2月の半ばの話、ドイツのニュースで Li Shufu(李書福)という名前が飛び交った。この李書福という人物が、一個人として、メルセデス・ベンツで有名なダイムラー社の株を9.69%も取得したということがわかったからだ。
李氏は中国最大の自動車メーカー、吉利汽車(Geely)のオーナーで、54歳。資産は170億ドル(約1.8兆円・フォーブス推定)。吉利汽車は浙江吉利控股集団というホールディング・グループの傘下にあり、こちらの取締役会長も李氏だ。
ダイムラーで取得した株の総額は75億ユーロ(約975億円)といわれ、これにより李氏はダイムラー最大の個人株主に躍り出た。
ダイムラーは、ドイツで10本の指に入る大企業だ。それどころか、世界的企業といっても過言ではない。その栄えある会社の10%近い株を一人で所有するとなると、その威力は凄まじいだろう。
李氏とはいったい何者か? 出身は浙江省の米作り農家、つまり農民だ。都会の裕福な娘との結婚で人生のチャンスが巡ってきたというが、その経歴には謎も多い。私が読んだ李氏のサクセス・ストーリーは次の通りだ。
若い頃のある日、靴工場に靴を買いに行ったら、裏の方で靴屋の親方が中古の冷蔵庫を組み立てていた。そこで1986年、自分も冷蔵庫の製造を始めた。しかし、大儲けをしたところで、当局に工場の閉鎖を命じられた。そこで92年、台湾製のバイクのコピー製造にシフトした。
その後まもなく自動車の製造を始めるのだが、ここまでの事業はすべてヤミだったようだ。正式な製造、販売の許可は、車を作り始めて数年後にようやく取得したとか…。
以上のようなことを本当に当人が公表したとすれば、まことに不思議な話だが、ミュンヘンに本社のある定期購読紙「Merkur」の2月26日付のオンライン版には、確かにそう書いてあるのだ。
さて、合法となった経営ストーリーの続きは華々しい。
2002年にGeely International Corporationを設立し、翌年から輸出も始めた。2010年には、フォード社からスウェーデンの自動車メーカー、ボルボを買収し、現在は同社の筆頭株主でもある。ブラジルに進出してからは、ボルボの販売網を使って、自社の車も売っている。将来は、現地生産も計画しているという。
現在、吉利汽車は中国の自動車メーカーでは最大で、去年は160万台の車を売った。去年1年で株価は140%上昇。