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 だって、どっちみち部下の案件だとしても、僕がハンコを押した瞬間から最後の責任は僕が取ることになるんですよ。だったら誰と運命を共にしたいかです。数字だけは立派な試算が出ているけど「本気でやる気が無いな」という人と運命を共にはしたくないです。そういう人は結果が出なかった時、決まって「環境が変わりました」と言うんです。

 環境は変わるに決まっている。僕が社長になったとき1ドル=80円だった為替が120円になり、燃料の価格は120ドルが最安40ドルに下がったわけです。ある想定下で出したNPVも当然変わります。

 変わった環境のなかでも完成させるのは、やっぱり意思の力です。だから「私にこれをやらせてほしい」という思いの強い人に任せたのです。

難しいことを難しく言うばか者、簡単なことまで難しく言う大ばか者

西畑さんはその思いが強かったと。

 そうですね。異常なぐらい。「よっしゃ、お前に任せた」と言えるものを持ってきた。実際やりたいように、でも着実にやってくれました。

(写真:村田 和聡)
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プロジェクトを象徴する「旗」を作りましたね。そこに皆さんが寄せ書きをした際、植木さんは「任せたぜ」と書いています。

 フライトの世界では「信頼しろ、でも信用するな」という言葉があります。僕が例えば機長だとすると、横にコーパイ(副操縦士)がいて、2人で仕事をするわけです。こいつを信頼してやれ、だけど信用しちゃいかんよと。お互いにクロスチェックし合うわけです。誰だって悪気ではなく間違えることはある。だから必ず互いに確認し合う。これがプロです。

 僕は西畑を信頼して任せたけど、経営・執行レベルでは経営会議で定期的に、3カ月に一度ぐらいは最低でも報告を受けました。「今、ここまで進んでいて、ここまで自信があります、ここから先は見えません」などを含めて。

システムは目に見えない分、進捗や課題の説明が分かりにくいことがあります。

 ええ。専門家が専門用語で相手を手玉に取るのは簡単ですよ。うちの経営哲学「JALフィロソフィ」の一つ「ものごとをシンプルにとらえる」にも関係しますが、(JALを再生させた京セラ創業者の)稲盛和夫氏は、難しいことを難しく言うばか者、簡単なことまで難しく言う大ばか者、という趣旨の発言をしています。

 本当のプロフェッショナルは難しいことを誰にでも分かるように簡単に説明できる人です。西畑はそれをやってくれた。社外取締役やシステムを見たことがない人を含め、みんなが「あ、そうか」「ここまできているんだ」「不安要素はこれなんだ」と安心できる話し方をしてくれました。それもこれも選んだ私が偉かったということで(笑)。

外部の人にぼろくそに言われた

途中で稼働を延期した局面もありましたが、焦りや危機感はありましたか。

 西畑が責任者に就くまでは若干ありました。暗中模索だったからです。何が悪くて、何を間違ってお金がこんなにまた掛かるんだ、計画が延びるんだという理由を明確に説明できる者がいなかった。

 だけど彼はそれをやってくれました。しかも、その先のリスクの範囲も明確で「まだまだこれで終わったと思ったら大きな間違いです」とか、「あと半年はこういうことになったら遅れる可能性がある」「追加費用がいくら掛かるかもしれない」など、覚悟する数字をオープンにしてくれました。