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東京電力の旧経営陣3人が福島第一原発の事故を防げなかったとして検察審査会の議決によって強制的に起訴された裁判。半年ぶりに再開され、これから20人を超える証人を法廷に呼ぶ集中審理が行われます。原発事故の真相は明らかになるのでしょうか? 初公判から判決まで、毎回、法廷でのやりとりを詳しくお伝えします。

第5回公判 2018年4月10日

巨大津波の想定「元副社長の方針は予想外」社員が証言

福島第一原発の事故をめぐり東京電力の元副社長ら3人が強制的に起訴された裁判で、東京電力の津波対策の担当者が証人として呼ばれました。担当者は、巨大な津波が来るという想定を事故の3年前に報告したものの、元副社長から、さらに時間をかけて検討するという方針を告げられ、「予想外で力が抜けた」と証言しました。

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東京電力の元会長の勝俣恒久被告(78)、元副社長の武黒一郎被告(72)、元副社長の武藤栄被告(67)の3人は、原発事故をめぐって業務上過失致死傷の罪で強制的に起訴され、いずれも無罪を主張しています。

事故の9年前、平成14年には、政府の地震調査研究推進本部が、福島県沖で巨大な津波を伴う地震が起きる可能性を公表していて、裁判では、こうした地震を想定して対策をとっていれば事故を防げたかどうかが争われています。

4月10日、東京地方裁判所で開かれた5回目の審理では、当時、東京電力で津波対策を 担当していた社員が証言しました。

社員は、福島県沖の地震の可能性について、「権威のある組織の評価結果であることなどから、想定の見直しに取り入れるべきだと思った」と証言しました。

そして、この見解をもとに、事故の3年ほど前の平成20年6月に、巨大な津波が来るという想定を武藤元副社長に報告したものの、7月になって、さらに時間をかけて専門の学会に検討を依頼するという方針を元副社長から告げられたと説明しました。

この時の心境について、社員は「津波対策を進めていくと思っていたので、予想外で力が抜けた」と証言しました。

審理は11日も行われ、同じ社員が証言します。

告訴団「最も重要な証言」

東京電力の旧経営陣3人が強制的に起訴されるきっかけとなった告訴や告発を行ったグループは、10日の審理の後、会見を開きました。

グループの海渡雄一弁護士は、法廷で証言した社員について、「裁判全体の中で最も重要な証人だと思う」と述べました。その上で、「技術者として、一生懸命津波対策をやろうとしていたのだろうと思う。『力が抜けた』という感想は、最も重要な証言ではないか」と話していました。

長期評価「津波想定に取り入れるべき」と証言

法廷で証言した東京電力の社員は、福島第一原発の事故の20年近く前から原発に押し寄せると想定される津波の高さについての検討などに関わっていました。

10日の裁判で社員は、事故の4年前(平成19年)には政府の「長期評価」を原発の津波の想定に取り入れるべきと考えていたと証言しました。

「長期評価」とは、政府の地震調査研究推進本部が地震が起きる地域や発生確率を推計して公表するもので、東日本大震災の9年前の平成14年に、太平洋の日本海溝沿いの福島県沖を含む三陸沖から房総沖のどこでも巨大な津波を引き起こす地震が起きる可能性があると公表しました。

社員は、この「長期評価」の見解について平成16年に土木学会が行った専門家へのアンケート調査で、「支持する」とした専門家が過半数になった結果を重視していたと証言しました。

また、「長期評価」を取りまとめる地震調査研究推進本部は国の権威であることや、東京電力自身が青森県に建設を計画している東通原発1号機の地震の想定には「長期評価」の見解を取り入れていたことなどをあげ、福島第一原発の津波の想定にも取り入れるべきと考えていたと証言しました。

そして、「長期評価」の見解をもとに、グループ会社の「東電設計」に計算させたところ、平成20年3月には、福島第一原発に押し寄せる津波が、最大で15.7メートルに達する可能性があるという結果がまとまり、6月には、対策の検討状況と合わせて、当時、副社長だった武藤栄被告に報告しました。

