今回から始まった新連載、ハクオーことフードライターの白央篤司が、毎回ひとつの食テーマを掘り下げてお届けします。
ナポリタンの「具問題」
唐突ですが、今回はナポリタンの“具”について考えてみたいんです。
ナポリタンの具といえば、定番どころで玉ネギ、ピーマン、マッシュルームときて……他に何が浮かびますか?
- ハム
- ベーコン
- ソーセージ(ウインナー)
この3つのうちのどれか、という人は多いんじゃないでしょうか。実際レシピを調べると、「3つのうちのどれか × 玉ネギ・ピーマン・マッシュルーム」という構成はすごく多い。
うーむ。
今まで何気なくハム、ベーコン、ソーセージ入りのナポリタンを食べていたけど、作り手はどんな思いからそれぞれをチョイスしているんだろう?
どんな違いがあるのか?
どんな良さがあるものか?
急に気になっちゃったんですね。捜査の基本はまず聞き込みから、まずはその道のプロに質問してみました。
- ナポリタンを作る場合、ハム、ソーセージ、ベーコンのうちどれを使いますか?
- いずれも使わず、別のものを使う場合は何を使うか教えてください
- それを使用する理由はなんでしょうか?
こんなアンケートを実施してみたんです。 さっそく、料理家さんブロガーさんたちの回答をごらんください。
【ソーセージ派】藤村公洋さん
トップバッターはバーテンダーで料理家の藤村公洋さん。実際にバーでナポリタンを提供していた経験もおありです。いろいろ作られてきた上でのチョイスとは……?
僕はソーセージ派です。
ベーコンは薫香が強すぎてジャマになり、ハムは逆に存在感がない、というのがその理由。ソーセージはベーコンとハムの中間というか、ほどよい存在感が出るのがいいですね。
なるほど。そしてさらには
ハムとベーコンは、どちらも薄切りにすると、炒めたあとにフライパンにくっついて料理しにくいのもイヤなんです。
と藤村さんは続けました。
- ほどよい存在感
- 調理もしやすい
ということで、まず藤村さんはソーセージに1票。
編集部注※各ナポリタンの写真は執筆の白央さんが調理・撮影したイメージカットで、各料理家さんのものではありません。念のため
【ハム派】イナダシュンスケさん
続いてツイッターでも、おなじみイナダシュンスケさんにうかがってみました。
「エリックサウス」など各種レストランの業態・メニュー開発を手掛ける専門家で、先ごろは洋食ビストロ「マカロニ軒」をプロデュースされたばかり。
強いて言うと、クセも個性も薄いハムでしょうか。ナポリタンにおいて肉は主張せず、最小限であって欲しいんです。薫香とか、脂の主張のないものをごく少量使いたい。
ただし、
スパムでやる時は別。スパムはたっぷり入れたいです。スパムのナチュラルなおいしさはナポリタンを邪魔しないと思います。
とのこと。
いやはや、不勉強でした。ナポリタンにスパムという選択肢もあるのですね。検索してみればスパム派もけっこう多いよう。
ひとまず
- 肉の存在感は最小限にしたい
- クセもなく個性もひかえめ
ということで、イナダさんハムに1票。さらにハム派が続きます。
【ハム派】久保百合子さん
料理雑誌やテレビをはじめ、各方面で活躍するスタイリストの久保百合子さん。著名な料理研究家のスタイリングも長年手掛けられています。
ハムです。ナポリタンの味わいの邪魔をしないのがいいですね。ベーコンだとスモーキーさが目立ちすぎてしまう。気分転換でソーセージを使うことはありますが、基本はハム。なんならハムも使わないことも。その場合はシイタケなどのキノコを多めにして作ります。
何かが突出するのではなく、肉と野菜がなだらかにひとつになってナポリタンを作りあげる……というイメージでしょうか。あくまでナポリタンの主役はケチャップと麺、という考え方の人はハムに行きつくのかもしれない。
というわけで久保さんはハムに一票。
▲シイタケ入りのナポリタンが気になって実作してみました。これはハム入りで、シイタケ、ブナシメジ、マッシュルームを使用。コクが増して実にうまかったです!(白央)
しかし、もちろん「存在感がほしい!」という意見もあるわけです。
【ベーコン派】ツレヅレハナコさん
うちは断然ベーコンですね。ベーコンをじっくり焼いて、そのうま味と脂をナポリタンソースと混ぜ合わせ、パスタに吸わせるようにして食べるのが好きです。ハムやソーセージに比べると断然パンチが出ますよね。
インスタでも話題、数々のヒット著書でもおなじみのツレヅレハナコさんはベーコン派。ここまでは「存在感をなるべく控えめにしたい」という意見が続きましたが、逆にクッキリ存在を際立たせたい、というのもわかりますね。
ちなみにハナコさんは、良質な手づくりベーコンが手に入りやすいというのも理由の1つにあるようです。
- 3つの中では際立ってパンチが出る!
