イリヤの空、UFOの夏/平日毎日更新!
秋山瑞人/電撃文庫
第三種接近遭遇(1)
めちゃくちゃ気持ちいいぞ、と
だから、自分もやろうと決めた。
山ごもりからの帰り道、学校のプールに忍び込んで泳いでやろうと
中学二年の夏休み最後の日の、しかも午後八時を五分ほど過ぎていた。近くのビデオ屋に自転車を止めて、ぱんぱんに
北側の通用門を乗り越える。
部室長屋の裏手を足早に通り抜ける。
敵地に
校舎の真ん中にある時計塔は、午後八時十四分を指している。
そんじょそこらの午後八時十四分ではない。
中学二年の夏休み最後の日の、午後八時十四分である。
この期に及んでまだ宿題が丸っきり手つかずの
そして今、
あと十三時間でどかん。情け容赦なく二学期は始まる。理科教師にして二年四組担任の
──だって先生、仕方なかったんです。ぼくは夏休みの初日にUFOにさらわれて、月の裏側にあるピラミッドに連れて行かれたんですから。そのピラミッドは
八つ裂き間違いなしだ。
とはいえ、「新聞部部長の
浅羽
あと十三時間だ。
死刑囚だって最後にタバコくらいは
だから自分は、夜中に学校のプールに忍び込んで泳ぐくらいのことはしてもいいのだ。
当然、やるべきなのだった。
すぐ近くのどこかにピントのずれたセミがいて、
目的地であるプールは体育館の並びにあって、浅羽の隠れている焼却炉からは30メートルほどの距離がある。プールの周囲はフェンスではなく、合成
あとは度胸だけ。
だけど──という不安を
走った。
ダッフルバッグをばたばたさせて、身を隠すもののない最後の30メートルを走り抜けた。更衣室の入り口をくの字型に目隠ししているブロック塀の陰に転がり込む。呼吸を整え、再び周囲を見まわしてやっと少しだけ安心する。更衣室入り口のドアノブを両手で思いっきり回す。
そのとき、パトカーのサイレンが聞こえた。
まさか自分に関係があるはずはないとわかってはいても、浅羽は思わず
まただ、と思った。さっき焼却炉の陰に隠れていたときにも聞こえた。
サイレンは溶けるように遠のいていき、唐突に途絶えて消えた。
今夜はやけにパトカーが元気だ。何か事件でもあったのだろうか。そう言えば、夏休みの少し前に「北のスパイが付近に
深呼吸をした。
更衣室のドアをそっと開け、中をのぞいてみる。
真っ暗だった。
暗すぎて、この中で着替えるのは無理だと思った。明かりを
山ごもりからの帰り道、だったのだ。
つまり、このバッグの中には山ごもりの荷物が詰まっている。歯ブラシとかタオルとか着替えとか虫除けスプレーとかカメラとか小型の無線機とか。しかし、どう考えても山ごもりに海パンは必要ない。
というわけで、自分は今、海パンを持っていない。
ものすごくがっかりした。
突飛な考えが頭をよぎる。
こうなったら、素っ裸で泳ぐか。
そのくらいの無茶はやってやろうか。
夜中に学校のプールで素っ裸で泳ぐというのは何だかすごく気持ちのいいことであるような気が
くしゃくしゃに丸めた短パンが出てきた。
シュラフの中で眠るときにはいていた、学校指定の体育の短パンだ。
周囲に
でも、そんなにおかしくはないと思う。
せっかくここまで来たんだし。
腹は決まった。脱いだものをバッグに
スイングドアを押し開けて、夜のプールサイドに出た。
そこで、浅羽の思い出し笑いは消し飛んだ。
夜のプールサイドに、先客がいたのだ。
女の子だった。
イリヤの空、UFOの夏/平日毎日更新! 秋山瑞人/電撃文庫 @dengekibunko
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