植物の必須元素と欠乏症・過剰症
これらの記載は一般的な水上植物における知識ですので、水草、特に水槽という閉鎖空間において確実に適応できるかは定かではありません。しかし植物である以上共通点はあると思いますし、参考までに見てみていただけると幸いです。
また、素人の文なので間違いが有る場合があり、予告無く記述内容が変更される場合もあります。
尚、これらの情報を元に何らかの問題が発生した場合の責任はもちません。自己責任でお願いします。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
※施肥(肥料を与える)をするにあたり
�施肥する場合、やりすぎに注意してください。最適な施肥量はどのような水草がどれ位植わっているかで大きく変化するため、水槽ごとに異なります。また施肥の効果が目に見えてくるのは1週間(以上?)のタイムラグがあると考えるのが妥当です(大体の目安ですが・・・)。直ぐに反応が無いからといって続けて施肥すると、コケの発生や生体の死につながる危険性があります。
繰り返しになりますが、水槽内の養分環境は水槽内の水草・生態の数、餌の量や種類、水換えの頻度、底砂からの染み出し、底砂による吸収など、様々な要因に影響を受けます。適正な施肥量は水槽ごとに異なるので、低濃度の施肥から試み、日々観察しながら感覚的に学ぶか、各種試示薬などを用いて視覚的に見ていくのも良いと思います。裏技?としてリシアなど水中の養分に依存し、生長が早い植物などを観察すると、水槽内の様子が良くわかります。我が家では、アメリカンウォータースプライトを浮き草状態で育てて、窒素濃度の指標としています。
� 肥料を投与しすぎた場合、水換えが有効な手段です。生体へのダメージを考えながらですが、少ない量で何度も水換えを行うより、一度に大量の水替えを行った方が効果があります(私は一回の水換え量を、60cm(濾過槽を含んで約70L)水槽に対し、20Lを上限に水替えをします)
�肥料を与えた場合、エビなどの環境の変化に弱い生体は死ぬ可能性があります。
※活性炭は、無機イオンをあまり吸着しないことが明らかになりました。以前誤った記述をしていたことをご報告いたします。
※ページの一番下に、「おまけ知識シリーズ」を書いてます。一読しておく価値はあると思い記載しているので、時間が有れば見てください。
-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------
●植物の症状から、簡単に欠乏症・過剰症の原因を見ることの出来るチェック表を用意しました↓
※簡単チェック表と、下記の一覧とでは引用図書が異なるため記述が異なる点があります。ご了承下さい。
・欠乏症簡単チェック表 ←クリックすると、開きます
・過剰症簡単チェック表 ←クリックすると、開きます
●植物における必須元素の機能、欠乏症および過剰症
|
機 能
|
欠乏症状
|
過剰症状
|
||
多量必須元素 |
三 |
窒素 N |
多くの植物は無機態の硝酸(NO3)を吸収し(一部の植物はアンモニア(NH3)で吸収)、アミノ酸を作りさらにこれから蛋白質ができあがる。これらの多くは生命維持に重要な化合物である。 この他、葉緑素 や酵素、ホルモンや核酸などの体内で重要な働きをしている化合物の形成に使われる。 窒素(N)は生長量に比例して必要であるから、不足すると生育が著しく阻害されるが、半面、過剰な吸収は作物体を軟弱にし、病気に対する抵抗力を低下させる。 窒素化合物であるNO3を、アクアリウムでは硝酸塩。農業の世界では硝酸態窒素と呼ばれ、この呼び方の違いがアクアリウムの世界で混乱を招く結果になっています。もう一度言いますが、硝酸塩も硝酸態窒素も、NO3という同一の物質です。硝酸塩を過敏に嫌わないで下さい。植物には大切な物質です。 |
1、下葉が黄化し、枯れ上がる。 2、植物体全体が、淡黄色となる。 3、 生長点の葉が小さくなる(=植物体が小さく育つ)。 4、 根の発達、伸長が鈍化する。 |
1、 葉は暗緑色
となり、
病害虫冷害などの抵抗性が減少する。 2、 軟弱徒長(ヒリョロヒョロになる)する。 |
燐酸 P |
植物の生命現象を司る重要な要素で、DNA、細胞膜、エネルギー転流に用いるATPの原料となる。植物体内では移動が活発で、重要な代謝作用を行っている部位に多く存在する。よって、リシアなど
