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この特集では45歳以上のシニア世代がSEとして輝き続け、雇用する側もハッピーになるにはどうすべきかを紹介しています。前々回は雇用する側はシニアSEをなぜ避けたがるのか、前回はシニアSEとしての働き方を見ていきました。
最終回となる今回は事例編です。成功するシニアSEはどんな人なのか、どんな企業がシニアSEをうまく活用しているのかを考えます。
「結晶性能力」を生かす
前回、私たちの能力には「流動性能力」と「結晶性能力」の2種類があると説明しました。シニアになっても低下しにくいのは、過去の経験や知識が土台になる結晶性能力です。A社とB社は結晶性能力を生かす仕事をシニア世代のエンジニアに担当させ、業績を伸ばしています。
都内にあるA社はCADソフトの保守専門の会社で創業以来、売り上げを伸ばしています。社員の平均年齢は50歳前後で「今後さらに上がっていくだろう」とA社の社長は話します。新卒ではなくミドル世代やシニア世代を中途採用しており、離職率が低いのが理由です。
CADソフトの保守は結晶性能力を生かせる業務の1つです。保守対象のCADソフトの多くは既に製造中止になっています。ところが高額で高性能であることから、廃棄せずに使い続けるユーザーが多いとのことです。こうしたCADソフトのノウハウや経験を持つシニアSEは、自分が培ってきた能力をそのまま業務に生かすことができます。これが離職率の低さにつながっています。A社は現在、市場で独占的な地位を確保しているといいます。
A社の社長は、この状態が今後10年も続くとは見ていません。それでも「今の形で当面はビジネスを回せる。あと10年のうちに新たな仕事を考えていけばよい」と話します。
新潟に本社を置くリユース業大手のB社は新規事業として、高級オーディオ機器の修理サービスを始めました。そのために大手企業を定年退職した、技術力のある優秀なエンジニアを再雇用しています。
新たな事業を始めるきっかけは高校の同窓会でした。定年退職して元気をなくした友人の様子を見たB社の社長は「シニアが活躍できる場を作りたい」と考えました。役員会で提案すると、全員が猛反対。それでも何とか説得して事業を始めたそうです。
すると最初からビジネスは好調。シニア社員の説明が丁寧で、インターネットでは見つかりにくい部品を入手するスキルを持つ点が評価されました。丁寧に説明するためには、語彙力(言葉の数など)や判断力、問題解決能力といった結晶性能力がものを言います。部品の入手については、現役時代の知人に個別メールや電話などで尋ねるなど人的ネットワークを生かしているとのことです。
A社とB社の社長は「シニア世代でなければ、この仕事は務まらない」と口をそろえます。ただし、誰もが両社の社員のように活躍できるわけではない点に注意が必要です。自分が持つ経験や知識に、現在でも通用する市場価値があるかどうか。これが成功するための条件となります。