「桃とブドウと信玄だけじゃない」 「ゆるキャン△」効果で山梨に聖地巡礼続々
キャンプ好きの女子高生の日常を描いた漫画「ゆるキャン△」(あfろ作)がキャンプ人気に火をつけている。
とりわけ主な舞台になっている山梨県のキャンプ場は利用者数が一気に前年同期の3倍以上に増え、アニメの“聖地”不足に悩んでいた同県からは歓迎の声があがっている。
キャンプ初心者にも話題
「ゆるキャン△」は、平成27年から「まんがタイムきららフォワード」(芳文社)で連載中のアウトドア系漫画。山梨県在住の女子高生たちが、キャンプや仲間との日常生活を通じて友情を育み、成長していく作品だ。今年1~3月にはアニメ版が放送された。
野外の解放感や食事のおいしさ、星空の美しさ-といったキャンプの楽しさを忠実に再現しているのが、なんといっても魅力だ。 また、「キャンプ場に合わせたたき火の方法」など実践的な知識を学べる点が、アウトドア経験のない漫画・アニメファンも引きつけた。
作中には実際のキャンプ場・観光地をモデルにした場所が多く登場。ゆかりの地を訪ねるいわゆる「聖地巡礼」でキャンプを行うファンが急増。中でも恩恵に浴しているのが山梨県だ。
全国地からファン集結
「初キャンプでしたがとても楽しかったです」「本当に原作と何一つ変わらぬ景観を楽しめました!」
漫画・アニメの1話に登場した、富士五湖の1つ、本栖湖畔にある「浩庵(こうあん)キャンプ場」(山梨県身延町)の管理棟の情報ノートには、九州や東北など全国各地から訪れたファンによる初キャンプの感想や、同作への思いがつづられている。韓国や台湾の人の書き込みもあった。
オーナーの赤池宏文さんによると、この辺りは冷え込みが厳しく、冬季の利用者は他の季節と比べ少ないが、アニメが放送されたこの冬は例年の3倍以上の集客を記録したという。
「ここで撮影した写真をSNS(会員制交流サービス)にアップし、それを見た別のファンが訪れ、『ゆるキャン△』のファンの輪が広がっているみたいですね」と赤池さん。
本栖湖の北西に位置し、桜や紅葉など四季折々の風情が楽しめる四尾連(しびれ)湖畔の宿泊施設・キャンプ場「水明荘」(同県市川三郷町)も、「例年、冬場はキャンプ客がゼロの日もありましたが、この冬は週末ごとに多くのお客さんに来ていただきました」と、やはり「ゆるキャン△」効果を強調する。
強豪に囲まれて…
作中舞台の山梨県は大喜びだ。なにしろ同県にはメジャーなアニメの“聖地”がないとされる。聖地は増加する訪日外国人観光客を含む観光誘致の大きな武器だが、一般社団法人「アニメツーリズム協会」が発表した「2018年版 日本のアニメ聖地88」では、山梨県からのランクインはゼロだった。
一方、近隣は「ラブライブ!サンシャイン!!」を擁する静岡県、「サマーウォーズ」の長野県、「らき☆すた」の埼玉県と“強豪県”ぞろい。それぞれ「聖地88」では、静岡(5作品)、長野(2作品)、埼玉(5作品)が選ばれ、差が際立っている。
甲府市の20代の男性会社員は「自分の住む県に“聖地”ができてうれしい。山梨の観光資源は桃とブドウと武田信玄だけじゃない、といえる」と胸を張る。
アニメ版制作に平成28年から協力している公益社団法人「やまなし観光推進機構」が、特設サイトで「ゆるキャン△」舞台の詳しい場所や観光ポイントを説明すると累計で約50万という、異例のアクセス数を記録したという。
同機構の担当者は「観光業界としても新しい刺激を受けた。今後も“ゆるく”作品の良さを紹介し、山梨の魅力をPRしたい」としている。
ルールを守って楽しく
「キャンプを題材にした漫画はあまり見かけませんし、もともとキャンプが趣味だったので話が作りやすかった」と作者のあfろ(あふろ)さんは、同作を手掛けたきっかけを振り返る。山梨を主な舞台にしたのは、「すぐ側に富士五湖と富士山、南に行けば伊豆、北に行けば長野。多くのキャンプ地に囲まれているから」と明かす。
「空気感」も魅力だ。計画を練っているときのワクワク感に、新しいキャンプ道具を手に入れた際の喜び、キャンプ場に向かうまでの友人との会話やおいしい食事…。
「キャンプ場へ行くまでの過程を多めに書くようにしています」
自身の作品をきっかけにキャンプを始める人が増えていることについて、あfろさんは「キャンプ場のルールを守って楽しんでいただけたら」と話している。(文化部 本間英士)
ゆるキャン△(ゆるきゃん) オフシーズンに1人でキャンプを行うのが好きな女子高生、志摩リンと、同じ高校に通うキャンプ初心者・各務原なでしこの2人を中心に、女子高生の日常風景と友情、成長を描いたアウトドア系漫画。これまで単行本6巻が発売され、今年1~3月にはアニメが放送された。「△」は、テントを表すとされ、読み方はない。
キャンプをする前に キャンプをする際には、「キャンプ場に泊まるから」と油断せず、入念な準備を行いたい。特に冬季にキャンプをする際には注意が必要だ。聖地巡礼をしたファンの中には、「本気で凍死しかけた」と報告した人も。春~秋季の場合も昼間は温度が高くても、夜になると急に冷え込むことが多い。場所や状況に合わせた、入念な防寒対策を心がけたい。