しかし、翌月の7月、武藤元副社長から「研究を実施する」として、すぐには対策を行わず、さらに時間をかけて検討する方針を伝えられたということです。

この結論について社員は「私が前のめりに検討に携わってきたのもありますが、対策を進めていくと思っていたので、いったん保留になるというのは予想しなかった結論で力が抜けた」と証言しました。

詳報 第5回公判

原発事故の責任をめぐる刑事裁判は5回目のきょうから集中的な審理が始まりました。証人として呼ばれたのは、東京電力で長年にわたって津波対策を担当していた社員。その発言に注目が集まりました。

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東京地方裁判所でおよそ1か月ぶりに開かれた裁判。
東京電力の勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の3人は、きょうも硬い表情で法廷に入りました。

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今回は東京電力の土木グループという部署で長年にわたって原子力発電所の津波対策を担当していた社員が証人として法廷に呼ばれました。注目されたのは、原発事故の前、東京電力の社内ではどのように津波の想定を行っていたのかという点です。

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津波の想定のもとになる巨大な地震の予測は、原発事故の9年前、平成14年に公表されていました。公表したのは、政府の地震調査研究推進本部です。地震が起きる地域や発生確率を推計した「長期評価」の中で、福島県沖でも巨大な津波を引き起こす地震が起きる可能性があるという見解を示していました。

しかし、旧経営陣3人の弁護士は「長期評価」の信頼性については、当時、専門家の間で見解が分かれていたと主張しています。

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裁判では、「長期評価」にどれだけの信頼性があったのか、そして、「長期評価」で予測された規模の地震に対して津波の対策をとっていれば事故を防げたのかが争われています。

法廷で証言した社員は、事故の4年前、平成19年ごろから、最新の知見をもとに原発の安全性を再検討する「バックチェック」という作業に関わりました。社員は「バックチェック」の項目に津波対策が追加されたことから、その想定に「長期評価」を取り入れるかどうかを社内で議論したと証言しました。

検察官役の指定弁護士は、「当時、『長期評価』を津波対策に取り入れることをどう考えていたか」と尋ねました。

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社員は、「取り入れるべきだと考えていた」とはっきりとした口調で答えました。その理由として、地震学者などへのアンケートで「長期評価」を評価すべきだという意見が過半数を超えていたことや、別の原発の設置許可申請ではすでに「長期評価」が取り入れられていたことなどをあげました。

さらに、この年に発覚したある問題も関係していたと説明しました。平成19年、東京電力は、柏崎刈羽原子力発電所の沖合にある断層について「活断層」だと再評価していたことを公表しなかった問題で謝罪に追い込まれました。

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新潟県に説明と謝罪をする武黒副社長(当時・右)

法廷で、社員は、「社内の考え方だけで決めるのではなく、県民目線で考え、できるだけ速やかに公表することが重要だという教訓が得られた」と振り返りました。そのうえで、「一般の目線で判断して、早く公表することが重要だと思っていた」と証言しました。

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「長期評価」を取り入れることは、土木グループの意見としてまとめられ、ほかの電力会社に対しても、打ち合わせの際などに伝えていたということです。

事故の3年前、平成20年には「長期評価」をもとにグループ会社の「東電設計」が作成した津波のシミュレーションが完成しました。その内容は、福島第一原発の敷地に最大15.7メートルの高さの津波が到達する可能性があるというものでした。

指定弁護士からこの想定を目にしたときにどう感じたかを聞かれると、社員は「建築や土木設備グループなど関係各所に結果を適切に伝え、対策を実施すべきだと感じた」と証言しました。

平成20年6月。

社員たちは、まとまったばかりの「15.7メートル」という津波の想定を武藤元副社長に報告しました。

ところが、1か月あまりがたった7月31日。

武藤元副社長から、津波対策を保留して専門の学会に検討を依頼するという方針が告げられたということです。

その時の心境について指定弁護士から尋ねられた時、社員は、「前のめりに津波対策の検討に携わってきたのもありますが、予想していなかったというか、力が抜けました」と答えました。

