新入社員に伝えたい本当のトコロ
2018年04月13日
所ジョージ。いくつものレギュラー番組を抱えるお茶の間の人気者で、クルマやバイク、模型など、趣味を全力で楽しむ人生の達人。「理想の上司」ランキングの常連でもある。
そんな所さんの仕事場兼遊び場である「世田谷ベース」にお邪魔して、この春、新たな一歩を踏み出した新入社員たちへのメッセージをもらった。
(取材:BuzzFeed Japan 神庭亮介)

――「理想の上司」ランキングでは常に上位にいますね。新入社員向けにアドバイスをお願いします。
「理想の上司」って言われても、自分ではなんかピンとこない。「所ジョージ」って字面も簡単だし、聞かれた時にパッと出やすいだけなんじゃない?
たとえばお笑いの世界だと、さんちゃん(明石家さんま)の下に誰それがいて、中堅がいて、若手がいて...ってわかりやすいじゃん。でもウチの事務所はそういうこともないし。
そもそも人に何かを教えようとか、それは違うよって否定するつもりがないの。ある人が困っていたとするじゃん。困っているのもその人の人生だから。そこでいいアドバイスをしちゃうと、人生の邪魔してるような感じもするのね。
――たとえ的確なアドバイスだとしても。
そう。アドバイスでその人が解放されたとして、そんな簡単に解放されちゃうと人はつまんないから。自分で考えるのが一番楽しいわけで。
人の話を聞いて、「こうするといいよ」って段取り通りにいくと、あんまり手応えを感じない。何も聞いてないのに、そこまでいけた自分の方が立派でしょ。その方が感動できるよ。
人の言うことを聞いてなくて、失敗したとするじゃん。聞いとけばうまくいくのに。だけど失敗も捨てない、なかったことにしない。怒られたことを削除しないっていうこと。それも自分の経験だから。

あとはね、失敗した時に「一生懸命やったんですけど」って泣き言は言っちゃダメ。一生懸命やったのにできなかったら、「じゃあ、お前じゃない方がいいな」って他の人に代えられちゃうでしょ。
「ちょっと怠けてました」って言う方がまだいいよね。その場で怒られても「次はちゃんとやれよ」でもう1回復活できる。だから、自分の「底」は見せない方がいい。
――配属先や仕事の内容が希望通りにならず、腐ってしまう人もいるかもしれません。
腐る人には誰も見向きもしないよ。ペンキ塗りを頼まれた子どもがニコニコしながらやっていたら、「楽しそうだから俺にもやらせて」って友達がやってくれる話があるでしょ(『トム・ソーヤーの冒険』のエピソード)。
コピー取りでも何でも、ハツラツとやる。そうすると、上司の目に留まって「アイツは頑張ってるな」って次の部署に引っ張られるキッカケになるかもしれない。
みんな目の前の仕事が木の幹だと思っちゃうんだよね。「いい大学出て、会社に入ったのに、何でこんな仕事なんだよ」って変なプライドが出てきちゃう。だけど、細い枝みたいなところで「これは俺の幹じゃない」って言ってもしょうがないよ。
ハツラツとやっていれば、幹以上の太い枝が出てくる。「この仕事は合ってるな」って思うところを幹にしちゃえばいいわけで。

――壁にぶつかって、挫折しそうになった時はどうすれば。
挫折をよけるのは簡単なの。
いい茶碗を使ってたけど、ひび割れて使えなくなっちゃった。茶碗ランキングでは相当下がっちゃう。でも下に穴ボコ開けて植木鉢にしたら、トップクラスの鉢になるかもしれない。
「トップの植木鉢になってやる!」って考えたら、ハツラツとできるじゃん。
俺は「苦節5秒」って言ってるんだけど、時間が経つと全部のことが笑い話になるから。
時には、自分で自分に目をつぶるってことも大事。ごまかしたっていいのよ。「俺はこんな器じゃない」なんて言い出すなってこと。
――所さん自身、シンガーソングライターとしてデビューしながら、タレントや司会業という別の領域でブレイクされた経験の持ち主です。複雑な思いはなかったのでしょうか。
20代で歌手デビューして、30代ぐらいまでは「何で売れないんだよ」って思ってたよ。だってそっちを目指してたんだから。最初のうちは逆ギレだよね。「どうせ聴かねえんだろ、お前ら!」って。