生長が早い植物や、ランナーを多く出す植物は、多くの燐を必要とする傾向がある。 園芸において花や果実をつけるのに重要視される元素であり、市販の園芸用肥料に燐(P)を多く含む物が多いのはそのためである。 また、細胞が著しく増加する生育初期に、適量の燐酸(P)が吸収されていると、その後の生育も良く作物体が強健にでき病気に対する抵抗力も強くなる。 アクアリウムで利用されているソイルの多くは、火山灰土壌である黒ぼく土を利用しているためアロフェンを多く含んでいます。アロフェンはリン結合性が高いため、水槽では過剰になりがちなリンを吸着してくれることが期待できると考えられます。 |
1、 植物体葉色が光沢の少ない濃緑色または赤紫色になる。 2、 新芽やランナーの発生・生長が顕著に低下する。 3、 生長点の葉が葉が小さくなる(=植物体が小さく育つ)。 4、根毛が粗大になり、発育不良となる。 |
1、 一般に過剰障害は出にくい。 2、 燐酸(P)の多用は亜鉛(Zn)・鉄(Fe)・苦土(Mg)欠乏を助長する。 |
||
加里 K |
光合成における光リン酸化反応においてATPの生産を促進。さらに作物体内の蛋白質や炭水化物の合成移動を助け、植物体内の浸透圧調整役目を担っている。 結果、組織が強固になり茎・根を丈夫にし、暑さ・寒さに対する対抗性や病虫害に対する抵抗性を高め、さらには 日照不足による生長速度の低下を抑えるなど、様々な効果が期待できる。 植え替えやトリミング後の生長回復に効果的である。 |
1、
欠乏症状は一般に下葉より発生、上葉に及ぶ。 2、 下葉が白色化。 3、 葉に皺がよったり捩じれを生じることがある。 �葉縁より黄化し、その後縁枯れを起こす、�葉面に不規則な大型斑点(白色または褐色)を生ずる、�葉脈が赤紫色になる、などがある
|
1、
窒素(N)と同様過剰吸収しやすいが、外見上、過剰障害は現れづらい。 2、 加里(K)過剰は、苦土(Mg)・鉄(Fe)・石灰(Ca)の吸収を抑制しこれらの欠乏症を助長する。 アクアリウムの場合、ブライティKなど、カリウム肥料のみを添加する場合が多いため、過剰に投与しないか留意したい。 |
||
石灰 Ca |
葉に多く存在し、代謝作用時の有機酸の中和を助ける。また体内の
糖の移動に強く関与しこれが不足すると、葉でできた炭水化物の移動が妨げられる。 このほかに細胞がバラバラにならないようにくっつけておく糊の役目をしている。 |
1、
生長点が白色化。根は細根の少ない太い根を生じる。 2、根の生育が抑制され、根腐れが生じやすい。 |
1、
石灰自体の過剰症は出にくいが、土壌pHが上がることにより微量要素が溶出しづらくなり、その欠乏症が発生する。 2 、石灰(Ca)の多用は燐酸(P)・苦土(Mg)・加里(K)の吸収を抑制する。 |
||
苦土 Mg |
葉緑素を構成している要素
。この構成の中心に位置しているため、植物体は緑色に見える。このため苦土(Mg)が不足すると緑色から黄色くなり、光合成が減じる。 また苦土は作物体内で燐酸が移動するのを助ける役目を持っており、苦土が不足すると細胞分裂の盛んな生長点に燐酸が運ばれないため生育が悪くなる。 |
1、下葉から現れる。 2、葉緑素の形成が阻害され葉脈間が黄化。しかし、窒素(N)欠乏と異なり、 葉脈部分の緑色が残るのが特徴。 3 、黄化部の壊死は起こりづらい。 4、加里(K)の多用は苦土(Mg)欠乏を助長する。 |
|||
硫黄 S |
含硫黄アミノ酸の構成成分であり蛋白質の元となる。植物体内では蛋白質のような有機態の硫黄(S)で存在するほか、相当量の硫黄が、無機態で存在し酸化還元系に関与している。
アクアリウムで利用されているソイルの多くは火山灰土壌である黒ぼく土を利用しているため、硫黄含有量が多い。そのため、ソイルが古くなり、老廃物がたまった場合や、ソイル中の鉄含有量が減少した場合に硫化水素が発生し、水草の根に深刻なダメージを与える危険性がある。 |
1
、窒素欠乏の似ており、下葉が黄化し、枯れ上がる 2、火山灰土壌が多い日本では、殆ど欠乏症は見られない(水槽内では十分有り得ます)。 |
1、
硫黄自体の過剰症は発生しない。 2、 土壌中に老廃物が溜まった場合、そこから発生する硫化水素の原因となり、植物の根に深刻なダメージを与える。 3、 土壌中の硫酸塩が多くなると酸性化する。 |
|
機 能
|
欠乏症状
|
過剰症状
|
|
微量必須元素
|
鉄 Fe |
