、憲法24条に「家族は互いに助け合わなければならない」という文章が追加されていることを知ったのがきっかけです。10月5日の記事では、昨年9月に発行された本『女子の集まる 憲法おしゃべりカフェ』(明成社)において、「現行の憲法が『家族』よりも『個人』を重視している」として批判が展開されている件について、疑問を呈しました。というのも本書は、安保関連法案が議論されている際に数少ない「賛成派」の憲法学者として紹介されていた百地章氏が監修していることもあり、政権と価値観を共有していると考えられたためです。
そして先週は、第三次安倍改造内閣発足後に、国土交通大臣に就任した石井啓一議員(公明党)による「家族で支え合うことを支援するため祖父母・親・子どもの三世代が同居したり近くに住んだりすることを促進するような住宅政策を検討・実施するよう指示があった」という発言を受け、社会の基本単位を「家族」にすることの弊害を改めて検討するよう促す記事を書きました。
それにしても、一体なぜここまで現政権は「家族」に執着するのでしょうか? その背景には、「親学」という特殊な教育論があるようです。
政治に大きな影響を及ぼしている「親学」
今なぜ「親学」か。理由はいくつかありますが、ひとつは安倍晋三総理が「親学推進議員連盟」の会長を務めていること。後ほど紹介しますが「親学」はかなり偏った考え方をもった教育論であり、この親学を推進する立場を取ることは、その人が「親学」と同様、あるいは類似の考え方を持っている可能性を示しています。つまり安倍総理の「親観」や「家族観」の一端を垣間見ることができるかもしれないのです。
安倍総理だけではありません。過去に財務大臣や文部科学大臣、衆議院議長を歴任した伊吹文明議員、先日の内閣改造まで文部科学大臣を務めていた下村博文議員など、重要なポストに就いている議員も、この「親学推進議員連盟」の役員やメンバーです(今回、文部科学大臣に就いた馳浩議員もメンバーの一人です)。さらには自民党だけでなく、民主党など他の党に所属する議員もこの議員連盟に参加しています。それだけ「親学」は政治の世界に浸透しているのです。
それは「親学」の提唱者である高橋史朗氏(明星大学教授、一般財団法人親学推進協会理事長)を、政府がどう扱っているか、からも見て取ることができます。最近、ユネスコが中国が申請した南京大虐殺の資料を登録したことを受けて、自民党が拠出金の停止・減額などの検討を始めたという報道がありましたが、一連の報道の中で、高橋氏が「南京事件」を審査した国際諮問委員会に民間協力者として外務省から派遣されていたことも判明しています。それだけ高橋氏は政府に近い人間である、ということです。
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