ということで、ハナコさんベーコンに1票。
【ハム&ソーセージ派】重信初江さん
おなかが空いているときはソーセージ。ボリュームが出ますからね。
ワインのおともにするときはハム。普段はハムが多いですね、つまみになります。
NHK『きょうの料理』などでもおなじみ、料理研究家の重信初江さん。豊富なレパートリーと作りやすく明快なレシピで、幅広い層から支持を得ています。そんな重信さんは、
- おつまみにするなら→ハム
- 普段の食事では→ソーセージ
という使い分け。「ハムは存在感が薄い」という意見は、別角度だと「お腹に軽く、酒と一緒に楽しむときにいい」ともなるわけですね。
そういえばナポリタンにワイン、やったことなかったな……(いつも単体でガッツリ食べて終わってしまう)。今度ゆっくり、楽しんでみよう。
ちなみに重信さん、
ナポリタン大好きなんですけど、最近ちょっと太ったのであまり作らないようにしてます(笑)
とのことでした。(;^ω^)
- 軽さを活かしておつまみならハム
- ボリュームを出したいときはソーセージ
以上が、重信さんのご意見まとめ。そしてここからソーセージ派が続きます。
【ソーセージ派】きじまりゅうたさん
ソーセージが昔から我が家の定番なんです。「ナポリタンにはソーセージが入っているもの」という刷り込みは大きいかもしれません。
NHK『きじまりゅうたの小腹がすきました!』でもおなじみ、料理研究家のきじまりゅうたさん。祖母が村上昭子さん、母親が杵島直美さんと、親子三代で料理研究を続けられています。
きじまさん、ソーセージを使う良い点はどこでしょうか?
ソーセージから出る脂分と塩味が麺全体になじむところですね。ベーコンやハムだとケチャップの強い味に対して繊細すぎる。そしてソーセージは他の食材より味にしても見た目にしても、ジャンク感が出ます。しっかり焼いて、カリッとプリッとさせて、食感も楽しめますね。高級なものより、スーパーで2パックいくらで売っているようなソーセージがいい。
なるほど、ジャンク感。
たしかにソーセージナポリタンって、ベーコンやハムでやるよりも大衆感が増すような。厚切りベーコンなら高級感とパンチが増し、ハムだと全体の統一感が出る……うーん、ちょっと見えてきいたぞ。ということで、
- ジャンク感が出る
- ケチャップにしっかり対抗
- カリッ&プリッとした良食感
以上から、きじまさんはソーセージに1票。さらにソーセージ派が続きます。
【ソーセージ派】服部志真さん
ソーセージをやや大きめの切り方で使います。慣れ親しんだ喫茶店のナポリタンがソーセージだったので「ナポリタンはソーセージ」という刷り込みがあるんです。ピーマンとの相性も良いかと。
「しま食堂」として食イベントやケータリングで活躍される服部志真さん。ナポリタンには「刷り込み」ってやっぱり、ありますね。
今回ご紹介した以外にも、食雑誌の編集者やクッキングスタイリストの方々にアンケートに協力してもらったのですが、「味わいや相性という以前に、初めて食べたナポリタンが〇〇だったので、以来ずっと使っている」と答えた方は多かったんです。
「子どもの頃に好きになった組み合わせが忘れられない」という人は、ナポリタンの場合特に多いよう。
さて、最後はとっておきのご意見番を。好みの具のほか、ナポリタンにまつわるあれこれをインタビューしてみましたよ。
【ソーセージ派】イートナポさん
ナポリタンブロガーのイートナポさん。
日本のみならず、世界を旅して今まで2500食以上のナポリタンを食べ歩かれてきました。ブログ「ナポリタン×ナポリタン」にはそのヒストリーがたっぷりと刻まれています。『マツコの知らない世界』(TBS系列)のナポリタン編にも登場されたので、ご存じのかたも多いのでは?