そこで音楽を辞めちゃって、司会業としてニコニコ暮らす方向にも行けたわけ。でも40年もやっていると楽しくなってきちゃって。聴かれない歌をどんどんつくる、みたいな。おかげさまで60過ぎていまだに歌をつくってる。
どこかからか面白くなってくるのよ。だからみんなも、途中で「俺には向いてない」とか「つまんない」とかジャッジしないで、やり始めたことはずっと続けた方がいい。人生は長いんだから。
役者さんで売れなくても、会社員になって全部辞めちゃうんじゃなくて、ちょっと匂いのするところにいる。「もう辞めたよ」ってウソついて、内緒でやればいいと思うんだ。

――父から娘への愛情を歌った『ご自由にどうぞ』をはじめ、隠れた名曲がいっぱいあります。音楽評論家の萩原健太さんは、所さんのことを「日本で一番過小評価されているシンガーソングライター」と評していました。
それでいいの。過小評価に値するってところがすごく大事なんだな。
――YouTubeにもたくさん曲をアップしてますね。
ここ最近だけで20曲ぐらいあげてる。「またあがってる! この人、限界がないんだな」って呆れさせたいんだよ。
広告も入れてないの。こんなんでお金もらうなんて、俺も良心があるからさ。YouTubeはゲーム。バカみたいに歌つくって、あげるのが面白くてしょうがない。
――なんでYouTubeでは「所ジョージ」ではなくて、「世田谷一郎」名義なんでしょう。
野球選手のイチローってスゴイじゃん。「一郎」にしておけば、釣られて来る人がいるんじゃないかなって。
――所さんの名前で出した方が確実に再生されると思いますが(笑)
その考え方がセコくて面白いなと思って。動画を見てても、自分で自分に笑っちゃうの。俺が一番見てる回数が多いと思うよ。この曲なんて、800回再生のうち600回は俺が見てるね。
誰に手伝ってもらうわけでもなく、自分で作業して、リズムを変えたりして。そんな自分が超カッコイイわけ。こんなんでレコード大賞取りたいんだよ。直木賞でもいいからさ。
大人数のオーケストラがいて、誰もが立派に見えるような曲で賞もらったって当たり前でしょ。自分だけのもので評価されたいっていうのがすごく強いよね。
――便器のことを歌った『いいなり』とか、題名そのままの『カミさんがパチンコでとってきたアンパンマンの風呂桶セット』とか、普通だったら絶対歌にしないような素材を歌にしていますよね。
芸能界、歌謡界っていうでっかい山があって、そっちでは福山雅治が桜のことを歌ってる。
だけど、俺は梅を歌いたいの。誰も相手にしない梅。梅干しなんかできちゃってさ。『桜より梅を歌え』なんてすごく庶民的な、実質的な歌になってくわけよ。そっちの方が面白いやって。ちっちゃい山をつくりたいわけ。

――過去のインタビューでは「芸能界は敵」なんて過激発言もしています。世間では所さんこそ芸能界のど真ん中だ、と思っている人も多い気がしますが。
芸能界はあっちの山。たまに行って、5合目ぐらいまでは登るのよ。で、おみやげ売り場でおみやげ買って、リラックスして車で帰ってくるぐらいの感じ。そこの高みは、さんちゃんに任せておけばいいの。
俺は山頂まで行かない。おみやげ物もあんまりないし、行くのはつらいから。
――『明石家さんまさんに聞いてみないとネ』という曲もありますが、さんまさんとはどういう関係なんでしょう。
「騒がしく面白いことを言う人」ってみなさん思ってるでしょ? さんちゃんが面白いのは、瞬発力がすごくあるの。後輩の面倒見もすごく良くて、「お笑いとは」っていう考え方がしっかりしてる。そこを俺に言われると、照れるんじゃない、きっと。そうやって照れちゃうところも好きだし。
あの人はルールが全部ある。「こう言って、こう言ったら、こうなる」っていうキャッチボールのルール。お笑いの本とか書くんだったら、そっちの方が正しい。
俺は物事が起きなきゃわからない、というところでやってるので、感覚は全然違うんですよ。ただ一緒にいると、瞬発力がすごいね。
――ご自宅にさんまさん用の部屋があるって本当ですか? さんまさんがずっと独身だった時のために用意してあるっていう。
いまはもう、カミさんのミシン部屋にしちゃった(笑)
