「私ボコられたい!絶対あきらめない!」「暴力は大嫌い。なのに股間だけが言うことを聞かない」――。
23歳、処女、恋愛経験なし。被虐趣味の作者が自分の欲望に向き合い、恋に落ち……そんな奇跡を描いたエッセイ漫画『実録 泣くまでボコられてはじめて恋に落ちました。』(新潮社)が発売された。
なぜ実体験を漫画にしたのか? どのように暴力に惹かれていったのか? 描くときに何を意識したのか? 作者のペス山ポピーさんと編集者Sさんに話を聞いた。
(取材・構成/山本ぽてと)
――ご自身の経験を漫画で描こうと思ったきっかけを教えてください。
ぺス山:もともと漫画家の新人で、現実の方でネタができてしまった感じです。
編集者S:ぺス山さんは、もともとは創作漫画を描かれている新人さんでした。
ぺス山:あんまり向いてなかった……
編集者S:そんなことないですよ! たまたまデビュー作がエッセイになった感じです。
ぺス山:今回のネタになった出来事がひととおり終わって、だいぶ疲れたんですよ。誰かに話を聞いてもらいたいな……と思って。
漫画の構想もなにも持って行かずに、「ちょっと話を聞いてくれませんか」と編集のSさんにこれまであったことを話しました。高田馬場のガストでいろいろと……
編集者S:漫画の打ち合わせというよりも、ペス山さんの話を聞こうと思い会いに行きました。そこですごい話を聞くことになり……。最初はこれをもとにした創作漫画にしようという話もあったのですが、最終的にエッセイになりました。
ぺス山:よく「漫画は半径10メートル」と言われます。それくらいの距離感の人を読者に想定して描くといいらしい。ただ私は半径5センチのところしかわからないんです。だからフィクションよりもエッセイを描くのに向いているかなと思っています。
――『ボコ恋』では幼いころから暴力に惹かれていく様子が描かれていますよね。
ぺス山:3、4歳のころからゲームの主人公にボコボコにされる妄想をしていました。イケメンにセックス抜きでひたすら暴力を受けるというのに興奮していたんです。
かといって私は暴力が好きなわけではなく、むしろ嫌いです。ただ股間だけが言うことを聞きませんでした。倫理と股間が対決して股間が勝った。そこでインターネットの出会い系で殴ってくれる相手を探し、恋をするのがこの漫画です。
――ぺス山さんには「巨乳で若くて清楚な女が好き」のようなわかりやすい興奮のパッケージが用意されていません。それでも海外の情報なども駆使しながら自分の欲望に向き合っていく切実さに、私はすごく感動しました。
誰もが本当は多様な性欲を持っているはずなのに、多くの人はそこまで細かく自分の欲望を理解できていないし、言葉にすることもできないと思います。その能力はどこから来ているのだと思いますか。
ぺス山:いやぁ。自分の半径5センチの人間だから、自分のことばかり考えてしまうとそうなるんですよ。だいぶ利己的な人間なんだと思います。自意識過剰だし……。
編集者S:ふふっ。
ぺス山:そのおかげで、他人に自分のことを説明するのが、めちゃくちゃ得意になりました。得意……かはわからないですけどね。理屈をくっつけることは得意なんですけど、それが正しい解釈だとは思っていません。
今まで生きてきて考えが変わったことが何度もあったので、また10年生きたら「ここで言っていたことは全然違う!」と思うかもしれません。