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[取材・構成・文・動画制作=昌谷大介、森井隆二郎(A4studio)、撮影=関口友義]

[左]

・角沢亘さん

・35歳

・技術本部 第1試験部 第1G

・社歴11年

・エンジン評価試験や、エンジン開発業務を担当

■プロフィール

・佐伯義和さん

・49歳

・技術本部 第1試験部 第1G

・社歴10年

・エンジン評価試験や、顧客との試験計画の調整を担当

[右]

ここがエンジニアの仕事場! エンジンの試験場や分解場

お二人にお話を伺う前に、アネブルの仕事場を見学させてもらいました。


本社には2つの実験棟があり、合計で11基のエンジンベンチが稼動しています。


最初に案内してもらったのは、第1実験棟。普段エンジンの性能を評価しているベンチを窓越しに見学。ベンチ室のおおよその大きさは幅5メートル、奥行き6メートルです。

こちらは現在、アネブル社製のエンジンを運転し、センサーが正常に動作するかどうかを試験中。プログラムが組まれているためエンジンは自動運転ですが、条件通りにしっかり動いているか目を光らせるのが評価エンジニアの役目なのです。


運転状態の確認には専用のアプリケーションを使用。右手でマウスを滑らせながら、左手はベンチの操作盤に伸びていますね。角沢さんが回しているツマミは、エンジンに送る空気量を調整するためのスロットルのようです。


続いて案内してもらったのは、第2実験棟にある分解場です。

こちらではエンジンの性能を評価する場ではなく、エンジンのオーバーホールを行う際に使われているそうです。オーバーホールとはエンジンを一旦全て分解し、点検、修理、清掃などをした後に再び組み立てる作業。アネブルではエンジンの不具合の原因調査や、消耗した部品の交換も請け負っており、今回はその作業風景を実演してもらいました。

こちらのV型8気筒エンジンは、バルブやそのバルブを開閉する機構、ピストンを往復運動させるための機構など全て取り外されており、ほぼバラし(分解し)終わっている段階。


この後に清掃などをしたうえで、再び組み立てるという状態とのことでしたので、組み立て作業の様子を実演していただきました。角沢さんは鮮やかな手つきで、シリンダーブロックにシリンダーヘッドを取り付けていきます。さすがです。


ちなみに顧客からエンジンを預かったときは、中がどのような状態になっているか未知数。一つひとつの部品を慎重に分解していく必要があり、気を抜けないとのことです。

それではここから角沢さん、佐伯さんにインタビュー。

改めてご紹介しましょう。左がエンジン評価試験やエンジン開発業務を担当する角沢亘さん(社歴11年)。右がエンジン評価試験や顧客との試験計画の調整を担当する佐伯義和さん。いずれも所属は「技術本部 第1試験部 第1G」です。


――では、簡単にお二人の経歴をお教えください。


角沢さん「私は専門学校を卒業し、車の整備工場で5年ほど働いてから、2007年にアネブルに入社しました。それ以降、ずっとエンジン評価の仕事に携わっています」


佐伯さん「私がアネブルに入社したのは2008年。もともとはガソリンスタンドの会社で働いていまして、その後に派遣業を転々としていた頃、アネブルで開かれていた勉強会に参加するようになりました。そして、アネブルから『一緒に仕事をしませんか』という誘いが来たんです」


――アネブルの設立は2005年だと伺っていますので、アネブルの中ではお二人とも社歴が長い方になりそうですね。ではそもそもアネブルがエンジン評価を手がける企業として設立された経緯は?


角沢さん「弊社代表(社長)は会社を立ち上げる際、長期的に見てエンジン評価という仕事にはビジネスの機会が多いだろうと判断していたようです。今でこそEV(電気自動車)も増えていますが、やはり車の動力源として、エンジンは欠かせませんからね。『色々なメーカーのエンジンを評価できるようになりたい』という強い意志を持ち、事業を立ち上げたとのことです」


佐伯さん「車を取り巻く環境も年々変化していますから、メーカーとしても、社会に悪影響を与えにくいエンジンを必要としているんですよね。そういう状況だからこそ、私たちのようなエンジン評価の仕事が役に立てているのではないかと」


