レイ・ダリオ:貿易戦争は資本戦争をともなう
Bridgewater AssociatesのRay Dalio氏が、米中対立についての危機感を高めている。
「トゥキディデスの罠」に陥る確率が高まっているとし、投資家にいつものアドバイスを繰り返している。
最近の地政学的イベントの進展を見ていると、貿易戦争を始めとし資本戦争・サイバー戦争(そして武力戦争まで)他の形の戦争の確率が高まったと感じさせる。
ダリオ氏は自身のSNSで何らかの戦争が起こる確率が高まっていると語っている。
とても慎重に、起こるかもしれないとは言わず、ただ確率が高まったと書いている。
トランプ大統領が中国を狙った関税を増やし、中国はそれに同じ規模で応酬する。
こうした展開は、貿易摩擦がポーズにすぎず直に鎮静化するとのダリオ氏の見通しを撃ち砕いたという。
その代わりに、形を変えた戦争の確率が高まったとダリオ氏は考えている。
政権の真意を読みあぐねながらも、確率は高まったと考えている。
「今のところ、ドナルド・トランプの側近も含め、何が本当の大統領の戦略的目的なのか明らかでないのだ。
しかし、大統領と彼が指名したロバート・ライトハイザー米通商代表、ピーター・ナバロ国家通商会議委員長、新任のジョン・ボルトン国家戦略会議委員長が、言ったことを本気で考えている可能性はある。」
歴史は繰返す
これら「大統領のポピュリスト・ファイターら」は、これまで米国をはじめとする西側諸国のルールを順守するつもりはなく、自国の一部大衆に受けのいい主張を公言している。
ダリオ氏は政治に近いところにいる人物の言を真に受けるつもりはないというが、それでも関心は過去の歴史との類似に向くようだ。
1930年代半ばから終わりとの類似である。
a) 大きなデレバレッジ
b) 債務の貨幣化が市場経済を押し上げ、デレバレッジを助けた
c) 貨幣化・新技術・自由貿易が富のギャップを拡大
d) 保護主義の台頭
e) 強力なポピュリストの登場
f) 既存の覇者と新興勢力の争い
g) 軍国主義・国家主義の高まり
h) 金融引き締め
i) 内外の対立が増え、外国との対立がポピュリストのリーダーを助ける
これら類似点の中で、政治にかかわるものを抜き出すと、いずれも対立がカギになっていることがわかる。
ダリオ氏は前回に引き続きトゥキディデスの罠を再び持ち出し、グラハム・アリソンの著書を紹介している。
参考図書:Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap? DESTINED FOR WAR [ Graham Allison ]
アリソンは過去500年で16回、既存の覇者と新興勢力の勢力争いがあったが、うち12回が戦争に発展したと書いている。
戦争と平和のサイクル
平和は覇者が圧倒的な間に実現し、新興勢力が台頭すると戦争の時代に向かう。
これがサイクルを為している。
現在と1930-45年の期間は、このサイクルが長期債務サイクルと同期している。
これら2つのサイクルは長く人生に1度しか来ないため、発現してもありえそうには思えず、認識するのが難しいのだ。
ダリオ氏は危機感を滲ます。
米ポピュリストの言動に国家資本主義・保護主義・国家主義・軍国主義のレトリックが強まっているためだ。
これらは言うまでもなく戦争を連想させる。
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