2016年、日本のゲーム市場規模は過去最高の1兆3801億円となりました。いまだにゲーム≒コンシューマーゲームというイメージも強い一方、市場の75%となる1兆361億円がコンシューマーゲーム以外のゲームの売上で構成されています。その中でも一際存在感が大きいのは、9960億円を占めるスマートフォンやタブレット向けのモバイルゲーム市場です。
※数字はいずれも「ファミ通ゲーム白書2017」より
そんなオンラインゲーム、特にモバイルゲームの開発において、マネタイズを考えたときにどうしても避けては通れないのが“サーバー”の存在ではないでしょうか。どこでどのように通信するのか、F2P(基本プレイ無料)モデルでの課金システム……など、検討しなければならない事項は多岐に渡ります。
ゲームと通信が切っても切れぬ関係になるなか、2016年に愛知で設立されたGame Server Servicesは、去る3月30日に第三者割当増資で大和企業投資、ディー・エヌ・エー、KLab Venture Partners、GameWithから8000万円を調達し話題となりました。「モンストやパズドラのようなゲームをサーバー開発なしで作れる汎用ゲームサーバーを提供するのが目標」と語るのは同社代表取締役社長の丹羽一智氏。大手ゲームメーカーでの開発経験もありながら独立した理由、同社の今後の展望から現在のゲーム業界が抱える課題まで、たっぷりとお話を伺いました。
――まずは会社とサービスについてお話を聞かせて下さい
丹羽一智氏(以下、敬称略):弊社(Game Server Services)は、愛知県を拠点に2016年9月に創業し、同年12月から社名と同名のサービス「Game Sever Services」(以下、GS2)の運営を開始しました。
「GS2」では、スマートフォンやタブレットのようなスマートデバイス向けのゲームで使えるゲームサーバーを提供しており、ゲームのAPIコール1000回あたり数円といった料金体系でご利用いただけるサービスとなっています。弊社が提供するような汎用ゲームサーバーを利用していただくことで、“ゲームを開発する力はあるものの、サーバーの開発ノウハウがない”といった会社や個人の開発者の方でも、ネットワーク対応ゲームの開発をお手伝いすることができます。
現在の国内ゲーム市場を見渡すと、モバイルゲームが隆盛を極め、大手のメーカーさんやパブリッシャーさんも開発効率をどんどん上げていかないと市場で勝ち残れないというフェーズになってきました。かつては内製でゲームエンジンを開発してゲームを制作するというのが主流でしたが、現在ではUnityやUnreal Engineといった汎用ゲームエンジンでの開発がメインになっています。それと同じように、現在各社さんが構築したサーバーから、「GS2」のような汎用ゲームサーバーを使ったゲーム開発・運営という形に変えていけないかと思っているところです。
――そうしたゲームチェンジを起こすというのが、根幹にある想いなのですね。
丹羽:はい。そうですね。
◆業界内で感じた課題と独立のきっかけ
――元々はゲームメーカーで働いていたと伺いました。
丹羽:専門学校卒業後はセガに入社して、携帯電話(フィーチャーフォン)向けのゲーム開発をしていました。ちょうどスマートフォンが出始める頃まで、約3年お世話になりました。その後、任天堂に転職して7年ほど勤めました。
――サーバーエンジニアをされていたんですか。
丹羽:セガ時代はフィーチャーフォン向けのゲーム開発からサーバーサイドまで小さなチームで開発をしていました。その後転職した任天堂では、ライブラリ開発という職種で入社し、当初はニンテンドー3DSのOSのインターネットに接続する機能などを開発していましたね。
その後ゲームサーバーの開発チームに移り、『ポケットモンスター』や『マリオカート』など通信機能で必要なサーバー関連の開発に携わりました。当時、汎用ゲームサーバーをどう利用すればゲームが求める仕様を満たせるか、開発陣と二人三脚で進めていたので強く印象に残っています。ゲームサーバーは任天堂だけでなく、サードパーティにも提供しており、様々な要件を満たせる柔軟性がありました。
――元々任天堂で汎用ゲームサーバーの開発や運用をやっていて、なぜこれからはスマートデバイスで汎用サーバーが必要だと感じたのでしょうか。
丹羽:まず、スマートデバイスの市場規模がどんどん伸びていき、一方家庭用ゲーム機の市場がどんどん縮小していく時代だったので、ゲーム開発そして市場の潮目が変わるのではと感じたことが大きく影響しています。
コンシューマーゲームのサーバー開発・運用については、任天堂のようにファーストパーティーが提供するサーバーもあり、多くの有名タイトルでも利用されていました。一方でモバイルゲームでは、大体のゲームが同じような通信内容であるにもかかわらず、各社がそれぞれゲームサーバーを構築していたんです。その一方でプラットフォーマーであるAppleやGoogleは、デベロッパーのためにゲームのためのサーバーを提供するということにはあまり熱心でなく、安価で高品質なサービスが提供できれば嬉しい人がいるんだろうなとは思っていました。
ただ、モバイルゲームはDLされると何百万、何千万という規模になりますし、ゲームに対するサーバーの重要度も異なり、コンシューマーゲームのそれとは比較ならないトラフィックが発生します。そのため、スタートアップとしてゲームサーバーの会社を作ったとしても、合理的な価格でサービスを提供するのは難しいだろうなと思い、なかなか独立には踏み切れませんでした。
そんななかで、2015年(註:アメリカでのアナウンスは14年11月)にAmazonが「AWS Lambda」というサービスをローンチしたことを契機に、独立に舵を切ることができました。この「AWS Lambda」というのは、簡単にいうとプログラムのコードをアップロードしておくと、イベントに合わせてプログラムを実行してくれるというサービスなんですね。
具体的にはAmazonが提供しているサービスの中に、ファイルストレージのようなサービス(Amazon S3)があり、そのストレージに画像ファイルがアップロードされた場合、その“アップロード”というイベントを元に、「AWS Lambda」が起動し、ファイルストレージから画像をDLしてきて、さらに縮小して「Amazon S3」に再度アップロードすることでサムネイルが生成するという仕組みが作れるんです。その後HTTPアクセスでAWS Lambdaを起動できるサービスが出てきました。
――なるほど。ゲームサーバーとして使えてしまうんじゃないかと。
丹羽:はい。この技術を上手く使えばゲームサーバーの開発に使えそうだなと。「AWS Lambda」の良いところは、プログラムの実行時間の0.1秒あたりに対して課金されるというところです。また、アクセスが大量にあった場合も、Amazonのインフラのどこかで起動してくれるようになっているのでスケーラビリティも高く、実行時間に対する課金なので、コストも非常に低価格に抑えられます。さらに、自前で大規模なサーバーを用意せずともAmazonのインフラのどこかではサービスを起動してくれるので可用性の面でもメリットがあるんです。
この仕組みを上手く用いて、ゲームサーバーとしてのサービスに特化させているのが「GS2」というわけです。
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