3試合連続本塁打の後は大谷の2度目の先発に注目が集まる(写真・USATODAY/ロイター/アフロ)

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 エンゼルス大谷翔平(23)が打者として衝撃の3連発。8日(日本時間9日)には、投手として2度目の先発マウンドに上がる。相手は初先発と同じアスレチックス。前回は、オープン戦でまるで軌道が定まらず懸念されたスプリットが冴えた。今回もスプリットの出来がカギを握るが、おそらくアスレチックスは、あることに気づいている。その点にも注目したいーー・

 昨年の冬、トレバー・バウアー(インディアンス)は、「ドライブライン」というトレーニング施設にこもった。

 シアトルの空港に近いその施設ではボールの回転数や回転軸などを計測し、それをもとに、その選手の投げ方に最適な球種、あるいは、効果的な軌道を指導することで定評がある。

 球速が上がることでも有名だが、今回、これまでも同施設でトレーニングを続け、安定した成績を残せるようになった彼が、さらにレベルアップするためにテーマに掲げたのがスライダー。

「様々な握り、リリースポイント、回転軸を試してみた」

 ラプソードという投球解析機器、ハイスピードカメラ、モーションキャプチャーなどを利用しながら納得のいく軌道を模索。3ヶ月近くを要したが、答えを見つけて臨んだ春のキャンプでは、その再現性をテーマとした。するとキャンプでは、思い通りに複数の軌道を操ることが出来るまでになった。

「手応えは悪くないよ」

 そのバウアーと先日、再び話す機会があった。このときは、投げるコースによって動きが変わるカットボールの特殊性について色々、尋ねたが、きっちりと答えが返ってくる。

 彼ほど、球質について知識を持ち、自ら、大リーグの全球場に設置され、回転数や縦横の動きなどが瞬時にわかるStatcastで得られるデータを分析し、言葉に出来る選手もいない。

 では、その彼に、大谷の“動かない”と言われる4シームはどう映るのか。

 長所なのか、短所なのか。

 それを尋ねると、「データを見ないとわからない。キャンプ地では、ソルトリバー・フィールドにしかStatcastが設置されていないから、確か、そこでは投げていなかったよね」と、いきなりマニアックなことをいう。

 そう、アリゾナキャンプでは、ダイヤモンドバックスとロッキーズが共有する球場にしか、同システムが設置されていない。そして、大谷はその球場で投げなかった。

 ただバウアーはこんな話をした。

「仮に、動かないとしよう。(クレイトン・)カーショウなんかは、そういう球を投げるけど、動かない球を投げることは、むしろ難しい。きれいなバックスピンをかけなければならないから。大谷もそれができるなら、むしろ、長所になると思う。そういう球を投げる投手が少ないから」

 回転数にしても、縦横の動きにしても、理想とされるのは平均値から外れたボールだ。それを前提に彼は話をしている。

「打者が見慣れていなければいないほど、効果的だからね」

 その意味で大谷の真っ直ぐが本当に動かないなら、それは彼の武器になるーー。

 果たしてどうか。

 4月1日(日本時間2日)、大谷がアスレチックス戦にメジャー初先発、初勝利。翌2日になってStatcastのデータが公開されたのでさっそく調べてみると、結論から言えば、大谷の球は動いていた。

 縦横の動きというのは、同じ球が無回転で、重力のみが作用した場合、ホームベース上のどの位置にくるかを基準値とし、それに対して実際のボールがどこを通過したかで、動きを計測する。

 そこで大谷の4シームの軌道を調べると、横は右方向に20.4センチ、縦は上に39センチ動いていた。

 横の動きに関して、右投手の球が右に行くということはシュート回転がかかっていることを意味するが、これはごく自然な現象で、カーショウなど、ほんの一握りの投手を除いて、基本的に4シームというのはシュートしている。

 問題はその程度。

 どの程度なら、動いている、あるいは動いていないと打者が感じるのか。横の動きのメジャー平均を調べてみると、まさに20センチ前後であり、大谷の球はまさにその平均値だった。

 つまりそれは、打者が一番見慣れた球筋。打者にとっては一番動きが予測しやすい球でもあり、案外それが、 “動かない球”の正体とも言える。

 上に39センチというのは、メジャー平均が約43センチなのでやや下。ついでに触れれば、大谷の4シームの平均回転数は2219だったので、これもほぼメジャーの平均値(2247、2016~17年)。よって、軌道と回転数で見れば、大谷の4シームの軌道は極めて平均的だと言える。球の質ということで言えば、決して相手が嫌がるものではない。

 もちろん彼には、100マイル(約160キロ)近い球速があるため、そこがアドバンテージだが、それが落ちれば簡単にとらえられる。オープン戦でホームランを打たれたのも、95マイル(約153キロ)前後の球だった。

 ただ、それだけでリスクと捉えることも出来ない。

 おそらく、常時安定して、初先発のときのようなスプリットが投げられるのだとしたら、4シームのありふれた軌道は、長所にもなる。というのも、スプリットの横の動きを調べてみると、4シームのそれとわずかな差しかなかったからだ。

 それは、今年からStatcastで得られるデータのひとつとして、baseballsavantというサイトで提供されている「3D Pitch Visualization」で確認出来る。大谷が過去2年で85本塁打を放っているクリス・デイビスに対する全球を調べると、上の図1のようになった。

 低めのスプリット2球(ターコイズブルー)と真ん中に近い4シーム(レッド)の2球で見てみる。その奥に見えるパープルの点々はコミットポイントと定義され、打者が最終的に、例えば、ボールだと判断してスイングを止められる最後の地点だが、その4球はそこまでほぼ同じ軌道である。

 ということは、4シームだと思って振りにいって、落ちたと気付いたときにはもう、バットが回っているということになる。

 それを反対側ーーつまり、大谷の側から見たのが、上の図2だ。

 少し見にくいかもしれないが、相手打者の左膝付近に4つのボールが固まっている。これがこの後、徐々に枝分かれする。

 4シームとスプリットの軌道がもう少し異なるなら、打者も予測しやすいが、ここまで酷似していると、打者には区別がつかないのではないか。

 実は、前出のバウアーがこんなことを言っていた。

「大谷の軌道がメジャー平均だとしたら、それはやはり危険だ。打者は一番目が慣れているからね。変えられるに越したことはないが、ただ、同じような軌道で投げられる別の球種があるなら、心配することはない。相乗効果さえもたらしてくれるだろう」

 大谷にとってはそれがスプリット。この2つの球種を常に同じような軌道で投げられるなら、相手にとっては厄介極まりない。

 となるとあとは、その再現性。それこそが、大谷の拠り所となる。

 ただ1点、気になるところがあるので、それは明日8日(日本時間9日)の2回目の先発(対アスレチックス)が終わった後で検証してみたい。

(文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)