さんちゃんが年とって、一人で行くところがなくなったらここに住めばいいじゃない、っていう話をしていたんだけど、いまもハツラツとやってるからね。
――ビートたけしさんも世田谷ベースにはよく来られるとか。
来る、来る。北野さんは底抜けですごく面白いんですよ。
さんちゃんと北野さんの二人に言えるのは、どんな素材を渡しても大丈夫ってこと。木魚だろうが、釣鐘だろうが、すごい笑いをつくっちゃう。
死体を持っていっても笑いをとるよ。「体温下がってまんな」とかなんとか言いそうじゃん。
かたやタモリさんは、自分のなかから出てくるもので上手いことやる感じ。そこが二人とは違うね。ゲストが出てきても丁寧じゃん。暴言言ったり、つついたりしないでしょ。

――たけしさんが編集長、所さん副編集長で『FAMOSO』(2009年)という雑誌もつくっていましたね。「フィクションスクープマガジン」と銘打って、「銀座名物、流しの立小便屋」とか「謎の巨人が本栖湖で入水自殺!」とか、メチャクチャやってる。
『FAMOSO』はね、もっと評価されたかった。
――Amazonのレビューも高評価でしたけど。
そんなんじゃダメよ。5千万部ぐらい売らないと。国が買い上げてくれればなあ。
あの雑誌は、毎週土日にここ(世田谷ベース)に北野さんが来て、一緒につくってたわけ。「こういうのやろうぜ」って世間話して、そこからつくり話を考えて。衣装を集めて、撮影して、写真をコラージュして...っていうのを繰り返すの。
人に頼むと思い通りのデザインにならないから、全部自分でやって。3、4冊出したら、俺はもう限界だったね。北野さんは「またやろうよ」なんて言ってるけど、いやいや。アンタはいいけど、俺は大変なんだよって。
でもお陰様で、いまだに俺が一番楽しめるの。こんなことやった、あんなことやったなあって。
湖に巨人のでっかい靴を置いてみたり、畑でモアイ像発見!みたいな写真を撮ったり。朝方、犬の散歩してるおじさんに「ご苦労様です」なんて言われながらさ。お地蔵さんに間違われて、モアイの前に果物置かれちゃったりして。もう、おかしくて、おかしくて。
――そういう大変さは苦にならないわけですね。
ならない。面白いもん。早起きしたら早起きしたで、この空気感、小学校の夏休みのラジオ体操思い出すなあ、とかさ。すごく楽しいよ。
たとえばの話、体にいいって聞いたものを並んで手に入れたとする。人より先に手に入れて、サプリメント飲みながら仕事する、みたいな。でもそれって不健全じゃん。
「健康」より前に「健全」を考えないと。トースターで焼いたパンをそのままかじって家を出るんじゃなくて、皿を置いて、紅茶を淹れて、バナナを添えて。ゆっくりした雰囲気のなかで食べるってことが健全なの。
面倒くさいけど、皿を洗うとか、雑巾を絞るとか、そういう刺激が大事。冷たい水は触らない、いいところだけを口に入れる、っていうのは健全でも健康でもないと俺は思うのね。

――きちんと暮らす、日々を楽しむことが大切だと。
昨日と同じことの繰り返しはつまらない。「何も起きなくて平凡だ」なんて言ってたらダメ。生きてる意味ないぜ。昨日より今日、今日より明日が充実してなきゃ。
充実っていうのは、何でもいいのよ。「朝、クツをはいた時に指も使わずかかとがサッと入ったぜ」とか。それだけで満足なんだ。前の日の俺、ちょうどいいところに脱げてたんだなって。
会社がつまらないと言うけど、実は自分がつまらないだけってこともある。そんな時は、会社へ行くまでのアプローチを変えてみる。最寄駅を使わないで、わざと遠回りしたりさ。
そうすると違う発見があるわけ。「こんなところに素敵なお店があるんだ」とかね。綺麗な女子との出会いもあるかもしれないし。
会社に面白みを求めずに、いっそ行き帰りを楽しんじゃう。会社は休むところでいいんだよ。バカな発想だけど、会社を中継所感でやってるヤツはいつも笑顔でいられるじゃん。「楽しそうだな、お前は」って上司にも引っ張られるよ。
――面倒なことや不便なことを愛する姿勢がありますね。
不便じゃないの。楽しいんだもん。
やっつけで進むと、やっつけで終わっちゃう。余計なことに対してエネルギーを使う方が豊かになれる。合理的になると全部つまんなくなっちゃうよね。
