ALIENWARE ZONE

facebooktwitter
ALIENWARE SHOP

eSPORTSeスポーツに関する最新情報をチェック!

対戦格闘ゲーム大会「EVO Japan」は何を目指したのか!? 大会運営委員長「ハメコ。」氏に聞く

2018年1月26〜28日に3DAYSで開催された「EVO Japan」。すでに様々な大会レポート記事を目にし、多くの人がその存在や詳細、結果などはご存じだろう。本記事は、そうしたレポートとは少々違った切り口で構成した。

今回、この記事を執筆するにあたって、EVO Japanの運営委員長である「ハメコ。」氏に話を伺い、多くのコメントを得ることができた。EVO Japanの立ち上がりから次回の構想、そしてEVO Japanが何を目指したのかを探ってみたい。

日本でEVOが開催されるまで

このページを読んでいる人であれば、米国で開催されている「Evolution Championship Series(通称「EVO」)」を知らない人はいないであろう。米国最大、いや世界最大級の対戦格闘ゲームを中心としたゲーム大会だ。そして、その日本版として開催された「EVO Japan」が今年2018年の1月に開催された。近年のeSportsシーンでは、海外発祥のゲーム大会の日本国内版が開催されることもある。その真打ちと言っても過言ではない、満を持して開催されたのが「EVO Japan」だ。

じつは「EVO Japan」の構想は、2010〜2011年にかけて、一度立ち上がっている。その時は志半ばで(東日本大震災の影響もあり)一度立ち消えた格好だ。それが2014年あたりから再び「EVOを日本で」というムードが内々に存在していた。

ビジネス的な話をしてしまえば、本国EVOが日本のオーガナイズ(大会主催)に関してコンペティションを行い、主催者を選定したことに始まる。いくつかの企業が名乗りをあげ、主催者として選ばれたのが、松竹ブロードキャスティング、ハーツ ユナイテッド グループ(以下、HUG)、そのグループ会社であるAetasなどであり、「EVO Japan実行委員会LLP」として運営されていくこととなった。

そこで陣頭指揮を執ったのが、上記Aetasの持つゲーム情報サイト「4Gamer.net」でライターを務めるハメコ。氏だ。ハメコ。氏は、以前より米国EVOに趣き、日本国内向けにレポート記事執筆などを行う傍ら、日本でもEVOの開催を米国主催者たちに直接要望してきた。しかし、それだけで日本での開催にこぎ着けることは難しい。折しも米国側からのコンペオファーがあった際、氏は松竹ブロードキャスティングやHUGの構想するEVO JAPANを成立させる上で必要なことは、日本の対戦格闘ゲームシーンをまとめ上げることと考えた。

「闘劇(2003年〜2012年まで開催)が終わった後、2013年以降の対戦格闘ゲームシーンは、GODSGARDENの稲葉さんとTOPANGA LEAGUEの豊田さん、そしてゲームセンターの大会を全国大会にまで広げる力量のあるゲームニュートンの松田店長の3人が引っ張ってきた部分があります。とにかく、この3人に協力を仰ぐことで、国内の対戦格闘コミュニティをまとめ上げることが重要だと思っていました」

確かに、著名なEVOの日本版とはいえ、名前だけで集客できるかどうか分からない。それよりも「EVO」を開催する以上、そして「闘劇」なき現状で、それを超える大会として成功させるには、今一度対戦格闘シーンの立役者とともに大きなコミュニティを再構築することが先決だし、それが理想だ。その甲斐あって、日本での開催権を得て、実際に開催に至るわけだが、そう簡単に実施に至るわけではない。


日本でEVO Japanを開催するための条件

「EVO Japan」を開催するにあたって、本国EVO側が「あとは好きにやって」というわけではないだろう。それなりに「EVOを名乗る以上、満たさなければならない要求値」があったはずだ。どのようなものがあったのだろうか。

「当然、いくつかありましたね。まずひとつがオープントーナメントであること。そしてダブルイリミネーションで行うこと。そのほか、開催時期を本国のEVOと半年近くずらすこと、そして大会の動員やネット配信の視聴者数のハードルです」

まず、誰もが思う「なぜ1月開催?」ということについては、大方の予想通りEVOと半期ずらすことによる裁定だったようだ。確かに、米国で独占的に開催されているEVOへの影響を考えると、最長で半年ずらすことがオーダーされても不思議ではない。また、オープントーナメントであり、ダブルイリミネーションであることは、本国EVOの開催スタイルを踏襲するものだ。

