政府がきのう「働き方改革」関連法案を閣議決定した。今国会での成立を目指している。
当初掲げた裁量労働制の対象拡大は削除した。安倍晋三首相は国会で「裁量制の労働時間は一般労働者より短い」と答弁したが、裏付けとなる統計資料に大量の錯誤が判明し、答弁自体を撤回したためだ。
一方、残業時間の上限設定は盛り込んだ。それでも「働かせ過ぎ」を招く懸念は拭えない。一部専門職の労働時間規制を外す「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)の創設が含まれるからだ。
政府は「時間ではなく成果で評価される働き方」と説明する。対象は高年収の金融ディーラーなどに限定し、本人の同意や労使決議、健康確保措置を義務づける。しかし一度導入されれば、対象者がなし崩しに拡大する可能性は否めない。
法案では、残業時間に最長で月100時間未満、年720時間の上限を初めて設けた。事実上の青天井だった残業に歯止めをかける効果は期待できる。ただ、労災認定の基準となる「過労死ライン」に触れる恐れが指摘されている。
東京労働局は昨年12月、野村不動産で企画業務型裁量労働制の対象外社員への違法適用が判明し、是正を勧告したと発表した。導入要件などが高プロと類似した制度で、行政のチェック機能をアピールしようとしたのだろう。
だが実際は、違法適用された社員の過労自殺が調査の端緒だった。野村不動産は制度導入から10年以上、労働基準監督署の指導などを受けなかったという。チェックどころか、不正を長年見抜けなかったのだ。
記者会見でその点を質問された勝田智明東京労働局長は「皆さんの会社に行って是正勧告してもいい」と発言した。国会の集中審議で謝罪はしたが、権力を盾に取材をけん制しようとしたと受け取れる。
そもそも、労働規制の緩和と残業規制や「同一労働同一賃金」など8本の法案をひとくくりにした点に無理がある。いったい誰のための「改革」か。働き手の心身を守るため、個々の内容ごとに与野党で徹底的に議論するべきだ。