菌を栽培して食べるアンブロシアビートルという昆虫がいる。彼らはストレスを受けて弱っている木の中に、トンネルや通路をネットワーク状に掘り、体の一部に貯蔵しておいた菌を生やし、世話をする。いわば、菌の「畑」をつくるのだ。(参考記事:「ハキリアリは農業を営む」)
「この菌がアンブロシアビートルの唯一の食料です」と米農務省、農業研究局の研究昆虫学者、クリストファー・レンジャー氏は説明する。
アンブロシアビートルがアルコールの一種であるエタノールに引き寄せられることは以前から知られていた。そして、たとえば干ばつや洪水などのストレスを受けると、木の中でエタノールの濃度が高まることから、これはストレスを受けている木を見つけるためだと考えられてきた。だがこのたび、ほかにも理由があったという研究結果が、4月9日付けの学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された。(参考記事:「バクテリアを“栽培”するアメーバ」)
酒の香りに誘われる?
論文の共著者であるレンジャー氏と独ビュルツブルク大学の昆虫学者ペーター・ビーダーマン氏は、アンブロシアビートルのエタノールに関する定説に、数年前から疑問を抱いていた。
何しろ、消毒に使われるように、エタノールは多くの種類の微生物を殺してしまう。おそらく、アンブロシアビートルと共生している菌も例外ではないはずだ。「直観に反しますし、菌の栽培には逆効果に思えました」とレンジャー氏。
ではこの昆虫にとって、エタノールはほかにも役に立っているのだろうか。
この疑問を解決するため、2人をはじめとする研究チームはいくつかの実験を考えた。実験には、アンブロシアビートルの1種であるハンノキキクイムシ(Xylosandrus germanus)を主に使った。
ハンノキキクイムシは東アジア原産だが、欧米の森林、苗木畑、果樹園を荒らし回っており、標的になり得る木は200種を超えるとレンジャー氏は話す。世界に数千種いるアンブロシアビートルの1種だ。