横断歩道を渡らずに、誰も使ってない歩道橋をダラダラ登る方が豊か。山登りに行ってる場合じゃないよ。まず目の前の歩道橋を登ろうぜ。
――所さん流の仕事術についても教えてください。収録現場でカンペを見ないというのは本当ですか。
カンペは見ないし、見ても自分の感情に全部置き換える。初回は手探りだから作家の方の書いた順番でやるけど、2回目以降は時間の尺とかも自分でわかるじゃない。
感じたものを発表したいだけで、別に「読む係」じゃないから。引き金はもらうけど、弾となって飛んでいくのは俺なんで。
いま『所さん お届けモノです!』(TBS系)っていう番組をやってるんだけど、もう楽しいですよ。スタッフが全国のいろんなおみやげを探してきたり、メーカーの展示会を紹介したり。
日曜日の夕方5時からっていう時間帯もいい感じなの。『笑点』に向けたならし運転みたいな。魅惑の時間帯だよね。

――あえて有名観光地の隣町を紹介する企画とか、切り口が独特で愛があるなと。
面白いよね。有名観光地の隣は、置いてけぼり食らってあわててる感があって。一番人気の温泉地は連休も予約でいっぱいなのに、隣っていうだけでガラガラ。だったら、こっちに行ってみてもいいんじゃない?っていう。
その町の人は紹介してほしいし、褒めてほしい。俺も乗ってあげたいところだけど、そこまで熱くならないようにはしてる。消費者として見て、足りないところがあれば言うし。意外と厳しいですよ。
努力している人たちの熱量は褒めるけど、進化する余地がある場合には、「こうした方がいいんじゃない?」とハッキリ言うから。
――番組づくりのうえで、どんなところに気を配っていますか。
「お届けモノ」に限らず、レギュラーの人でも、ゲストの人でも、仕事の手応えみたいなものを感じないで帰ってほしいのね。「え、こんなんでいいの?」ぐらいで。
「笑ってください」「この情報に驚いてください」っていう感じが画面から伝わってくると、俺は茶の間の人として、うるせえなって思っちゃう。だから手応えないぐらいがいいの。
編集の仕方でいうと、お客さんが笑ったところだけ流すと、ヤラセの笑いにみたいにしか聞こえなくなるんだよ。本当はつまんないところも含めてプロセスがあるのにさ。
恋愛だってそうじゃん。いろんなプロセスがあってカップルになるわけでしょ。そこをカットして、「なんだかんだうまくいきました」じゃ、おとぎ話にもならないもん。
――何年か前に60歳を過ぎたら辞める、辞めないみたいな話がありましたけど、いまはまったく引退は考えていないんですよね?
そうだね。50代には思うんだよ。60になったら辞めようって。で、60になったら70で辞めよう、70になったら80で、80になったら90で...ってやってくと、死ぬな、もうそろそろ。そういうことだよ(笑)
振り返ると、10代で青春だなんだ言ってたあのころから何ら変わらない。何にも進歩してない。俺のやってることなんて、失敗って言えば全部失敗だし、成功って言ったら全部成功だもん。自分が成功だと思えば、全部成功だよね。
まとめると、リセットしないってことじゃないですか。紙を丸めて、クシャクシャ、ポイって捨てないってこと。失敗も含めて人生でしょ。
「いい文章」だけの人生を送りたくて、みんなクシャクシャ捨てちゃう。でもそしたら、捨てたことをずっと内緒にして死んでいかなきゃいけないじゃん。
見切らずに続けないと、意味は出てこない。「意味がないからやらない」じゃなくて、「やらないから意味がない」ってことなんだよね。

そんな所さんの仕事場兼遊び場である「世田谷ベース」にお邪魔して、この春、新たな一歩を踏み出した新入社員たちへのメッセージをもらった。
(取材:BuzzFeed Japan 神庭亮介)
Jun Tsuboike / BuzzFeed
「理想の上司」と言われるけれど
――「理想の上司」ランキングでは常に上位にいますね。新入社員向けにアドバイスをお願いします。
「理想の上司」って言われても、自分ではなんかピンとこない。「所ジョージ」って字面も簡単だし、聞かれた時にパッと出やすいだけなんじゃない?
