音楽と人 2018年 05 月号
現在、ゆずの楽曲「ガイコクジンノトモダチ」が大炎上を起こしている。この楽曲は、今月4日に発売された、ゆずの最新アルバム『BIG YELL』に収録されたものだが、歌詞のなかに〈国歌はこっそり唄わなくちゃね〉や〈君と見た靖国の桜はキレイでした〉といったフレーズが含まれており、それがひと悶着を起こしているのだ。
問題の「ガイコクジンノトモダチ」は、北川悠仁(41)の作詞作曲による楽曲。その歌詞は、タイトルそのまんま〈外国人の友達ができました〉とのフレーズから始まり、その友達との会話を〈外国人の友達が言いました/「私、日本がとても好きなんです。あなたはどこが好きですか?」/僕は少し戸惑った だって君の方が/日本の事をよく知ってそうだから〉と描写しながら続く。
そして、サビでは〈この国で生まれ 育ち 愛し 生きる/なのに どうして胸を張っちゃいけないのか?/この国で泣いて 笑い 怒り 喜ぶ/なのに 国歌はこっそり唄わなくちゃね/平和な日本 チャチャチャ/美しい日本 チャチャチャ〉と歌うのであった。
2番は、もう少し踏み込んだ内容にシフト。〈外国人の友達が祈ってくれました/「もう二度とあんな戦いを共にしないように」と〉という会話から、〈TVじゃ深刻そうに右だの左だのって/だけど 君と見た靖国の桜はキレイでした〉と、靖国神社での花見の思い出を歌っていく。
アコースティックギターの伴奏をベースに、パーカッションやハンドクラップが薄く添えられた、初期のゆずを彷彿とさせる優しい曲調の楽曲だが、この歌詞がツイッター上に拡散されると、ゆずのイメージにはない政治的内容に踏み込んだ歌詞に加え、〈国歌〉や〈靖国〉といったワードまであることから議論が紛糾。
「国旗国歌法の問題についてちゃんと理解してる?」「平和に関する話で靖国に言及するのは思慮がなさ過ぎ」といった懐疑的な意見から、「自分の国に誇りをもつことのなにがいけないの? ゆずはよく言った!」という肯定派の意見まで飛び交い、まさしく、歌詞にある〈深刻そうに右だの左だのって〉という状況になっている。
これと似たケースは他にもあり、菅田将暉(25)が昨年リリースした「見たこともない景色」では〈日本の風に背中押されて/日本の太陽に未来照らされて〉と歌われていることからナショナリスティックだと疑問の声がわい起こった。「ガイコクジンノトモダチ」ほど直接的ではなく、作詞も菅田本人ではなく電通のエグゼクティブ・クリエイティブ・ ディレクターである篠原誠氏なため、ゆずのような大炎上にはなっていないが、それでも〈菅田将暉くん電通に歌わされるやたら日本推しの右翼みたいな歌じゃなくもっと自分の好きなパンク歌えるようになってほしい〉といった意見がネット上に飛び交っている。また、「右翼的」と捉えられがちなアイコンを使用する椎名林檎(39)がたびたび炎上するのも、この構図と同様だろう。
2016年に起きた「音楽に政治をもちこむな」論争は記憶に新しい。同年7月22日から24日にかけて行われた野外ロックフェス「FUJI ROCK FESTIVAL’16」に元SEALDsの奥田愛基氏の出演がアナウンスされたことをきっかけに巻き起こった騒動だが、今回の話はこの論争を思い起こさせる。
そもそも、日本のポップミュージックの世界で、政治や社会に関して言及した楽曲は多くはない。「警告どおり計画どおり」(1990年)で原発の安全性に疑問を呈した佐野元春(62)や、国旗国歌法の問題点を啓発するために「君が代」のパンクアレンジバージョン(1999年)をつくってレコード会社が発売中止する騒動を起こした忌野清志郎(享年58)といったロックミュージシャンも存在するが、貧困や差別など黒人の置かれている状況を訴えるケンドリック・ラマー(30)や、女性問題についてメッセージを発信し続けるレディー・ガガ(32)のようなミュージシャンがヒットチャートの頂点に多く存在するアメリカの状況と比較すると隔絶の感がある。
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