さっそく教えてください。
イートナポさんはベーコン、ハム、ソーセージのどれ派でしょうか?
イートナポ:ソーセージです。ただ味というよりは、見た目のワクワク感というか、インパクトとして好きなんですよ。幼少期にソーセージのナポリタンに憧れたんですね。
おお、やっぱり「刷り込み」って強いものだなあ。
▲イートナポさん好みは、ソーセージを切らず、ごろっとそのままがのっているスタイル。最近この手のタイプでヒットだったのは札幌の喫茶店「オリンピア」のナポリタンだそう。
イートナポ:同様に、ベーコンだったら厚切りであってほしい。しかし食べ歩いていて、厚切りベーコンのナポリタンはあっても、厚切りハムのナポリタンってほとんどないんです。
どうしてなんでしょう?
イートナポ:原価の問題でしょうね。個人的にはナポリタンって外で食べる場合750円ぐらいであってほしいんです。この価格だと、ハムを厚切りにすると大変じゃないですか。ソーセージもベーコンも多くは入れられない。セットでコーヒーつけて750円だったらもっと大変ですし。
たしかにそうですね。安く提供したい場合、または高級感を出したい場合、それぞれでチョイスも変わってくる……そういう視点はこれまで抜けていました。
ところで、せっかく2500食以上のナポリタンを食べたイートナポさんだからこそ、聞いてみたいことがあります。ハム、ソーセージ、ベーコン以外を使っているナポリタンで、印象的だったものはありますか?
イートナポ:それらに代わるものとなると、まずエビが多いですね。なぜかエビ入りナポリタンって横浜に多いんですよ。ほかでは魚肉ソーセージあり、ベーコンとソーセージ、ハムとソーセージの合わせ技もあり、肉無しのもあります。
おお、ベジナポですね。
イートナポ:けっこうありますよ。玉ネギにキャベツやニンジンという焼きそば系のナポリタンもあれば、ナス入りも。とあるお店ではキュウリが入っていたこともあります。さすがに驚きました(笑)。
それはオリジナリティー高い!
イートナポ:でも、基本僕はナポリタンってなんでもありだと思ってるんです。具無しで、麺とケチャップだけでもナポリタンですから。先のキュウリ入りナポリタンにしても、店主が昨日のあまりもので作ってるような感じのお店だったんですよ。それでいいと思うんです。たくさん食べてきて思うのは、ナポリタンはフリースタイルってことです。
なんでもありの世界、ということですか。
イートナポ:作った人が「これはナポリタン」と思えばナポリタン、そういう自由さがいいなと思うんですね。マニアックに定義されない自由さがナポリタンのいいところ。
うーん、ナポリタンって大きいなあ……。
イートナポさん、どうもありがとうございました。ブログ更新楽しみにしてますね。
まとめ
みなさんのご意見から、それぞれの特徴をまとめてみます。
三肉三様、それぞれの良さがありますな。皆さんはどれ派ですか?
ちなみに、図式化してみるとこんな感じでしょうか(下参照)。
実は去年、ツイッターで同様のアンケートをお願いしたんです。その結果はこちら。
投票数は1821票、結果はソーセージ派がトップ。
これ、またリプ欄が楽しいんです。「在庫一掃」とか「そのときあるもので」とイートナポさんと同意見のかたもいれば、「減塩をしているので鶏肉を入れている」というかたも。そう、ソーセージにベーコン、ハムって塩分けっこう高いんです。おとなのナポリタンはそのへんも要一考かなあ。
ナポリタン談義は尽きませんな。
今回は料理家のかたから、おいしく作るコツもいろいろ聞きました。また別にナポリタン企画、考えてみます。長くなりましたが、以上ナポリタン具の一考察でした!