たとえばお笑いの世界だと、さんちゃん(明石家さんま)の下に誰それがいて、中堅がいて、若手がいて...ってわかりやすいじゃん。でもウチの事務所はそういうこともないし。
そもそも人に何かを教えようとか、それは違うよって否定するつもりがないの。ある人が困っていたとするじゃん。困っているのもその人の人生だから。そこでいいアドバイスをしちゃうと、人生の邪魔してるような感じもするのね。
――たとえ的確なアドバイスだとしても。
そう。アドバイスでその人が解放されたとして、そんな簡単に解放されちゃうと人はつまんないから。自分で考えるのが一番楽しいわけで。
人の話を聞いて、「こうするといいよ」って段取り通りにいくと、あんまり手応えを感じない。何も聞いてないのに、そこまでいけた自分の方が立派でしょ。その方が感動できるよ。
人の言うことを聞いてなくて、失敗したとするじゃん。聞いとけばうまくいくのに。だけど失敗も捨てない、なかったことにしない。怒られたことを削除しないっていうこと。それも自分の経験だから。
Jun Tsuboike / BuzzFeed
あとはね、失敗した時に「一生懸命やったんですけど」って泣き言は言っちゃダメ。一生懸命やったのにできなかったら、「じゃあ、お前じゃない方がいいな」って他の人に代えられちゃうでしょ。
「ちょっと怠けてました」って言う方がまだいいよね。その場で怒られても「次はちゃんとやれよ」でもう1回復活できる。だから、自分の「底」は見せない方がいい。
ハツラツとやる
――配属先や仕事の内容が希望通りにならず、腐ってしまう人もいるかもしれません。
腐る人には誰も見向きもしないよ。ペンキ塗りを頼まれた子どもがニコニコしながらやっていたら、「楽しそうだから俺にもやらせて」って友達がやってくれる話があるでしょ(『トム・ソーヤーの冒険』のエピソード)。
コピー取りでも何でも、ハツラツとやる。そうすると、上司の目に留まって「アイツは頑張ってるな」って次の部署に引っ張られるキッカケになるかもしれない。
みんな目の前の仕事が木の幹だと思っちゃうんだよね。「いい大学出て、会社に入ったのに、何でこんな仕事なんだよ」って変なプライドが出てきちゃう。だけど、細い枝みたいなところで「これは俺の幹じゃない」って言ってもしょうがないよ。
ハツラツとやっていれば、幹以上の太い枝が出てくる。「この仕事は合ってるな」って思うところを幹にしちゃえばいいわけで。
苦節5秒
Jun Tsuboike / BuzzFeed
――壁にぶつかって、挫折しそうになった時はどうすれば。
挫折をよけるのは簡単なの。
いい茶碗を使ってたけど、ひび割れて使えなくなっちゃった。茶碗ランキングでは相当下がっちゃう。でも下に穴ボコ開けて植木鉢にしたら、トップクラスの鉢になるかもしれない。
「トップの植木鉢になってやる!」って考えたら、ハツラツとできるじゃん。
俺は「苦節5秒」って言ってるんだけど、時間が経つと全部のことが笑い話になるから。
時には、自分で自分に目をつぶるってことも大事。ごまかしたっていいのよ。「俺はこんな器じゃない」なんて言い出すなってこと。
歌手としてデビューしたのに...
