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2018年2月12日(月)
ご当地ワインの危機
大阪府柏原市にある、カタシモワイナリー。
創業104年の歴史を誇る、老舗ワイナリーです。
代表取締役の高井利洋さん(66)。
4代目として、「柏原ワイン」の普及に努めてきました。
年間約20万本を出荷しています。
【カタシモワインフード代表取締役・高井利洋さん】
「外国の真似ではない、日本独自のワインの味、
どっちかと言うと、日本の懐石料理にもあうと、そしてまた、鍋物にもあうとか、
そういうようなワインっていうのを作りたいと思っています」
そのお味はというと…
【竹下洋平記者リポート】
「普段ワインは飲まないんですけれども、ほどよい辛口で、ついついクセになってしまいます」
柏原ワインは、3つ星レストランや、有名ホテルなどで広く飲まれています。
ですが、産地表示のルールの変更で、今年10月から「柏原ワイン」と名乗ることができなくなってしまうのです。
【カタシモワインフード代表取締役・高井利洋さん】
「本当に聞いたときにびっくりしましたね、
なかなかこれから商売も売上も下がるし、厳しいやろうなと、」
柏原ワインのように、産地の名前をブランド化したご当地ワインの人気が近年高まっています。
これまでは、ラベルの地名の表示に関して明確な基準はなく、
原料の産地に関係なくワインを作った場所の地名を名乗ることができました。
しかし、国は、日本のワインの国際的な信用を高めようと、
EUなどの基準にならい、地域で育てたブドウを85パーセント以上使用している場合でないと、
産地名をラベルに表記できないようにしたのです。
このワインでは、地元産のブドウの割合は20パーセントから30パーセント。
残りは、山形県や山梨県のぶどうを使っているため、
新しい基準では、「柏原ワイン」を名乗ることはできません。
しかし、なぜこれまで地元のブドウだけでワインを作れなかったのでしょうか。
それは、大阪・柏原ならではの理由がありました。
【カタシモワインフード代表取締役・高井利洋さん】
「どや、(景色が)丸見えやろ」
高井社長が案内してくれたのは、事務所から歩いて5分ほどのところにある自社農園です。
平均傾斜30度の山合いに広がる約3ヘクタールのブドウ畑を、わずか6人で管理しています。
【カタシモワインフード代表取締役・高井利洋さん】
「山梨とかさ、長野県みたいに車横付けなんて、ブドウ栽培するような場所ちゃうねん、
大阪のブドウ畑って、こんなところで作ってんねや」
そもそも、大阪はかつて、日本一のブドウの生産量を誇る国内最大のワインの生産地でした。
しかし戦後、宅地開発が進み、山合いを除いてブドウ畑が次々と消えていきました。
さらに、生産者の高齢化で耕作放棄地が増加。
いまのブドウ畑は、高井さんが放棄地を買い取って再生したものなのです。
【カタシモワインフード代表取締役・高井利洋さん】
「この風景ってすごく重要やろ、だれが守ってんねんっていったら、ワイナリーが守ってんねや」
地元産のブドウの割合を増やすには、畑の面積を増やすしかありません。
近年の日本ワインブームを背景に、大企業は、新たなブドウ畑の確保を急ピッチで進めています。
しかし、日本にあるワイン業者の約95パーセントが中小企業です。
大阪のワイナリーは全部で6社ありますが、いずれも中小企業。
畑を広げる余裕は、なかなか無いのが実情です。
高井さんは、名称の変更で売り上げが半減するのではと危惧しています。
【カタシモワインフード代表取締役・高井利洋さん】
「新しいブランドとして何が適当なんかというのを、今模索中で、
国税局のほうにも問い合わせしているんですけど、向こうも問い合わせ件数多いから返事も遅いですね、
なかなかいいアイディアがでてこないわけですし、今のところ八方塞りか」
柏原ワインのように、ルール改正で地名を名乗れなくなるご当地ワインは、全国に数多く存在します。
大阪で日本ワインの専門店を営むソムリエは、
今回の改正に理解を示しつつも、ワイナリーの意見も反映させるべきだと指摘します。
【「ミッシェル・ヴァン・ジャポネ」ミッシェル渡辺正敏さん】
「柏原ワインっていう名前で100年商売してたのに、
急に法律変わるからアウトってなると、それはきついと思いますよ。
(地名を)使わして欲しいっていうのは分かりますし、
それを許してくれるルールもどっか作っておかないと、というところはあると思う」
産地表示の基準を決めた国税庁は、
「日本ワインの品質が海外においても評価されてきているが、
ワインの表示に関する公的なルールがない状況では、
日本ワインに対する信用を失ってしまうことになる」とコメントしています。
【カタシモワインフード代表取締役・高井利洋さん】
「この法律の改正で、おそらく大阪ワイナリーワインは大きなダメージを受けると思うけど、
是非、消費者のみなさんの応援を是非お願いしたいなあと。
それによって我々もなんとかこの文化を大阪のワイン文化を残せるのではないかと思ってますので、
是非消費者のみなさんのバックアップをお願いしたいと思います。よろしくお願いします」
果たして、伝統の味は、今後も柏原の地で残っていくことはできるのでしょうか。