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半分、不便。

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。NHKの朝ドラは、朝から出掛ける予定のない日にテレビをつけっぱなしにしてるとなんとなく観てしまう、って感じです。今朝たまたま『半分、青い。』を観てましたら、ヒロインがこども時代に片耳の聴力を失ってしまいまして、それによってどんな影響が出るかを、医者が両親に説明するシーンがありました。
 私も突発性難聴で片耳が聞こえなくなってしまった当事者なので、ドラマの医者の説明を、そうそう、そうなんだよね、とうなずきながら聞いてました。
 片耳しか聞こえないことの不便さは、意外と世間のみなさんには理解されてません。以前にも当ブログで「あまり知られていない難聴の症状」という記事を書いたのですが、あらためて補足しておきましょう。

 まずは、音の方向性がわからない不便。どこで音が鳴ってるのかがわからない。
 たとえば道を歩いていて、クルマの走行音が次第に大きく聞こえると、近づいてくるな、というところまではわかります。でも、どっちから来るのかがわからない。うしろからなのか、曲がり角の右からなのか左からなのか、目視で確認できるまで、本当にわからないんです。とっさの対処ができないぶん、ちょっと危険ですね。
 だれかに呼ばれたとしても、呼んだ人がどこにいるかわからず、うろうろ見回してしまいます。これ、病院とかで困るときがあります。診察室から呼ばれたと思ったら、受付のひとから呼ばれてたり。
 あと、コンビニとかのレジが数台並んでるときにありがちなこと。下向いて財布からお金を取りだしてるときに「ポイントカードはお持ちですか」みたいなことを聞かれたから「いいえ」と答えたけど、それが自分の接客をしてるひとでなく、となりのレジ係の声だったりとか。逆に、目の前のレジ係が小さい声だと、となりのレジの声だと思ってシカトしちゃったりします。

 カクテルパーティー効果って知ってますか。パーティー会場のようなざわついた場所でも、目の前の相手の声だけに集中して会話ができる能力のことで、みなさんそれを当たり前にできると思ってるでしょ。私もそうでした。片耳しか聞こえなくなってはじめて、それができなくなることに気づきました。
 片耳だけだと、すべての音が同等に聞こえ、選択できません。だから私も騒がしい飲食店で会食したり打ち合わせしたりするのが非常に苦手です。周囲の騒音で、目の前のひとの話がよく聞こえない。何度も聞き返してしまいます。そのうちめんどくさくなって、適当に受け流すようになります。きっと、なんか横柄なひとだなと思われてるのでしょうね。

 それと、音楽がすべてモノラルになります。純粋な音の良し悪しはわかりますが、ステレオ演奏による音の広がりとか定位とかは感じられません。ヘッドホンは片チャンネルしか聞こえないから音がヘンになります。サラウンドなんてまったく無意味。私は趣味で音楽を聴くだけなので慣れましたけど、ミュージシャンにとってはつらいことかもしれません。

 朝ドラでは母親が、なんであの子がこんな不幸な目に遭うんですか……と涙を浮かべて嘆いてましたけど、それはちょっとおおげさです。他の障害に比べたら、そこまで深刻ではないと思います(耳鳴りがはげしくて苦しんでるかたはべつとして)
 ただまあ、生活していく上で不便なことが多々あるのは事実です。
[ 2018/04/12 21:30 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告