――所さん自身、シンガーソングライターとしてデビューしながら、タレントや司会業という別の領域でブレイクされた経験の持ち主です。複雑な思いはなかったのでしょうか。
20代で歌手デビューして、30代ぐらいまでは「何で売れないんだよ」って思ってたよ。だってそっちを目指してたんだから。最初のうちは逆ギレだよね。「どうせ聴かねえんだろ、お前ら!」って。
そこで音楽を辞めちゃって、司会業としてニコニコ暮らす方向にも行けたわけ。でも40年もやっていると楽しくなってきちゃって。聴かれない歌をどんどんつくる、みたいな。おかげさまで60過ぎていまだに歌をつくってる。
どこかからか面白くなってくるのよ。だからみんなも、途中で「俺には向いてない」とか「つまんない」とかジャッジしないで、やり始めたことはずっと続けた方がいい。人生は長いんだから。
役者さんで売れなくても、会社員になって全部辞めちゃうんじゃなくて、ちょっと匂いのするところにいる。「もう辞めたよ」ってウソついて、内緒でやればいいと思うんだ。
バッグに入ったスプーン。「誰かが『スプーンがあればなあ』って時に、『あるよ』って出したいの。あとは消毒薬とか絆創膏とか。困った時にスーパーマンになれるじゃん」(Jun Tsuboike / BuzzFeed)
ユーチューバー所
――父から娘への愛情を歌った『ご自由にどうぞ』をはじめ、隠れた名曲がいっぱいあります。音楽評論家の萩原健太さんは、所さんのことを「日本で一番過小評価されているシンガーソングライター」と評していました。
それでいいの。過小評価に値するってところがすごく大事なんだな。
――YouTubeにもたくさん曲をアップしてますね。
ここ最近だけで20曲ぐらいあげてる。「またあがってる! この人、限界がないんだな」って呆れさせたいんだよ。
広告も入れてないの。こんなんでお金もらうなんて、俺も良心があるからさ。YouTubeはゲーム。バカみたいに歌つくって、あげるのが面白くてしょうがない。
――なんでYouTubeでは「所ジョージ」ではなくて、「世田谷一郎」名義なんでしょう。
野球選手のイチローってスゴイじゃん。「一郎」にしておけば、釣られて来る人がいるんじゃないかなって。
――所さんの名前で出した方が確実に再生されると思いますが(笑)
その考え方がセコくて面白いなと思って。動画を見てても、自分で自分に笑っちゃうの。俺が一番見てる回数が多いと思うよ。この曲なんて、800回再生のうち600回は俺が見てるね。
誰に手伝ってもらうわけでもなく、自分で作業して、リズムを変えたりして。そんな自分が超カッコイイわけ。こんなんでレコード大賞取りたいんだよ。直木賞でもいいからさ。
大人数のオーケストラがいて、誰もが立派に見えるような曲で賞もらったって当たり前でしょ。自分だけのもので評価されたいっていうのがすごく強いよね。
芸能界は5合目まで
――便器のことを歌った『いいなり』とか、題名そのままの『カミさんがパチンコでとってきたアンパンマンの風呂桶セット』とか、普通だったら絶対歌にしないような素材を歌にしていますよね。
芸能界、歌謡界っていうでっかい山があって、そっちでは福山雅治が桜のことを歌ってる。
だけど、俺は梅を歌いたいの。誰も相手にしない梅。梅干しなんかできちゃってさ。『桜より梅を歌え』なんてすごく庶民的な、実質的な歌になってくわけよ。そっちの方が面白いやって。ちっちゃい山をつくりたいわけ。
『傘を買おう』世田谷一郎のYouTubeチャンネルより
――過去のインタビューでは「芸能界は敵」なんて過激発言もしています。世間では所さんこそ芸能界のど真ん中だ、と思っている人も多い気がしますが。
芸能界はあっちの山。たまに行って、5合目ぐらいまでは登るのよ。で、おみやげ売り場でおみやげ買って、リラックスして車で帰ってくるぐらいの感じ。そこの高みは、さんちゃんに任せておけばいいの。
俺は山頂まで行かない。おみやげ物もあんまりないし、行くのはつらいから。
さんちゃんはルールが全部ある
――『明石家さんまさんに聞いてみないとネ』という曲もありますが、さんまさんとはどういう関係なんでしょう。
「騒がしく面白いことを言う人」ってみなさん思ってるでしょ? さんちゃんが面白いのは、瞬発力がすごくあるの。後輩の面倒見もすごく良くて、「お笑いとは」っていう考え方がしっかりしてる。そこを俺に言われると、照れるんじゃない、きっと。そうやって照れちゃうところも好きだし。