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社員への質問は5時間余りにわたり、午後5時ごろに審理が終わりました。

きょうの質問は、指定弁護士が自分たちの主張に沿って当時のいきさつを確認していくもので、事実関係で新たなものは出てきませんでした。

一方で、現場レベルでは事故の数年前から巨大な津波の可能性が真剣に議論されていたこと、そして、担当者が対策をとるべきだと考えていたという胸のうちが明らかになりました。

問題は、当時の経営陣がこうした現場の声をどう受け止めていたのかという点です。

きょうから始まった集中審理で予定されている東京電力の関係者の証言は、その核心に迫るものになるかもしれません。

あすも引き続き証言する社員の発言が注目されます。

第4回公判 2018年2月28日

「『津波想定小さくできないか』と東電が依頼」グループ会社社員

第4回公判ではグループ会社の社員が証人として呼ばれました。社員は、事故の3年前に巨大な津波の想定をまとめた際、東京電力の担当者から「計算の条件を変えることで津波を小さくできないか」と検討を依頼されたことを証言しました。

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津波想定 責任者の証言は…

法廷で証言した「東電設計」の社員は福島第一原発に押し寄せると想定される津波の高さを計算した責任者でした。

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第3回公判 2018年2月8日

被告側弁護士「防潮堤建設しても事故防げず」証拠提出

被告側の弁護士が防潮堤を建設していたとしても事故を防げなかったとするシミュレーションの結果などを証拠として提出しました。

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第2回公判 2018年1月26日

東電社員「巨大津波予測できず」公判で証言

およそ半年ぶりに再開された裁判で、東京電力の社員が、事故の3年前に幹部が参加した会議で巨大な津波の可能性を示す試算が報告されていたと証言しました。一方で、「試算には違和感をおぼえた」と述べ、津波は予測できなかったと説明しました。

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東京電力の事故調査報告書とは

東京電力は、事故を起こした当事者として社員およそ600人からの聞き取りや、現場での調査などをもとに対応や経緯などを検証し、事故の翌年に「福島原子力事故調査報告書」をまとめました。報告書では、事故の原因について「津波想定は結果的に甘さがあったと言わざるを得ず、津波に対抗する備えが不十分であったことが今回の事故の根本的な原因」と結論づけています。

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詳報 第2回公判

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今後の公判日程

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初公判 2017年6月30日

原発事故 東電旧経営陣3人 初公判で無罪主張

東京電力の旧経営陣3人が、原発事故をめぐって強制的に起訴された裁判が始まり、3人は謝罪したうえで「事故は予測できなかった」として無罪を主張しました。一方、検察官役の指定弁護士は、事故の3年前に東電の内部で津波による浸水を想定し、防潮堤の計画が作られていたとして対策が先送りされたと主張しました。

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津波対策めぐるやり取り 一部明らかに

初公判では、東京電力の社内で津波対策をめぐって交わされたメールなどの具体的なやり取りの一部が明らかにされました。

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指定弁護士(検察官役)が指摘したこと

検察官役の指定弁護士は、東京電力の社内で開かれた会議の議事録や津波対策の担当者がやり取りしたメールなど新たな証拠を示し、3人は事故の前に津波を予測できたのに津波への対策を取らなかったと主張しました。