葉緑体の燐蛋白と結合し葉緑素の形成に関与する。欠乏すると葉が黄白化する(クロロシス)。また酸化還元反応に関与し、呼吸の際、酸素の運搬を行っていると推測されている。代謝作用ではこれが不足すると蛋白質の合成が阻害され、作物体内に可溶性窒素が溜まるので病気にかかりやすくなる。 |
1、
植物内で移動しづらいため、欠乏症状は新芽に現れる。 2、 葉緑素の生成が妨げられ、生長点が黄白色化する 。褐変・壊死は起こりづらい。 |
1、
多量の鉄の投入は、土壌の燐酸固定力を高め、植物の燐酸(P)吸収を減少させる。 2、 加里(K)、燐(P)、銅(Ca)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)等の微量元素と拮抗するため、吸収の置き換わり障害が出る。特に、 加里(K)に対する吸収阻害が著しい。 |
マンガン Mn |
光合成、特に酸化還元反応での酵素の中心元素
として働く。緑葉に含まれる総量のうち60%近くが葉緑体中に存在しており、水の光分解の過程でも働いている。 アルカリ環境下ではMn2+→Mn4+に酸化されて欠乏症が出やすい。 |
1、
植物内で移動しづらいが、欠乏症は光合成が盛んな成葉、又は下葉に現れる。 2、 葉緑体の構造が壊れ、汚れた色調の黄化や、葉脈間に白色化が小斑点となって現れる。 |
||
銅 Cu |
葉緑体中に多く、光合成や呼吸に関与する酵素に含まれ、鉄(Fe)と同様に特に呼吸作用に重要な役割を担う。また、傷害を保護する酵素との関連もあることが知られている。 pHが高くなると土壌がCaを固定する力が強まるため、植物の吸収阻害が起こる。 |
1、
植物内で移動しづらいため、欠乏症状は新芽に現れる。 2、生長点の白色化 |
鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)等の微量元素と拮抗するため、吸収の置き換わり障害が出る。具体的には、根の生長阻害が著しい。 | |
亜鉛 Zn |
植物ホルモンであるオーキシンの代謝、淡白質の合成に関与する。高pHや、燐(P)が多量にあると、吸収されにくくなる。 |
1、
植物内で移動しづらいため、欠乏症状は新芽に現れる。 2、 若い葉の生長が著しく阻害され、節間が短縮し、小さい葉が密集したロゼット状の植物体になる。 |
鉄(Fe)、銅(Ca)、モリブデン(Mo)等の微量元素と拮抗するため、吸収の置き換わり障害が出る。 | |
モリブデン Mo |
硫酸還元酵素(硝酸を窒素にする)の構成金属として、 窒素代謝に役立つ。必須元素の中で、最も必要量が少ない元素。 | 1、 窒素代謝が阻害され、窒素欠乏になる。 | 鉄(Fe)、銅(Ca)、亜鉛(Zn)等の微量元素と拮抗するため、吸収の置き換わり障害が出る。 | |
ホウ素 B |
細胞壁生成に重要な役割を持つ。また、燐酸(P)と似ており、糖などの有機物の水酸基とエステル結合を作ることにより、様々な 糖代謝と関係を持つ。pHが高いほど吸収が阻害される。 |
1、
植物内で移動しづらいため、欠乏症状は新芽に現れる。 2、塊茎、塊根、球根など、急に肥大する組織で現れやすい。 3、生長点に黄化や白色化が見られる。 |
||
塩素 Cl |
光化学系�における酸素発生に関与する。 |
1、
生長点の小葉がしおれ、生長が阻害されることに始まり、さらに進むと
白色化する。 2、 根が太く短くなる。 |
オマケ知識� ある植物に含まれる元素の量 |
↓画像をクリックすると、新しいウインドウで開きます。 上の表は、ある植物の体内に含まれる元素の量をしめしています。この表を見ていただければわかると思いますが、多量必須元素と微量必須元素の必要量が異なることはもちろんの事、多量必須元素内、微量必須元素内においても、必要量がかなり異なります。表の植物で言うと、 多量必須元素においては、窒素>カリウム>カルシウム>マグネシウム>リン>硫黄
尚、このデータはあくまで一例にすぎず、植物種によって順番や量が大きく異なります。一般的な植物だと、もう少し鉄の含有量が多いと思います。この図から感じて欲しいことは、単に「多量元素だから沢山、微量元素だから少量」と単純に考えるのではなく、それぞれの元素に、それぞれの適量があるという事です。 |
おまけ知識 その� 「Dobeneck(ドベネック)の要素樽」 |
植物が生長するにあたり、光、水、そして様々な栄養素が必要になります。それら生育に必要な因子を考えて、