あの人はルールが全部ある。「こう言って、こう言ったら、こうなる」っていうキャッチボールのルール。お笑いの本とか書くんだったら、そっちの方が正しい。
俺は物事が起きなきゃわからない、というところでやってるので、感覚は全然違うんですよ。ただ一緒にいると、瞬発力がすごいね。
――ご自宅にさんまさん用の部屋があるって本当ですか? さんまさんがずっと独身だった時のために用意してあるっていう。
いまはもう、カミさんのミシン部屋にしちゃった(笑)
さんちゃんが年とって、一人で行くところがなくなったらここに住めばいいじゃない、っていう話をしていたんだけど、いまもハツラツとやってるからね。
お笑いビッグ3の個性
――ビートたけしさんも世田谷ベースにはよく来られるとか。
来る、来る。北野さんは底抜けですごく面白いんですよ。
さんちゃんと北野さんの二人に言えるのは、どんな素材を渡しても大丈夫ってこと。木魚だろうが、釣鐘だろうが、すごい笑いをつくっちゃう。
死体を持っていっても笑いをとるよ。「体温下がってまんな」とかなんとか言いそうじゃん。
かたやタモリさんは、自分のなかから出てくるもので上手いことやる感じ。そこが二人とは違うね。ゲストが出てきても丁寧じゃん。暴言言ったり、つついたりしないでしょ。
「世田谷ベース」のガレージに飾られたビートたけしさんの写真(Jun Tsuboike / BuzzFeed)
たけし編集長と雑誌づくり
――たけしさんが編集長、所さん副編集長で『FAMOSO』(2009年)という雑誌もつくっていましたね。「フィクションスクープマガジン」と銘打って、「銀座名物、流しの立小便屋」とか「謎の巨人が本栖湖で入水自殺!」とか、メチャクチャやってる。
『FAMOSO』はね、もっと評価されたかった。
――Amazonのレビューも高評価でしたけど。
そんなんじゃダメよ。5千万部ぐらい売らないと。国が買い上げてくれればなあ。
あの雑誌は、毎週土日にここ(世田谷ベース)に北野さんが来て、一緒につくってたわけ。「こういうのやろうぜ」って世間話して、そこからつくり話を考えて。衣装を集めて、撮影して、写真をコラージュして...っていうのを繰り返すの。
人に頼むと思い通りのデザインにならないから、全部自分でやって。3、4冊出したら、俺はもう限界だったね。北野さんは「またやろうよ」なんて言ってるけど、いやいや。アンタはいいけど、俺は大変なんだよって。
でもお陰様で、いまだに俺が一番楽しめるの。こんなことやった、あんなことやったなあって。
湖に巨人のでっかい靴を置いてみたり、畑でモアイ像発見!みたいな写真を撮ったり。朝方、犬の散歩してるおじさんに「ご苦労様です」なんて言われながらさ。お地蔵さんに間違われて、モアイの前に果物置かれちゃったりして。もう、おかしくて、おかしくて。
健康の前に健全を
――そういう大変さは苦にならないわけですね。
ならない。面白いもん。早起きしたら早起きしたで、この空気感、小学校の夏休みのラジオ体操思い出すなあ、とかさ。すごく楽しいよ。
たとえばの話、体にいいって聞いたものを並んで手に入れたとする。人より先に手に入れて、サプリメント飲みながら仕事する、みたいな。でもそれって不健全じゃん。
「健康」より前に「健全」を考えないと。トースターで焼いたパンをそのままかじって家を出るんじゃなくて、皿を置いて、紅茶を淹れて、バナナを添えて。ゆっくりした雰囲気のなかで食べるってことが健全なの。
面倒くさいけど、皿を洗うとか、雑巾を絞るとか、そういう刺激が大事。冷たい水は触らない、いいところだけを口に入れる、っていうのは健全でも健康でもないと俺は思うのね。
Jun Tsuboike / BuzzFeed
会社を中継所に
――きちんと暮らす、日々を楽しむことが大切だと。
昨日と同じことの繰り返しはつまらない。「何も起きなくて平凡だ」なんて言ってたらダメ。生きてる意味ないぜ。昨日より今日、今日より明日が充実してなきゃ。
充実っていうのは、何でもいいのよ。「朝、クツをはいた時に指も使わずかかとがサッと入ったぜ」とか。それだけで満足なんだ。前の日の俺、ちょうどいいところに脱げてたんだなって。
会社がつまらないと言うけど、実は自分がつまらないだけってこともある。そんな時は、会社へ行くまでのアプローチを変えてみる。最寄駅を使わないで、わざと遠回りしたりさ。
そうすると違う発見があるわけ。「こんなところに素敵なお店があるんだ」とかね。綺麗な女子との出会いもあるかもしれないし。
