「専門家監修」の実態 ポストwelq時代の医療デマから身を守るには

コラム わかり手

welq問題とはなんだったのか

DeNAが運営する医療系キュレーションサイト「welq」が炎上したのは、まだたった1年半前のことです。

クラウドソーシングを利用した大量の記事でSEOをハックし、不正確な医療情報で検索上位を獲得していた「welq」。その内容は、医療関係者でなくとも常識ある人間なら首をかしげたくなるもので溢れていました。

昨年11月ごろ、WELQに掲載された肩こりの対処法に関する記事に「幽霊が原因のことも?」と書かれており、「非科学的だ」などの批判が起きていた。

報告書によるとこの記事は、WELQチームの記事構成案の作成担当者が、Google検索で「肩が痛い」というキーワードで検索したところ、予測キーワードの1つに「霊」と表示されたため、「肩こりの原因」をテーマにする記事の小見出しの1つとして「幽霊が原因のことも?」という項目を含んだ構成案を作成。この案に従い、クラウドソーシングのライターに記事を執筆してもらったという。


引用 : 「肩こりは幽霊が原因」 WELQの“トンデモ記事”ができるまで 調査報告書で明らかに

この「welq」騒動は、最終的にDeNAの取締役会長である南場智子氏が謝罪会見を開くまでの事態に発展し、「WEBの医療デマ」は瞬く間に社会的問題として認知されるようになったのです。

 

Googleのアルゴリズム改変

この事態を重く見たGoogleは、日本独自のアルゴリズム改変を断行。

DeNA南場会長の謝罪会見からたった3ヵ月後、2017年2月3日には以下のようなアルゴリズム改変が行われました。

今週、ウェブサイトの品質の評価方法に改善を加えました。

今回のアップデートにより、ユーザーに有用で信頼できる情報を提供することよりも、検索結果のより上位に自ページを表示させることに主眼を置く、品質の低いサイトの順位が下がります。

その結果、オリジナルで有用なコンテンツを持つ高品質なサイトが、より上位に表示されるようになります。

今回の変更は、日本語検索で表示される低品質なサイトへの対策を意図しています。

https://webmaster-ja.googleblog.com/2017/02/for-better-japanese-search-quality.html


その後もGoogleは医療・健康関連情報のアルゴリズムを改変し続け、2017年の12月には再び医療健康ジャンルに大型アップデートが適用されました。

そのアップデートでは

医療従事者や専門家、医療機関等から提供されるような、より信頼性が高く有益な情報が上位に表示されやすくなります。

引用 : 医療や健康に関連する検索結果の改善について

と明記され、ようやくWEBに蔓延する医療デマも落ち着くか、当時はそのようにホッとした記憶があります。

 

機能しない「専門家の監修」

その後、多くの医療系メディアは「専門家の監修」を謳うようになりました。

例えば「医師監修」「薬剤師監修」など。メンタルヘルス関連の領域なら「臨床心理士監修」といった記事が多く出回るようになりました。

しかし…。

どうも、医療系検索がこの「専門家の監修」によって劇的に良くなった…という印象は、あまりありませんでした。実際、WEBの世界では相変わらず一見して間違っている情報や、怪しげな情報や医療系キーワード上位で飛び交っています。

例えばRemeにおける「こころ百科」(現在は削除)。これは多くのメンタルヘルス系キーワードで上位を獲っていたコンテンツです。しかしここのコンテンツは、素人目に見てもあまりに酷いものでした。

例えばこちら

当然の話ですが、「メンヘラ」は疾患名ではありません。

【関連記事】
メンヘラとは 意味、語源、キャラクター化、当事者性など

しかしこの記事では「メンヘラ」というインフォーマルな俗語を、「初期段階」「原因」「克服法」など、あたかも疾患名のように扱っています。しかも、その「克服法」もひどい

対処法が「不幸話を喜んでくれそうな人を恋人にする」。これは「肩こりの原因は幽霊」のwelqと同レベルの医療デマと言わざるを得ません。

次に「LGBT」の項目

LGBTとはレズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーを表す略語であり、精神疾患とは何の関係もない概念です。しかしそのような概念にも「初期段階」「克服法」などの見出しがついて、「疾患」として語られてしまう。

他にも「性同一性障害」の項では、性自認と性指向が混合して説明され、「躁うつ病」「双極性障害」のページでは、これらの疾患が同一のものであるにも関わらず、それぞれ全く違うことがそれぞれのページで書かれていました。