開催時期はともかく、このオープントーナメント&ダブルイリミネーションは、かなり大きなハードルだったと予測できる。考えてもみてほしい。オープントーナメントとは、大会参加希望者はすべて参加させることであり、その数が膨大に膨れ上がったら途端に破綻してしまう(開催時間が大幅に伸びてしまう)。そして、敗者復活戦と言えるダブルイリミネーション方式は、試合数を倍近くに引き延ばしてしまうため、この要素も大会時間を長く見積もる必要がある。

「本家EVOは、それができるんですよ。ラスベガスのホテルに選手を宿泊させて、そのホテル内のホールで実施しているから、オープントーナメントで大会の時間が延びても、選手を帰さなければならない、という考えがない。それこそ夜中の0時過ぎまで予選をやってたりすることもありますからね。
けれど、それを日本で実施するのはほぼ不可能に近い。ゲーム大会会場兼宿泊施設などを都心部のホテルで見積もったら、それだけで数千万円はかかってしまう。現実的じゃないんですよ」

だからこそ、日本ではオープントーナメント&ダブルイリミネーションは難しいとされてきた。EVOの場合、多くの選手はサマーホリデーを利用し、EVO期間を含む1〜2週間、参加者によっては1カ月近くもラスベガスに滞在する。「予選が終わったら急いで終電で帰る」というシチュエーションではない。選手も帰る気がなければ、大会主催者も帰す気はない。そうした相互理解によって、来る者は拒まず成立している。それと同じ環境を構築することが日本で難しいことは、想像に難くないだろう。

しかし、そこで生きるのが、コミュニティリーダーである松田店長、稲葉氏・豊田氏の「見立て」である。どのくらいの選手が参加し、どのくらいの時間で試合が処理され、開催時間から見積もるゲーム台数を用意することで、限られた時間で大会が消化できるか……これを予測できなければ、それこそ深夜0時になっても予選が終わらない、という事態になってしまっていただろう。

「参加者が少ないぶんには影響はないんですが、予測を遙かに上振れしてまうと完全に破綻しますからね。会場を借りている時間もあるし。実際、予定より上振れしてしまったんですが、初期の予測の甲斐あって、致命的な破綻にはなりませんでした」

予選日は、21時終了予定が22時くらいまでかかっていた。とくに2日目は23時までに完全撤収ということもあり、現場は片付け作業でかなり大変だっただろう。

大会を池袋と秋葉原のふたつに分けたワケ

今回の「EVO Japan」は3日に渡って開催された。1日目・2日目が、予選大会的な位置づけ。その二日間で決勝大会まで行い優勝者を決めるゲーム種目もあるが、『大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U』、『鉄拳7』、『GUILTY GEAR Xrd REV 2』、『ストリートファイターV アーケードエディション』の4タイトルは、3日目にベスト8戦以降を行う格好だ。

そこで気になったのは、1日目・2日目が池袋サンシャインシティ文化会館で実施され、3日目の会場が秋葉原UDX アキバ・スクエアだったことだ。これにはどのような意図があったのだろうか。

「当初はUDXで3日開催する予定でした。けれど、さすがにUDXでオープントーナメントの予選を行うのは狭すぎる。なので別会場を探し、サンシャインシティになりました。ただ、3日目もサンシャインで行うのは、天井高などの問題で難しかったんです。天井が低いので決勝トーナメントならではの演出に不向きだった。なので、3日目は当初の予定どおり秋葉原のUDXで実施しました」

そもそも、なぜ秋葉原であり、次の候補地が池袋だったのだろうか。EVO Japanクラスの大会であれば、もっと大きな会場を3日連続で押さえられなかったのだろうか。

「言い忘れていましたが、本国EVOからの要請で海外からの選手を受け入れることも言われていました。そう考えると、幕張やお台場などは不向きだと思ったんですよ。周りに何もないから面白くない。もし仮に負けた選手がいても、アキバや池袋であれば、周りに遊べるところがたくさんある。そう考えると、場所がかなり絞られるので、場所の選定は難しかったですね。本当なら3日とも同じ会場がいいことは確かなんですが……」

