「米中貿易戦争」は煽り過ぎ

2018年4月13日(金)

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 米国と中国が知的財産権と貿易をめぐって攻防を繰り広げている。メディアには「貿易戦争」との表現が舞う。だが、エコノミストの片白恵理子氏は冷静に見る。米中の動きは経済的合理性よりも政治的思惑が強く、米中間選挙後は収束すると見込む。

(聞き手 森 永輔)

米国と中国が関税をめぐって攻防を繰り広げています。

 米国は4月3日、米国企業が保有する知的財産権を中国が侵害したとして、中国からの輸入品500億ドル相当に25%の関税を課す政策について、対象品目の原案を明らかにしました。中国が、産業振興策「中国製造2025」の下で競争力強化を図っている産業用ロボットなどを狙い打ちにしています。

 対する中国は4日、報復として、航空機や大豆など米国からの輸入品500億ドル相当に25%の関税を課すと応じました 。さらに米国は5日、課税対象品目を広げ1000億ドルの積み増しを検討すると表明しています。

 片白さんは、先手を打った米国の意図をどう見ますか。

片白 恵理子(かたしろ・えりこ)
住友商事グローバルリサーチ経済部シニアエコノミスト 専門はマクロ経済分析と貿易動向。ニューヨーク大学で行政学修士を、ジョンズホプキンス大学で応用経済学修士を取得。外務省経済局国際経済課経済調査員、アジア開発銀行エコノミスト、ロンドンスクールオブエコノミクスコンサルタントなどを経て現職。(写真:菊池くらげ 以下同)

片白:米国は確かに中国による知的財産権侵害を問題視しています。知的財産権侵害と直接言える話ではないですが、外資企業のデータ利用に制限を課しています。例を挙げますと、米アップルは2月末、iCloudサービスにおける中国人ユーザーのアカウント運用を中国データセンターに移行したようです。これは、昨年6月に中国でサイバーセキュリティ法が制定されたのを受けての対応とされています。この法律は、外資企業が中国で得た公共通信・情報サービス、交通、健康など広範囲に及ぶデータを中国国外に持ち出すことを原則的に禁止するもの。中国当局がアップルに法的な命令を下せば、iCloudアカウント内のあらゆる情報を入手できるようです。

 しかし、今回の措置は経済的な意図以上に政治的な思惑が強いように見えます。今年11月に予定される米中間選挙に向けて、有権者の支持を獲得する狙いですね。ドナルド・トランプ米大統領は製造業で働く白人労働者層を基盤にしています。彼らの支持を固めるため対中貿易赤字の削減を図りたい。この額はダントツです。2017年に3752億ドルに上っており、米国が抱える貿易赤字全体の46%を占めます。

米国が抱える貿易赤字の原因は、米国内の貯蓄不足にあるとされます。中国からの輸入品に対する関税率を引き上げても他国からの輸入が増えるだけで意味をなさないのでは。

片白:おっしゃる通りです。それも、政治的思惑が強いと見える理由の一つですね。

米国が中国に制裁関税を仕掛けたタイミングをどう見ますか。中間選挙までに目に見える成果を手にしたいからでしょうか。

片白:はい、そう思います。

中国は、米国の動きをどう見ているのでしょう。

片白:中国は米国がなぜ今回の措置に出たのか、腑に落ちずにいることでしょう。確かに3752億ドルの対米貿易黒字はありますが、そのうち46%は外資系企業による輸出です。しかも、モノの貿易だけの話。サービス貿易では、米国が385億ドルの黒字を計上しています。

しかも、中国政府が進める「中国製造2025」がターゲットとする分野を狙い撃ちにしている。

片白:航空・宇宙分野、IT(情報技術)、機械などが対象に入っています。本質は、貿易戦争というより科学技術戦争ですね。

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「「米中貿易戦争」は煽り過ぎ」の著者

森 永輔

森 永輔(もり・えいすけ)

日経ビジネス副編集長

早稲田大学を卒業し、日経BP社に入社。コンピュータ雑誌で記者を務める。2008年から米国に留学し安全保障を学ぶ。国際政策の修士。帰国後、日経ビジネス副編集長。外交と安全保障の分野をカバー。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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