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2018年4月 8日 (日)

第391回:政府与党の行政指導による著作権ブロッキングという最低最悪のネット検閲へと突き進む日本

 先週毎日新聞の記事で、政府が著作権ブロッキングを要請するということが報道された。この記事は、今月の犯罪対策閣僚会議を開催して決定するということまで具体的に書いており、政府がこのような方針で動いていることは間違いないのだろう。

 既にブロッキングの問題については、heatwave_p2p氏がP2Pとかその辺のお話Rで「滅びゆくのはマンガ文化か、出版社か、それとも表現の自由か」という長文の記事を書かれており、また、弁護士ドットコムがその記事で東大の宍戸教授の批判を取り上げており、そう追加で書くこともないのだが、ここでももう一度その問題点を指摘しておきたい。

 このような動きの背景には無論権利者団体のロビー活動もあるだろうが、海賊版サイトの問題は今に始まった話ではないので、この期に及んで著作権ブロッキングが導入されようとしていることは不合理極まるとしか言いようがない。2016年と2017年の知財計画でもサイトブロッキングに対する言及はあるが(第363回及び第378回参照)、政府として何をどのように検討して今回の方針を採用するに至ったのかは全く不透明である。

 今年2月16日の第3回知的財産戦略本部・検証・評価・企画委員会・コンテンツ分野会合(議事次第参照)で、インターネット上の海賊版対策について議論がされているが、この会合だけ非公開とされ、具体的に何がどう議論されたのかさっぱり分からない。(非公開にしたということはそれだけ政府として議論の内容に疚しいところがあったのだろう。)

 この知財本部の会合は資料だけは見られるが、知財事務局作成の資料1(pdf)の第5ページに

サイトブロッキング導入可能性の検討
・対象サイトへの対策として、代替手段がなく、かつ、適合した手段といえるか
・財産権侵害の特性を考慮した運用体制の在り方
(人格権侵害との差異(判断主体、費用負担))
・どのような制度上の対応が考えられるか
(諸外国においては、42カ国において導入され、著作権法等の規定に基づき、行政命令、または、裁判所命令により運用している(但し、今後、詳細な運用状況の把握が必要)
※なお、次世代知財システム検討委員会報告書(平成28年4月)において、ネットの基本理念と相容れない点、表現の自由との関係、無効化される術があるという実効性の限界のほか、運用体制、名誉棄損・プライバシー侵害など他の法益侵害とのバランスなどが課題として指摘されている。

と書かれ、第7ページに、諸外国におけるサイトブロッキングの運用状況として「2017年9月現在、世界42カ国で導入されている」と一覧表が載せられているが、この表は裁判所の差し止め命令としてのサイトブロッキングと行政機関によるサイトブロッキングをごちゃ混ぜにして、欧州を中心として裁判所によりインターネットサービスプロバイダー(ISP)に対して差し止め命令が出されている国があるからと言って行政機関によるサイトブロッキングまで正当化されるような悪辣な印象操作を含むものになっている。

 同ページにも書かれている、2001年5月22日の情報社会における著作権及び著作隣接権のある観点の調和に関する欧州議会及び理事会指令第2001/29号の第8条第3項は、

Member States shall ensure that rightholders are in a position to apply for an injunction against intermediaries whose services are used by a third party to infringe a copyright or related right.

加盟国は、第三者により著作権又は著作隣接権を侵害するためにそのサービスが使われる仲介者への差し止めを求めることを権利者に可能とすることを確保しなければならない。

という、裁判による仲介者に対する差し止めを可能とするだけのものであって、サイトブロッキングをまるごと合法化するようなものでは全くない。これは、日本でも著作権の間接侵害とプロバイダー責任制限法で対応可能な範囲を規定しているに過ぎない。(日本の間接侵害とプロバイダー責任制限法にも問題はあると思っているが、ここでは直接関係ないのでひとまずおく。)

 この点に関しては同じ会合に出されている文化庁国際課の資料7(pdf)の方が、サイトブロッキングについて、裁判所による差し止め命令を可能としている国があるが、効果について権利者、通信事業者双方から疑念が示されているということを書いているだけましである。

 知財本部の印象操作で使われている42カ国の内28カ国が欧州域内の国だが、これらの国では、実際には、第379回で書いたとおり、全体として見れば、欧州司法裁判所が「パイレートベイ」のようなサイトの提供・管理が著作権侵害であり得ると判断を示しているに留まり、本当に各国で差し止めとしてのサイトブロッキングが認められるかどうかすらまだ分からず、オーストリアではいたちごっこが続きその効果は疑問とせざるを得ない結果に終わっており、ドイツの最高裁は、権利者はISPに対してサイトブロッキングを求める前に、まずサイトを自ら直接提供している者に対して合理的な努力に取り組むべきであり、このようなことに失敗した場合に限り差し止めとしてのサイトブロッキングは考慮され得るとう判断を既に示しており、ドイツで実質的に著作権侵害に対する差し止めとしてのサイトブロッキングが認められたケースはないというのが欧州域内における現在の状況である。