EVO Japan開催中、その熱気のままゲームセンターに出向くプレイヤーも多く、池袋や秋葉原のゲームセンターには日本人だけでなく多くの海外参加組が遊びに行っていたそうだ。

そしてもうひとつ気になったことは、1日目と2日目の雰囲気と、3日目の雰囲気が大きく違うことだ。これは単に会場の違いということではない。1~2日目がオープントーナメントならではの開かれたゲームイベント、ファンによるコミュニティイベント的な雰囲気が強い傾向。対する3日目は、決勝トーナメントステージをひたすら観覧するだけの(TV局の公開収録のような)スタイル。これには賛否もあったが、何を目指し、どうしてこうなったのだろうか。

「これは米国のEVOと同じように、あえてそうしました。初日・二日目が言わばコミケ、三日目がガチのeSports大会。これは米国もそうなんです。ひとつのイベントの中で、フェス的な楽しさからeSports的な要素まですべて成立させているのがEVOのすごいところであり、日本でもそこは踏襲しようと思っていました。
これは、そう要請されたわけじゃなく、EVOをやる以上、そうあるべきだと思ったし、ボク自身がやりたかったことですから」

だからこそ、3日目に余分なお遊び要素(ステージ進行とは関係ない試遊台など)を設けず、ひたすらガチの闘いを見せることに徹したという。そこに違和感を感じた参加者も多かったようだが、両極端なゲームへのふれあいが楽しめることこそ、EVOの魅力だとしたら、EVO Japanでも、それを見事に消化させたと言えるだろう。


EVO "Japan"としてのこだわりはサイドトーナメント

では、EVO JapanはEVOの方法論をそのまま用いるだけの、ローカライズイベントという解釈でしか成立しないのであろうか。国内では「闘神祭」や「闘会議」、そのほか様々なゲーム大会やeSportsイベントが成立してきている。そんな中、国内では後発のEVO Japanとして、本国EVOあるいは国内の数多くのイベントとは違う、明確なこだわりはあるのだろうか。

「一番意識したのはサイドトーナメントですね。米国のEVOだと、フリースペースがあって、そこでユーザーがゲームを持ってきて、仲間内で勝手に大会を開いていいスペースがあるんです。それは日本でも絶対にやりたかった。ただ、そこをちゃんとやる、ってことを強く意識してましたね。ユーザーに勝手にやってもらうんじゃなく、応募してもらい、メーカーに正式に開催の許諾をもらう。小さなゲーム大会……それこそスーパーファミコン版の『らんま1/2 爆烈乱闘篇』も、メサイヤに許可を取りに行きました。
そうやって、本当に小さなコミュニティとメーカーをつなげることをちゃんとやりましたね。とにかく日本の場合、家庭用やアーケードまで本当に様々なゲームのコミュニティがあって、そこが日本のプレイヤーの層の厚さだったり、日本ならではの部分だと思っていたし、日本版EVOならではのこだわりですね」

このサイドトーナメントは、EVO JAPANの開催直後にニュースにもなっていた。この試みだけでなく、しっかりとこだわりを持っていたことに驚くとともに、ゲームがプレイヤーのものであり、遊ぶ人がいるからこそ輝きを放つものであることを改めて感じることができた。それをしっかりと、意識的に行ってきたことは、長年のゲーム大会シーンの中でも大きく評価されるべきことだろう。


EVO Japanが目指したもの、それは「プレイヤーのための大会」

ここまでしっかりとした自覚と構想で作り上げられた「EVO Japan」。だからこそ、その大会が持つテーマ性が気になるところだ。

少々余談になるが、じつはこの記事を構想する一番のキッカケが、あるゲーム大会オーガナイザーからの一言だった。「最近のゲーム大会は“大会をやること”だけが目的になってる気がする。本来、大会からどんなシーンを作るかとか、そこからゲームをどう盛り上げるかとか、その一助として大会があるはずなのに、どこか手段が目的化されて、大会をやることがゴールになっちゃってませんかね?」という苦言である。主催者に大会の開催ポリシーはあるのか、と。

それをヒントに、EVO Japanは今のゲーム大会文化、そして勃興しはじめたeSports大会シーンに対して、どのような位置づけで何をもたらしたいのか、そしてどこに向かいたいと考えているのか。それこそ主催者にEVO Japanの大会ポリシーをズバリ突きつけたかったのである。EVO Japanは何を目指したのか。