このように、Reme「こころ百科」は信頼できる医療情報とはとても言い難いものでした。しかし、それでも「専門家の監修した情報」とGoogleに判断され、検索順位でも高い評価を得てしまう。

「専門家の監修」を評価するGoogleの新アルゴリズムも、このように速攻でハックされてしまったのです。

 

Reme運営に取材を敢行

メンヘラ.jpでは、このような不正確な監修コンテンツの背景になにがあるのかを知るため、Reme運営責任者の近藤雄太郎氏と、臨床心理士の杉山崇氏にお話を伺って来ました。

結果は、驚くべきものでした。

まずそもそもReme責任者の近藤氏は、「こころ百科」のコンテンツに問題があることを認識していませんでした。筆者がSNS上で指摘した「メンヘラ」の項目のみ問題があると考えていたようです。


そして杉山崇心理士によれば、驚くべきことに、そもそもReme「こころ百科」の全てのコンテンツについて、自分は監修していない、と主張されていたのです。

しかし近藤氏は後にメールで「いや、杉山先生は1記事を除いて全てのコンテンツを監修している」と主張。両者の言い分は平行線をたどりました。

 

「臨床心理士監修」のカラクリ

さらに取材を進めていくにつれて、ようやく真相が明らかになりました。

つまり、以下のような流れだったわけです。

 

Reme側は内容に問題のない【初稿】を作成

専門家(この場合は杉山心理士)が【初稿】を監修、OKを出す。

専門家監修の【初稿】を掲載

専門家監修の【初稿】にSEO対策のためのリライトを重ねる。
そしてリライト分については監修を経ないで公開する。

リライトが重ねられていった結果、正確とはほど遠いがSEOには強い、「専門家監修」のコンテンツが出来上がる。

 

初稿のみ専門家に監修を入れるが、リライト分には監修を入れない。

すると専門家の名前だけを借りて好き放題SEOに特化した記事が書ける。これが「専門家監修」を謳うメディアの背景にあったカラクリだったのです。

 

本当の戦いはWELQのあとに始まる

「welq」問題の火付け約で、医療ライターの朽木誠一郎氏は、その著作の中で「welq後の備え」について言及しています。
WELQ問題のさなかから、私がいい続けていたことがあります。それがWELQ後の備えです。
あれほどまでに世間の注目を大きく集めた以上、WELQが縮小ないし閉鎖されることは、目に見えていました。また、WELQが検索結果を独占する以前、ネットの医療情報が信頼できたかといえば、そうではありません。だからこそ、大事なのは繰り替えさないことだと、私は思ったのです。

引用 : 健康を食い物にするメディアたち

 

確かにwelqは滅びました。Reme「こころ百科」も問題化を恐れてかコンテンツの全面閉鎖という手段を取りました。しかし、WEBから悪質な医療情報が駆逐される気配はまだまだ見えません。

特に「専門家の監修」がこれほど杜撰に行われていることがわかった今回の一件は、今後の医療検索を考える上で極めて重要に思えます。

Googleはwelq事件を経て

医療従事者や専門家、医療機関等から提供されるような、より信頼性が高く有益な情報が上位に表示されやすくなります。

引用 : 医療や健康に関連する検索結果の改善について

という方針を打ち出しました。

しかし、「医療従事者や専門家、医療機関等から提供され」たと謳っている情報は、本当に「信頼性が高く有益」なのでしょうか。

Reme「こころ百科」の一件は、その前提を大きく揺さぶる事件であった。

そのように思います。

 

【募集】怪しい「専門家監修」のコンテンツ

もしメンタルヘルス領域において、「医師監修」「心理士監修」などとされているけど、どうもこれ怪しいぞ、というサイト・コンテンツを見つけたら

【怪しい「専門家監修」コンテンツ】

とタイトルに明記して

menherajp [@]gmail.com

までご一報ください。

悪質な医療情報を集め、専門家と協議し、今後の対策を考える一助とさせて頂ければと思います。

当事者の力でWEBから怪しい医療情報を少しでも減らしたい。

メンヘラ.jpはそのように考えています。


【執筆者】
小山晃弘(HN : わかり手)

【プロフィール】
メンヘラなりに前向きに生きていきたい。
Twitter : @wakari_te


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