――ちなみに、エンジン評価以外の事業も行っているのでしょうか。


角沢さん「はい。エンジンの部品を試作することもありますし、エンジンを評価するのに必要な試験装置そのものを、設計・製作・販売までしております。具体的には排気ガス多点分析装置、風洞BOX、油水温・圧調整装置、エキマニヒーター、電動排気圧力調整弁装置などを作っています」


――なんと、エンジン試験装置を自社製造していると! 装置の開発者が社内にいるということもストロングポイントになりそうですね。


佐伯さん「そのとおりです。試験装置について詳しく知っている人が社内の身近にいるというのは、弊社の強みとなっています。製作にはそれなりのコストがかかりますが、他企業から買ったりレンタルしたりするのに比べればローコストで済みますしね」


角沢さん「もっとも、エンジンの評価を依頼してくださったメーカーさんがお持ちの設備でも、アネブルで実施しているのと同じような試験が行える場合はあります。しかし私たちが目指しているのは、『アネブルが計測してくれたほうが正確性や整合性の高いデータが取れる』と言っていただくこと。実際、かつてはお客様自らが担当していた試験を、アネブルに完全に委託してもらえたケースもあるんです」


――アネブルならではの優れた設備と、スタッフのみなさんの経験や技術が合わさって、信頼と実績を築くことができたんですね。

自社製造した試験装置で、妥協のないエンジン評価に尽力

ちなみにアネブルでは、他にも海外メーカーから取り寄せたモータースポーツのパーツを扱っているそうです。会議室の一角には、アネブルがサポートする豊田自動織機ラリーチームのポスターが貼られていました。

――ここからは、エンジン評価の仕事内容を詳しくお聞かせてください。


角沢さん「私たちが評価するのは、大きく分けて二つ。一つはエンジンそのもので、もう一つはエンジンを構成している単体の部品。自動車メーカーからエンジンそのものの評価の依頼が来るケースもあれば、エンジンの中のパーツを製造しているサプライヤー企業から、部品単体の評価の依頼が来るケースもあるということですね」


佐伯さん「また、一口にエンジンといっても、私たちが乗っている一般的な自動車だけで使われているわけではなく、例えば重機のような産業車両や貨物輸送用の船舶もエンジンで動いていますよね。さらにいうと、遊園地で掃除するときに使うエアーブロワーなどにもエンジンは搭載されています。そういったエンジン全般の試験・評価も行っているんです」


――それらのエンジンや部品に、どのような方法で試験を実施するのですか?


角沢さん「熱や振動などのストレスを加え、どれだけ耐えられるかをテストすることもあれば、エンジンから発生する排気ガスを利用し、それが環境に与える影響を調べることもあります。一つのエンジンを元に、いろいろと細部のパーツを変えながらデータを比較することもありますよ」

――中でも特に難しい試験は?


佐伯さん「『急冷急熱耐久試験』では、エンジンの冷却水を一気に冷やしたり熱したりしますので、エンジンに亀裂が入ってしまいやすいんです。そういう意味では、非常に神経を使います。逆に『連続高速耐久試験』ですと、エンジンを一定の条件で回し続けるのみですので、不測の事態が発生しない限り、そこまで神経を張り詰める必要はないかもしれませんね」


――エンジンを評価するときは、相当な集中力が要求されそうですね。


佐伯さん「どんなエンジンを評価するときも、最初に決めた条件を保てるよう心がけてはいるのですが、『急冷急熱耐久試験』などは温度変化を伴いますので、試験中に少しずつ設定条件から逸脱してしまうことがあるんです。そこでいかに評価の品質をキープするかというのはすごく難しい課題ですし、それゆえに我々の腕の見せどころでもあります」

一筋縄ではいかないイレギュラーに対応するのが腕の見せどころ

――アネブルでは「長時間耐久試験」というものも実施しているそうですが、“長時間”とはどれぐらいのスパンのことを指しているのでしょうか?


佐伯さん「何時間とは一概にはいえず、ケース・バイ・ケースなんです。そのエンジンの出力性能や使用目的によって、どれだけの時間、どのような動かし方をするのかが変わってきます」


角沢さん「300時間(12日以上)ぐらいで終わる試験もあれば、1000時間(40日以上)や1万時間(400日以上)を超える試験もありますね。とはいえ、ずっとベンチ室に張り付いていなければならないわけではなく、24時間ごとだったり50時間ごとだったり、定期的に点検するという形です。ただ、その間も他の試験の納期に追われっぱなしですが……(笑)」

“石の上にも3年”…その先に待つエンジニアとしての開眼

――エンジンの評価エンジニアという仕事は、車好きでなくては務まらないものなのでしょうか?