「今の日本のeSportsなどの大会って、観るためのイベントなんですよね。プレイするための、プレイヤーのためのイベントじゃないんですよ。声高に言われ盛り上がってる感のあるように言われてるeSportsの大会のほとんどは、プレイヤーのために開かれてないんです。8人とか16人のプロゲーマーをみんなで観るような形が多いんですよ。もちろんそうじゃないものもありますし、全員参加型の大会や予選形式で参加できるものもありますけど、やっぱりプレイする参加者のための大会ってもっと増えたほうがいいと思うし、規模が大きくなった方がいいだろう、とは個人的にすごく思ってるんです。
例えば、対戦格闘ゲーマーの場合、海外の第一線で活躍している人たちって何人もいるんですが、その下の……海外で活躍するような選手たちの強さを支えている、日本でいい練習環境を提供している中級者とか強い選手もいっぱいいます。その人たちがあまりフィーチャーされないし、そういうクラスの人たちのために行われるイベントが、日本では少ないんですよ。どうしても視聴数が取れる海外で活躍する選手をすぐに起用してしまう。普通にゲームが好きな人、普通に好きでうまくなってきた人が参加できるようなイベントをやりたい。EVO Japanで一番やりたかったことがそこなんですよね。
だから誰でも出られるオープントーナメントをやることは日本では大変なんですけど、そこを死守したかったのもそれが理由です。その中から新しいヒーローが生まれたら嬉しいな、という感じで」

言いたいことはよく分かる。何も強い選手や有名な選手はもう不要だと言うことではない。強いなりに見応えもあるし、結果がすべての世界において、メディアや大会が、そうした有名選手を持てはやすのは当然のことだ。むしろ、彼らを起用しなければおかしい。

それはそれとして、「それだけではダメだろう」という危惧……ある意味で危機感まで感じているからこそ、中級者以下にもチャンスを広げていく、だからこそオープンなトーナメントであるEVO Japanが機能することを望んでいたのだろう。

「プロゲーマーとアマチュアが闘うことがほとんどない。プロはプロ同士で闘うことはあっても、同じ土俵でアマチュアとは闘わない。練習とかで付き合ったりしているシーンはあっても、大会のような場じゃなければ本気で対戦することもない。お互いが同じ気持ちでぶつかれる土俵がないので、同じ目線で、同じ気持ちで殴り合える舞台ってのを、大規模なオープンな大会をとにかく増やしたかった。
eSportsが注目され、大会だ、番組だってことでいろいろ観てくると、同じ選手、限られた人しか活躍できてないし、限られた人が選ばれちゃってるんですよね。で、選ぶ側も、視聴数とか人気ある人、海外で活躍してる人を優先して出したい、その方が観てもらえますからね。それは当然なんですけど、それを続けていくとどうなるかって言うと、その下を支えている人がどんどん減っていく。その人たちは活躍できなくて、つまんなくなっちゃうから。そこを完全に変えるのは難しいかもしれないけど、そういう人たちも場合によっては輝ける可能性のある舞台ってのは、意識的に作っていかないと、最後は自分たちの首をしめることになりますからね」

現在のeSportsシーンの大きな一端を担う位置づけと捉えられるEVO JAPANの開催思想には、日本のeSportsが抱える問題への警鐘も含まれていたととらえるのは行きすぎだろうか。

しかし、日本のゲーム大会文化の中でもっとも古く、古くからの歴史がある背景には、つねに意識的に次世代の掘り起こしに努めてきた経緯がある。そしてゲーメスト杯、闘劇、そこで育った選手が海外で活躍しプロゲーマーになっていくが、そうしたシーンで育った若手も数多い。だからこそ、そこに歴史もストーリーもあり、ドラマが生まれる。日本の対戦格闘シーンが世界に誇れる「強さ」とは、そうした20年以上のドラマを、つねに絶やすことなく地続きで育ててきたことだろう。

その重要性を理解し、継承していくEVO Japanおよびハメコ。氏の持つポリシーが、日本のeSports市場にどう影響を与えていくことになるか、今後の活躍に大いに期待したい。

■関連リンク
EVO Japan
https://evo-japan.net/
EVO
http://evo.shoryuken.com/

WRITER RANKINGプロゲーマーやゲーム業界人などの人気ライターランキング