連載
身近なお金の失敗談

生涯で5000万円以上を失ったギャンブラー! そんな男が頑なに守る”一線”とは?

「株で大損した」「競馬にはまり、貯金の大半を溶かした」など、お金にまつわる失敗談は枚挙にいとまがない。投資やギャンブルをやらない人でも、ネットショッピングで偽ブランド品をつかまされたり、営業マンにいわれるがまま不利な条件で住宅ローンを組んでしまったりと、お金で痛い目に遭う可能性はゼロではない。

そこで、本企画では過去に(もしくは現在進行形で)お金で手痛い思いをした人々を直撃。リアルな体験談を根掘り葉掘り聞き、その経験から得た反省や学びを語ってもらう。彼らの実話を反面教師とし、大切な”お金”で大きな失敗をしないための教訓となれば幸いである。
(人物の特定を避けるため、エピソードの一部を加工しています)

10代で覚えた麻雀を皮切りに、あらゆるギャンブルに手を出した

今回お話を伺ったのは、ITエンジニアのOさん(55歳・東京都在住)。長い金髪をうしろでたばね、派手な眼鏡をかけている。いかにも、“遊び慣れた大人”というたたずまいだ。

Oさん。身なりは派手だが清潔感があり、きちんとした人に見える

Oさん。身なりは派手だが清潔感があり、きちんとした人に見える

Oさんは生来のギャンブラー。10代で始めた麻雀、パチンコから仮想通貨に至るまで、出した損失は(憶えているだけで)5000万円を超えるという。一つひとつのエピソードもパンチが効いていて、マンガのように豪快な失敗を重ねている。それにも関わらず、終始あっけらかんとした態度が印象的だった。

「人生はギャンブルだと思っています。いいこともあれば、悪いこともある」と、達観したようなことをいうOさん。「まずは軽いところからいきましょうか」と、その博打遍歴について語ってくれた。

「そもそもの始まりは家庭麻雀です。実家の隣に雀荘があって、大学生のお兄さんたちがよく入り浸っていた。メンツが足りないと私が呼ばれて、成人のみなさんと楽しくチョコレートを賭けて遊んでいました。パチンコもその頃に覚えて、思えば10代から道を踏み外していましたね」(Oさん、以下同)

以降は、あらゆる賭け事に手を出したという。

「20代から30代の前半くらいまでは主にパチンコ、パチスロ、競馬。競馬はね、当時パソコン通信の掲示板に『万馬券部屋』っていう競馬フォーラムがあって、それに参加していました。僕のスタイルは、基本的に穴狙いなんですよ。万馬券に1万円を何点も突っ込んだり、1日当たり100万円くらい賭けたりしたときもあった。競馬は穴を狙ったほうが、結果的に回収率はいいんですよ。もちろん滅多に当たらないけど、それでも全部に張っていれば年間20本くらいは拾える。だから、収支でいうとプラス。JRAには勝ってます(笑)」

時計はロレックスを好む

時計はロレックスを好む

ラスベガスで一晩1000万円! 株に手を出し300万円が紙くずに

競馬はその後、三連単や三連複などが登場し、「買い方が複雑になりすぎて万馬券を拾える確率が減った」ため引退。すると今度はカジノ遊びに精を出し、米ラスベガスと日本を幾度も行き来するようになる。

「多いときで年5回くらい行き、それが何年も続きました。主にバカラとブラックジャックですね。元手は10万円くらいでも、勝って、また張ってを繰り返していると、トータルで1000万円くらいは一晩で賭けたんじゃないかな。ベガスのカジノって時計がないので、気付くと朝まで寝ないで没頭しちゃうんですよ。お酒はチップで飲み放題ですし。まあ、酔わせて思考回路を狂わせようというカジノ側の作戦なんですけどね。僕はついベロベロになるまで飲んじゃって、『今日は酔拳だな』なんていいながらやってた。まあ、結局は運なんですよ。運がいいときは、何も考えなくても勝てます」

そして、ベガス熱がやや冷めてくると、次は「株式投資」に手を出す。

「最初は投資という感覚ではなかった。知人から『これ、儲かるみたいだよ』ってそそのかされて、儲け話に乗った感じ。いま思えば、そんなうまい話あるわけないけど、そのときはいわれるがまま300万円を当時大手企業だった某銘柄に突っ込んだ。まあ、ことごとくやられましたけどね。ただ、根がばくち打ちなんで、これが化けたらでかいだろうって、そこも“穴狙い”で。そしたら、化けることなく普通に倒産しました(笑)。こないだ部屋を掃除してたら、そのときの株券が出てきましたよ。文字通りの紙くずですよね。300万円が紙くずになってしまったんだなあって、改めて思いました」

投資をしっかり勉強してそれなりに儲かるようになった

しかし、そこでめげないのがOさんだ。次は株式投資をしっかり勉強して、それなりのリターンを得られるようになったという。

「でも、所詮は“それなり”なんですよね。大きく損もしなくなったけど、たいして儲かりもしない。ばくち打ちの血が騒がない。だから株はやめて、FXにしました。FXは当たるとでかいじゃないですか。まあ、負けもでかいんだけど。日本時間からニューヨーク時間になった瞬間に大きく暴落して、っていうのを何度か経験しました。リアルに『ぎゃー』って声が出ましたよ。結局、株とFXはトータルで1000万円くらいは負けたかな。いま思えば、もうちょっと勉強してからやれよって感じですけど、でも少しはチャートが読めるようになったから、よかったかもしれない」