佐伯さん「車好きじゃないと務まらないわけではないですが、やはり車好きなほうが仕事の飲み込みが早いのは確実でしょう。『この作業、エンジンのどういう部分を見ているんだっけ?』といった根本的な部分が曖昧だったりすると、仕事を覚えるスピードも遅くなってしまいますので」


角沢さん「そうはいっても、初めは車の知識がほとんどない場合でも、仕事を通じてどんどん知識を吸収していくうちに、車に興味が湧いてくる社員もいますからね。それに弊社の場合、CAP(キャリア・アチーブメント・プラン)という独自の教育システムがありまして、入社時点で個々の経験の違いがあっても、自ら足りないところを補完していけるような教育システムを採用しているんです」


佐伯さん「最初に2ヶ月間の研修を受けてから、各部署に配属されます。エンジン内部の構造であったり、部品の名称や役割などの基礎知識を学ぶのが第一歩ですね。また、エンジンのオーバーホールにも研修で挑戦してもらいます」


――では、一人前の評価エンジニアになるまでには、何年くらいかかるのでしょう?


佐伯さん「最低でも3年はかかると思います。これは私の実体験なのですが、同じことを3年続けてみると、その仕事の面白さがおぼろげながらわかってくるもの。自分は今、何をやっているのか? 次は何をすればいいのか? そうやって考えを発展させることができれば、仕事の新しい可能性を開拓できるのではないでしょうか」

――それでは最後に、お二人にとって“働く喜び”とは?


角沢さん「単純にプライベートでも車をイジるのが大好きなので、試験するエンジンがどのように設計されているのかというのに個人的にも興味があり、機能美に優れた設計をされているエンジンを見ると、つい惚れ惚れしてしまいますね(笑)。こういう意図で設計してあるんだろうな、と想像するだけでも楽しいんです」


佐伯さん「私の場合、どのような計器をどこで使い、どうやってエンジン試験を進めていこうかと計画しているときが楽しいですね。エンジン試験を当初の計画通りに遂行でき、お客様から良い評価をいただけたときは達成感を得られますので、それがやりがいにつながります」


角沢さん「そういう意味では私も佐伯さんと同じですが、やはり業務の目的を完遂できたときも嬉しくなりますよ。評価していたエンジンが目標の強度や機能を得られなかったときは、途中で試験を終了してしまうことも珍しくありません。ですからその分、試験を最後までやり遂げられたとき、喜びが大きくなるんです。ちなみにエンジンは常に新しいものが開発されていますので、以前と同じような評価を頼まれたとしても、試験の目的は違っているんです。つまり全く同じ仕事というものはないので、常にやりがいを感じられる職場だと思いますね」


佐伯さん「なるほど、確かに。そういえば最近、お客様から2回目のリピートで依頼してもらった試験がありました。改良版の部品を組み込んだエンジンを評価してほしいということで、私としては1回目の経験を活かしながら取り組めたので、そういう場合、経験がきちんと糧になっているという感覚も強いです」


角沢さん「あとはやはり、まだ世の中に出回っていない試作中のエンジンを扱えることも、評価エンジニアのやりがいですよね。どこのメーカーの、どの車種に向けて開発しているものなのかわからないまま試験を行うケースも、私たちには多々あるんですよ。ただ、事前に情報をもらっている場合は、その後どういう車に使われ、反響はどうだったのかを知ることができます。それは、試験を手がけた者としての醍醐味かもしれません」


佐伯さん「車好きであればあるほど、その喜びは大きくなりますよね」


――ありがとうございました!


車の「心臓」となるエンジンには、開発・製造するだけではなく、その性能を試験・評価をする仕事もあり、そして、そんなエンジンと触れ合う仕事には車好きにはたまらない醍醐味があるようですね!

取材先 : 株式会社アネブル

URL   : http://www.enable-os.co.jp/

取材日時: 2018/3/16


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