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旧経営陣の反論

東京電力の旧経営陣3人は、当時の津波の想定では事故が起きることを予測できなかったと反論しました。

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福島原発告訴団「無罪主張に疑問」

東京電力の旧経営陣の告訴や告発を行った「福島原発告訴団」の団長の武藤類子さんは裁判の後で会見を開きました。

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「事故の真相知りたい」 遺族の思い

原発事故から避難する途中で亡くなった被害者の遺族は、「事故の真相を知りたい」と願っています。

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指定弁護士 冒頭陳述 全内容

問われているもの

福島第一原子力発電所の概要等

非常用電源設備等の設置状況

福島第一原子力発電所における事故の経過

本件事故の原因

事業者の注意義務

被告人らの立場とその責任

本件の争点

国による津波防災対策

文部科学省地震調査研究推進本部による長期評価の公表

社団法人土木学会による「重み付けアンケート」

内部溢水・外部溢水勉強会の開催と報告

原子力安全・保安院による「耐震バックチェック」の指示と東京電力の津波対策

想定津波水位の計算結果とこれに対する被告人らの対応

土木学会第3期、第4期津波評価部会における検討

福島地点津波対策ワーキング会議の開催

長期評価の改訂

原子力安全、保安院による東京電力に対するヒアリング

まとめ

旧経営陣弁護側 冒頭陳述 全内容

3人の共通の主張

勝俣元会長の主張

武黒元副社長の主張

武藤元副社長の主張

基礎知識

最大の争点は「津波の予測」

裁判では、原発事故を引き起こすような巨大な津波を事前に予測することが可能だったかどうかが最大の争点になります。

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旧経営陣3人の立場と関与は

検察審査会の議決によって強制的に起訴された東京電力の旧経営陣3人は、いずれも津波対策を判断する上で極めて重要な立場にいました。

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検察が不起訴にした理由は

検察は平成25年9月、告訴・告発されていた旧経営陣全員を不起訴にしました。どのような理由だったのでしょうか。

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検察審査会の判断のポイントは

検察審査会は、平成27年7月、原発事故が起きる前の東京電力が経営のコストを優先する反面、原発事業者としての責任を果たしていなかったと結論づけました。

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東電内部資料「津波対策は不可避」

東京電力が行っていた津波の試算は、別の民事裁判で当時の内部資料が提出され、具体的な内容が明らかになっています。

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事故調からも厳しい指摘

東京電力福島第一原子力発電所の事故をめぐっては、政府や国会などさまざまな組織で検証が行われ、津波への対応について「対策を立てる機会があった」とか「不十分だった」などと指摘しています。

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民事裁判では「予測可能」の判断も

原発事故をめぐる民事裁判では、裁判所が「東京電力は津波を予測できた」と判断したケースもあります。

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強制起訴 きっかけは1万人の告訴・告発

東京電力の元会長ら3人が強制的に起訴されたきっかけは、福島県の住民などによる告訴や告発でした。

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年表

原発事故 強制起訴をめぐる動き
平成14年(2002) 7月

政府の地震調査研究推進本部
福島県沖含む日本海溝沿いで30年以内にM8クラスの地震が20%程度の確率で発生する可能性があると予測

平成20年(2008) 3月

東京電力 福島第一原発の敷地に最大で15.7メートルの津波が押し寄せるという試算をまとめる

6月

東京電力 最大15.7メートルの津波試算を武藤元副社長に報告

平成23年(2011) 3月

東日本大震災 福島第一原発事故発生

平成24年(2012) 6月

福島県の住民グループなどが東京電力旧経営陣などの刑事責任を問うよう求める告訴・告発状を検察当局に提出

平成25年(2013) 9月

東京地検 東京電力旧経営陣など40人余りを全員不起訴処分

10月

住民グループ 旧経営陣6人に絞り検察審査会に審査申し立て

平成26年(2014) 7月

検察審査会 勝俣元会長ら3人を「起訴すべき」と1回目の議決

平成27年(2015) 1月

東京地検 改めて3人を不起訴処分

7月

検察審査会 3人を「起訴すべき」と2回目の議決

8月

裁判所 指定弁護士を選任

平成28年(2016) 2月

指定弁護士 3人を業務上過失致死傷罪で起訴

平成29年(2017) 6月

勝俣元会長ら3人の初公判

平成30年(2018) 1月

第2回公判 証人尋問(東京電力社員)

平成30年(2018) 2月

第3回公判 追加証拠提出
第4回公判 証人尋問(東電設計社員)