会社に面白みを求めずに、いっそ行き帰りを楽しんじゃう。会社は休むところでいいんだよ。バカな発想だけど、会社を中継所感でやってるヤツはいつも笑顔でいられるじゃん。「楽しそうだな、お前は」って上司にも引っ張られるよ。
――面倒なことや不便なことを愛する姿勢がありますね。
不便じゃないの。楽しいんだもん。
やっつけで進むと、やっつけで終わっちゃう。余計なことに対してエネルギーを使う方が豊かになれる。合理的になると全部つまんなくなっちゃうよね。
横断歩道を渡らずに、誰も使ってない歩道橋をダラダラ登る方が豊か。山登りに行ってる場合じゃないよ。まず目の前の歩道橋を登ろうぜ。
カンペは見ない
――所さん流の仕事術についても教えてください。収録現場でカンペを見ないというのは本当ですか。
カンペは見ないし、見ても自分の感情に全部置き換える。初回は手探りだから作家の方の書いた順番でやるけど、2回目以降は時間の尺とかも自分でわかるじゃない。
感じたものを発表したいだけで、別に「読む係」じゃないから。引き金はもらうけど、弾となって飛んでいくのは俺なんで。
いま『所さん お届けモノです!』(TBS系)っていう番組をやってるんだけど、もう楽しいですよ。スタッフが全国のいろんなおみやげを探してきたり、メーカーの展示会を紹介したり。
日曜日の夕方5時からっていう時間帯もいい感じなの。『笑点』に向けたならし運転みたいな。魅惑の時間帯だよね。
『所さん お届けモノです!』(TBS系)
手応えはいらない
――あえて有名観光地の隣町を紹介する企画とか、切り口が独特で愛があるなと。
面白いよね。有名観光地の隣は、置いてけぼり食らってあわててる感があって。一番人気の温泉地は連休も予約でいっぱいなのに、隣っていうだけでガラガラ。だったら、こっちに行ってみてもいいんじゃない?っていう。
その町の人は紹介してほしいし、褒めてほしい。俺も乗ってあげたいところだけど、そこまで熱くならないようにはしてる。消費者として見て、足りないところがあれば言うし。意外と厳しいですよ。
努力している人たちの熱量は褒めるけど、進化する余地がある場合には、「こうした方がいいんじゃない?」とハッキリ言うから。
――番組づくりのうえで、どんなところに気を配っていますか。
「お届けモノ」に限らず、レギュラーの人でも、ゲストの人でも、仕事の手応えみたいなものを感じないで帰ってほしいのね。「え、こんなんでいいの?」ぐらいで。
「笑ってください」「この情報に驚いてください」っていう感じが画面から伝わってくると、俺は茶の間の人として、うるせえなって思っちゃう。だから手応えないぐらいがいいの。
編集の仕方でいうと、お客さんが笑ったところだけ流すと、ヤラセの笑いにみたいにしか聞こえなくなるんだよ。本当はつまんないところも含めてプロセスがあるのにさ。
恋愛だってそうじゃん。いろんなプロセスがあってカップルになるわけでしょ。そこをカットして、「なんだかんだうまくいきました」じゃ、おとぎ話にもならないもん。
失敗も含めて人生でしょ
――何年か前に60歳を過ぎたら辞める、辞めないみたいな話がありましたけど、いまはまったく引退は考えていないんですよね?
そうだね。50代には思うんだよ。60になったら辞めようって。で、60になったら70で辞めよう、70になったら80で、80になったら90で...ってやってくと、死ぬな、もうそろそろ。そういうことだよ(笑)
振り返ると、10代で青春だなんだ言ってたあのころから何ら変わらない。何にも進歩してない。俺のやってることなんて、失敗って言えば全部失敗だし、成功って言ったら全部成功だもん。自分が成功だと思えば、全部成功だよね。
まとめると、リセットしないってことじゃないですか。紙を丸めて、クシャクシャ、ポイって捨てないってこと。失敗も含めて人生でしょ。
「いい文章」だけの人生を送りたくて、みんなクシャクシャ捨てちゃう。でもそしたら、捨てたことをずっと内緒にして死んでいかなきゃいけないじゃん。
見切らずに続けないと、意味は出てこない。「意味がないからやらない」じゃなくて、「やらないから意味がない」ってことなんだよね。
Jun Tsuboike / BuzzFeed
〈所ジョージ〉 シンガーソングライター、タレント
1955年、埼玉県生まれ。1977年に『ギャンブル狂騒曲/組曲 冬の情景』でデビュー。最新作は『Bappan』。『所さんお届けモノです!』をはじめ、テレビのレギュラー番組は多数。雑誌『所ジョージの世田谷ベース』も刊行中。著書に『所ジョージの私ならこうします―世直し改造計画』など。