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「先輩……。」

「どうしたの?」

「うちの会社でも、ついに『働き方改革』が始まったんですよ。残業時間の管理が厳しくなったり、新しいツールが導入されたり、在宅勤務ができるようになったり……。」

「おぉ、いいことじゃん。」

「いや、それが……。」

「うまくいく気がしない?」

「はい。」

働き方だけ変えても、やっている事業がいまいちじゃ、どうしようもないからねぇ。

「そうなんですよ!働き方を変える前に、そもそもビジネスモデルを変えるべきだと、ぼくは思うんです。」

「事業自体が非効率なんだ。」

「そうです。たとえば、いまだにうちの商品は、対面営業ベースで売っているんです。人件費や店舗のコストが乗ってくるんで、製品価格も高めです。でも、競合の製品はグローバルに規格化されていて、顧客獲得やカスタマーサポートもネットベースです。もちろん販売店もうちほどありません。」

「今はまだいいけど、どんどん厳しくなっていくよね。」

「すでに厳しくなっていて、どんどん競合にシェアを奪われているんです。」

「コストカットも難しいよね。」

「そうです。うちの顧客は手厚いサポートを期待しているし、それを前提に製品を作っているので、どうしたって割高になるんです。」

「そんな状態で『働き方改革』もなにもないと。」

「そう思いますが、なかなか経営陣はわかっていないようで……。」

「ほとんどの人はわかっていないよ。」

「そうですか?」

うん。働いている人の9割は、自社の事業の収益性なんて、関心ないんじゃないかな。

「ダメですよね、それって……。」

「ダメだよね。」

商品設計や売り方を変える方が、働き方を変えるよりインパクトがあるはずなんです。

「うん。」

でも、変わらない……。

「変わらないよね。」

「どうすればいいんですかね?」

「会社辞めるのがいちばんだよ。」

「やっぱりそうですか……。」

「働き方は、がんばれば個人レベルでも変えられるよ。そりゃそうなんだけど、会社の事業のあり方は、平社員じゃ変えられないよね。」

「はい。」

働き方だけ変えたところで、事業がダメなままだと、現場の負担が厳しくなるだけ。でも、無能な経営者はそれに気づかない。

「……。」

「無理だよね。特に大きい会社だと、もう動けなくなる。」

「そうですか……。」

「さっさとやめればいいんだけど、多くの人は、会社を辞めることができないのも真実。」

「難しいですよね。」

「で、上層部から『働き方改革』を強いられて、さらに消耗していくわけだ。より短い時間で、より多くの成果を出すために必要なのは、働き方改革じゃないのにね。」

「そうですよねぇ……。」

労働者側に問題があるとしたら、働き方ではなく、非生産的な会社に勤めつづけていること……だよね。」

人材の流動性が高まれば、働き方改革なんて不要ということですか?」

「乱暴にいえば、そうだと思う。ダメな会社からはどんどん人が抜けていくようになるとするよね。そうすると会社は焦る。事業の収益性と労働環境を改善しようとする動きが、否が応でも加熱するんじゃないかな。」

「日本のためにも、会社をやめることにします。」

「うん、そうするといいよ。今はいい会社もいっぱいあるしね。」

「おすすめの会社ありますか?」

「転職サイトの『パラフト』あたりを見ると、いい会社が見つかるかもね。」

「ありがとうございます、覗いてみます。」


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