仮想通貨での一儲けも狙っている

ちなみに、最近のホットな話題といえば仮想通貨だが、当然Oさんも一枚かんでいる。

「私はコインチェックで口座を開いています。NEMはほとんど持ってなかったけど、ほかの通貨がロックされてしまいました。いつもは手元のウォレットに入れているんです。でも、たまたま移すのを忘れていたらあの流失が起きた。まあ、びっくりだよね。ビットコインもいまほど話題になる前からやってたけど、当初は『コインの枚数を増やすゲーム』みたいな感覚でした。ただ、私にはトレードのセンスがないみたいで、まったく儲かっていないですね」

このほかにも、ここには書けないグレーな話がたくさんあって、それら諸々を含めたトータルの「負け」は自分でも把握しきれないという。

うまい話はない。欲に目がくらんで怪しげなビジネス話に乗って後悔

「色々やってきたけど、一番痛かったのは、とある海外ビジネスに出資してトータル3000万円を失ったときだね。最初は儲かったんですよ。いきなり500万円くらいポーンとリターンがあったりして。いま思えば詐欺だったんだろうけど、もう後に引けなくなっててね。リターンがなくなってもずっと律儀に送金し続けていつの間にか3000万円。怪しいとは思いつつも、何とか金を工面できてしまう間は止められないんですよ。結局、欲に目がくらんだってことなんでしょうけどね」

過去の苦い経験から「絶対にギャンブル目的で借金してはいけない」と悟る

ただOさん、これだけの損失を出しておきながら、現時点で借金はゼロ。ギャンブルの原資はすべて働いて得たお金、そして妻からの「援助」であるという。

「借金はパチンコにはまっていた20代の頃に少ししたかな。消費者金融で200万円くらい。勝ったら返そうって思うんだけど、勝ったらさらに大きく賭けちゃうんですよね。それで、みるみるうちに借金が膨らんでしまって、さすがにまずいぞと。そのとき、借りたお金でギャンブルをやるのはよくないと悟った。以来、借金はせず自分の稼ぎの範囲内で遊んでいます」

「ただ、さっき話した3000万円を溶かしちゃったときはさすがに首が回らなくなって、妻のキャッシュカードで1000万円使い込んだり、質に入れられるものは何でも入れたりしたなあ。最初は車とか時計とか自分のものを、それでも足りなくなったから、最終的には婚約指輪を担保にした。それはさすがに、後日お金を作って質受けしましたけどね」

婚約指輪を質に入れてギャンブルをする。普通は人に明かすことをためらうであろうエピソードである。しかしOさんは「まあ、元々は俺がプレゼントしたやつだから」と、事もなげに笑う。まったく笑える話ではないが、彼はなぜ、こんなにも明るいのだろうか?

「ただ、私だってさすがに3000万円をふっとばしたときは落ち込みましたよ。自殺も頭をよぎりました。でも、そこで一度死んだと思って、後の人生は『おまけ』だと考えたら、なんだか開き直れてしまった。お金がなくなったらまた仕事して稼げばいいし、車や時計が質流れしたらまた買えばいい。僕は50歳を過ぎてますけど、選ばなければどんな仕事だってできますよ。借金はしないっていう一線だけは守って、後はワンチャンスに賭ける。そのほうが、残りの人生だって夢があるじゃないですか」

まさに、根っからの夢追い人だ。

一発逆転に賭け続けるギャンブル漬けの人生は是か非か

最後に聞いてみた。いったい、いくら稼いだらギャンブルを卒業しますか?

「この歳ですから、そんなにはいらない。そうだな、税引き後で1億円作れたら、もういいかな。残り20年くらいの人生だから、物価の安い海外で、ぜいたくしなければゴールまで行けるでしょ。預けているだけで10%くらい金利が付く国もありますしね。そしたら利息で暮らしていける。私だって本当は早くリタイアしたいんですよ。だから1億稼いだら、すぐに足を洗います」

老後資金1億円は普通に働いても貯まらない。ならばギャンブルで一縷の望みにかけようというのがOさんの考え方だ

取材を終えて・・

本稿の冒頭で「反省や学びを教訓に」と書いた。しかし申し訳ない。今回のエピソードには、あまり役立つ教訓はなさそうだ。なんせ、本人がまったく反省しておらず、何も学んでいないのである。おそらくOさんは1億円を稼いでも、また新たな儲け話に乗るだろう。そのほうが彼らしいし、何より楽しいに違いない。強いて挙げるなら「投資はしっかり勉強してから」「ギャンブルでは絶対に借金しない」といったところか。

はたして彼の生きざまを是とするか、反面教師として心に刻むか。それは賢明な読者のご判断にまかせたい。

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
ツイッター: @noriyukienami
ホームページ:https://www.yajirobe.me/

※本記事は、執筆者個人または執筆者が所属する団体等の見解です。

榎並紀行

榎並紀行

1980年生まれ埼玉育ち。東京の「やじろべえ」という会社で編集者、ライターをしています。ニューヨーク出身という冗談みたいな経歴の持ち主ですが、英語は全く話せません。

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