「必要な因子のうち1つでも不足するものがあれば、他の因子が十分にあっても作物の生育はその不足した因子によって支配され、他の因子を増やしても生育が多くならない」とし、これを最小律と呼ばれている。下図は
「Dobeneck(ドベネック)の要素樽」と呼ばれるもので、最小律をわかりやすく説明しています。
この図で例えると、窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)、光は十分にあります。
この場合、鉄の板が短いためにそこから水が漏れ水位が低くなっている。つまり植物の生長が鉄が足りないがために、低いレベルに抑制されています。そこで、鉄を十分に与えた場合(=図で言うと、鉄の側板を長くする)、鉄の部分からの水漏れは防がれ、水位があがります(=生長が良くなる)。 しかし、今度は次に板が短いCO2の所から水が漏れてしまい、その次はCaが・・・・・っといった感じで続いていきます。
このように、植物の生長は最も欠乏している元素によって支配されていると考えるのが、最小律の発想。つまり、植物の生長をより高めようとすれば、すべての因子がバランスよく存在する必要があるということ。
しかし残念ながら、実際には各因子間で相互関係が見られ、この図のように各因子が独立しているような単純なものではありません。また、植物種によって各因子の必要量が異なっており(アヌビスナナは低栄養下が良い=窒素やリンの要求量が少ない。リシアは生長が早く窒素やリンを多く必要とする・・・・など)、どのレベルで水槽内の養分バランスを取るかは植えてある水草の種類の組み合わせによって異なります。 私が知ってもらいたいのは、特定の元素ばかり施肥するとそれが水草に利用されず水質を悪化させる。水槽で言うとコケが発生する原因となる。よって、闇雲に施肥するのではなく、植物を観察し、欠乏症・過剰症を見分け、肥料・光・CO2などトータルな環境管理をすべきということです。 水槽ごとに環境は異なるため、「コレさえすれば」というものは在りません。自分の水槽の養分要求量や制御因子は何かなど、考えながら管理をして欲しいと思います。 |
おまけ知識 その� 「転流について」 |
||||||
植物体内で吸収された栄養素や光合成産物、およびその代謝産物がある組織(器官)から他の組織(器官)へ運搬されることを
転流という。
|
おまけ知識 その� 「光強度とイオン吸収効率」 |
光強度(明るさ)が低い場合、イオン(=元素)吸収は低下し、その吸収効率の低下度合いはイオンによって異なる。稲においてのデータではあるが、光強度が低い場合P、K、Nで吸収低下が著しく、Ca、Mgの場合には相対的に影響が低い。 |
おまけ知識 その� 「葉面吸収と液肥添加のタイミング」 |
多くの水草は根だけでなく、葉面から各種元素を吸収していることが知られている。根においても、葉においても、積極的吸収機構によって元素を吸収する場合、エネルギーであるATPが必要となる。(このほかに拡散による吸収もある。これはエネルギーを必要としない)
尚、液体肥料による養分施肥は一度に濃い濃度で与えるより、薄い濃度で数多く与えたほうが効果的です。 |
おまけ知識 その� 「肥料の表記 ○-○-○ってどういう意味?」 |
園芸コーナーに行くと肥料に「10-15-10」っといった表記を見かけます。これは肥料中における「窒素(N)-燐(P)-加里(K)」の成分濃度を、 重量パーセント(%)で表したもので、数字が大きいほど、成分含量が多いことになります。 たとえば「1-2-1」と「10-20-10」という肥料があった場合、N-P-Kの比は同じでも濃度は後者は前者より10倍濃いことを意味します。 具体例ですと、ハイポ社が出してる緩行性肥料のマグァンプKは6-40-6。つまり100g中に窒素が6g、リンが40g、カリウムが 6g含まれていることを示します。 過激な燐(P)濃度ですね^^A。花や果実、種などを目的とする場合は効果的ですが、アクアリウムには不向きな気がします・・・。 このように園芸用の肥料には必ず成分表が付いているので、目的に合わせて上手に利用してください。
尚、アクアリウム用に売ってる肥料みたいなものは肥料では無い(活力液という分類)ので成分表示の義務は在りません。よって紹介したような成分表示は無く、何が入ってるか判らない商品が大半です(一部例外はあるようですが)。 |