人生初のサイン会で、人生初のサインを書いてます。
私事ながら、先の3月初旬に、友人たちと共著で文房具に関する書籍を上梓した。
それだけでもテンション上がることなのだが、さらに出版社から「出版記念でサイン会やりませんか。紀伊國屋書店 新宿本店で」という話が来たのだ。 出版記念!サイン会!紀伊國屋書店!新宿本店!サイン会! そりゃもうやろうよ、ということで即座にまとまったのだが、個人的にひとつ不安なことがある。 そもそもサインってどう書いていいのかわからないのだ。やばい。練習しよう。サインの。
1973年京都生まれ。色物文具愛好家、文具ライター。小学生の頃、勉強も運動も見た目も普通の人間がクラスでちやほやされるにはどうすれば良いかを考え抜いた結果「面白い文具を自慢する」という結論に辿り着き、そのまま今に至る。
前の記事:「ハンドスピナーのギネス世界記録24分って具体的にどれぐらい長い?」 人気記事:「夏休みの宿題で作った文房具図鑑がすごい」 > 個人サイト イロブン Twitter:tech_k サイン会で書くサインがない実は、これまでにも何冊か書籍(全部、文房具関連)を出させてもらっており、恥ずかしながら「サインください」と言われたことも無くはない。
で、その際はごく普通に、自分の名前をそのまま書いていた。 自分の中の自意識が「サインとかかっこつけて書くほどの者か、お前が」と常に囁きかけてくるからだ。 去年出た本(ライター西村さん他との共著)にいれたサイン。名前書いただけ。
しかし、だ。その反面で、そういう自意識過剰みたいなのからそろそろ脱却して、恥ずかしげも無くガツンとしたサインを書いてみたい!という欲望もある。
となると、サインを新しく作るということになるのだが、そもそもサインってどういうふうにしたらいいのかが分からない。 こんな場合はもう何も考えずに外注に出すのが手っ取り早いのだ。 ありがたいことに、サインを書き慣れていて、さらにこういうの考えるのが得意そうな人が身内にいる。 なんでも付き合ってくれるので、こういう人が身近にいると超便利。
昨年は爆破結婚写真にもつきあってくれた、うちの奥さんこと漫画家の栗原まもる先生である。
僕の中では、漫画家というのは芸能人と並んでサイン書き慣れてる職業ツートップ。サイン考えるのもお手の物なのではないか。 さらに彼女は高校二年生で漫画家デビューした段階でサインを自作して、以降ずっと書き続けているベテランだ。 こちらの発注内容としては、 ・文字がつながっていて流れるように書ける(考え得るサインらしさの要素) ・可愛らしさとコミカルさがある(自己演出) ・☆とか?をいれない(恥ずかしさの限界値) ・シンプルで書き方を覚えやすい(忘れるとかっこわるそう) という4点である。 以上を踏まえて栗原先生がササッと書いてくれたのが、これだ。 漫画家はサイン考える仕事じゃねぇぞ、と言いながらもサッと書いてくれた。ありがとうございます。
おっ、シンプルでいい。
これなら少なくとも書き方を忘れることは無さそうだ。きだての“て”の字を使って全体がつながってるのもサインっぽい。 可愛げがありすぎてやや気恥ずかしさは否めないが、自分で「サインっぽいサインを書く」と決めたのだから、もう後には引けない。 この、きだての“て”の字を読みやすく書くのがポイントだから、と解説中。
栗原先生からのアドバイスは「高さを出す」「"て"の字を分かりやすく意識する」の2つ。
特に“て”の字が読み取れるようにするというのがポイントとのことだ。 サインを練習するために、練習帳を作るいよいよサインの練習を…となったら、まずするべきは「サイン練習帳づくり」だ。
漢字の書き取りだって漢字練習帳という専用ノートがあるわけだから、サインの書き取りだってちゃんと練習帳があるべきだろう。 なので、いろんな紙を1枚からでも売ってくれる平和紙業株式会社さんのショップ『ペーパーボイス東京』にお邪魔した。 個人が1枚単位でいろんな紙を買えるのがありがたいショップ。
書籍の表紙をめくって一枚目にある無地の色紙を「遊び紙」と言う。
サインは基本的に遊び紙にすることになるので、サイン練習帳の紙は遊び紙と同じものを使わないとでないとダメだろう、と考えたのだ。 単なるコピー用紙とかに書いていたのでは、本番とペンの滑りが違うとか、インクのかすれ具合が分からないといった問題がありそうだから。 本番と可能な限り同じ条件を揃えるからこそ、練習の意味があるのだ。 「サインの練習するのに、同じ紙でやりたくて…」と事情を説明したら、ペーパーボイス東京の人にガン引きされた。
ペーパーボイス東京で刷り上がったばかりの書籍現物を渡して、遊び紙にどの紙が使われているかを見てもらった。
「……うーん、これは『Mag-N』プレーンの横目で……94.5kですかね」 さすがプロは早い。即効で答えが出た。 横目というのは、紙の繊維が横(長方形の短辺に対して水平)に流れてるもの。繊維が縦方向なのは、もちろん縦目である。 あと、94.5kというのは紙の厚さ。印刷業界では、紙は一定のサイズ1000枚束ねた重さで厚さを表示するのだ。 つまりこの紙は1000枚で94.5kgということ。コピー用紙がだいたい70kぐらいなので、やや厚め。 文房具力を駆使して、製本作業にかかります。
ということで購入してきた『Mag-Nプレーンの横目、94.5k』を裁断機で書籍と同じ寸法にカットして、ゲージパンチという道具でリング綴じができるように穴を開ける。
最後にツイストリング(開閉可能なリングノート用リング)で綴じれば、サイン練習帳の完成だ。 書籍がB5よりちょっと大きいので、定型のリングが1穴分足りなかったのはご愛敬。
書籍と同サイズ、同じ紙に、いつも使ってるマーカーペン。
これで練習すれば、もう完全にサイン会本番と同じ感覚で経験が積めるはずだ。
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