 なお、イギリスやフランスでも裁判所からサイトブロッキング命令が出されているのはその通りだが、IPKatのブログ記事やNEXTINPACTのネット記事(フランス語)にも書かれているように、これらも、あくまで公開される裁判の場で各法益の比較衡量の結果著作権侵害に対する差し止め命令として出されているものであり、しかもこれらの国でも具体的な効果が上がっているという話は全く聞かず、その効果はやはり疑問である。(サイトブロッキングをすればそのサイトに対するアクセスが減ること自体は当たり前のことに過ぎない。本当に問題とするべきは海賊版対策としての効果であるが、この点でサイトブロッキングが本当に効果を上げたという話を私は全く聞いたことがない。)

 カナダでも著作権サイトブロッキングの提案があるが、これには表現の自由から見て問題があるとの国連特別報告官の意見が出されている(P2Pとかその辺のお話Rの別記事参照)。

 要するに、世界的に見て、中国のようなイデオロギー・専制国家を別とすれば、日本政府が良く例として持ち出す欧米先進国で、政府与党の不透明な行政指導による著作権ブロッキングを実施している例は皆無である。上の42カ国云々というのは知財本部の今年のパブコメで日本国際映画著作権協会が同様の内容の意見を出していることからも分かるように(知財本部のパブコメ結果法人・団体からの意見(pdf)参照)、アメリカ映画協会(MPA)の主張をほぼそのまま取り入れたものだろうが、本当にこのようなコンテンツ業界ロビーの言うが儘に今の方針で著作権ブロッキングを導入したら日本はまた非民主主義的な国であることを自ら世界に発信して大いに恥を晒すことになるだろう。

 また、上の弁護士ドットコムの記事で東大の宍戸教授が批判している通り、日本国内の法的整理としても、著作権ブロッキングに緊急避難を持ち出すのが無理筋であるのは間違いない。

 児童ポルノブロッキングの際の検討の経緯は、上の2月の知財事務局作成の資料1(pdf)の第9ページに書かれているが、総務省の利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会の2010年5月18日の第6回会合で検討されており、その議事要旨(pdf)に以下のように書かれている取りまとめで、児童ポルノブロッキングの著作権ブロッキングへの濫用を戒めている。

<1  法的整理について>
 ブロッキングは、電気通信事業法第4条に規定する通信の秘密を形式的には侵害する行為であるが、ブロッキングは、①児童の権利等を侵害する児童ポルノ画像がアップロードされた状況において、②削除や検挙など他の方法では児童の権利等を十分保護することができず、③その手法及び運用が正当な表現行為を不当に侵害するものでなく、④当該児童ポルノ画像の児童の権利等への侵害が著しい場合には、その違法性は阻却されるものと考えられる。
 ただ、ブロッキングは、通信の秘密や表現の自由への影響が極めて大きいことや、技術的にはあらゆるコンテンツの閲覧を利用者の意思にかかわらず一律防止可能とするものであり、ブロッキングが児童ポルノ以外の違法・有害情報に決して濫用されないようにすべきであると考えられる。
 また、ブロッキングを実施するに当たっては、このほかにも、取り組むべき重要な課題があると考えられる。

<2  リスト作成・管理の在り方>
 アドレスリストにアドレスが掲載されると、インターネット利用者は当該画像等にアクセスすることができなくなる。また、インターネット利用者がインターネットを利用して自己の思想や信条などを表現する場合にも、アドレスリストに掲載されると、その人の表現行為が事実上阻害されることになる。このように、アドレスリストに掲載されるか否かは国民のインターネット利用に直接関係するものであり、アドレスリストは、透明かつ公正な基準によって作成されることが適当であると整理される。
 そして、ブロッキングの実施は、民間事業者による自主的な取組であり、アドレスリストの作成・管理は、「民間主導」による適切な管理体制の下で実施されることが必要である。

<3  技術的課題の検証>
 ブロッキングは我が国において前例のない取組みであり、実施に当たっては、オーバーブロッキングやネットワークへの負荷など、様々な問題が生じるおそれもある。従って、法的・技術的な問題を回避するためには、ブロッキングの手法に関する技術的な検証が必要である。ブロッキングを実施するISP側においては、実証実験や仮運用を行い、表現の自由への影響やネットワークへの負荷等を検証する必要があると思われる。また、実際にインターネットを利用する顧客への対応の在り方についても検討が必要と思われる。

 著作権ブロッキングについては、上の弁護士ドットコムで引用されている、民間側の安心ネットづくり促進協議会の法的問題検討ワーキンググループの当時の報告書(pdf)でも、

著作権侵害との関係では、著作権という財産に対する現在の危難が認められる可能性はあるものの、児童ポルノと同様に当該サイトを閲覧され得る状態に置かれることによって直ちに重大かつ深刻な人格権侵害の蓋然性を生じるとは言い難いこと、補充性との関係でも、基本的に削除(差止め請求)や検挙の可能性があり、削除までの間に生じる損害も損害賠償によって填補可能であること、法益権衡の要件との関係でも財産権であり被害回復の可能性のある著作権を一度インターネット上で流通すれば被害回復が不可能となる児童の権利等と同様に考えることはできないことなどから、本構成を応用することは不可能である。

とされており、上の今年2月の知財本部の会合の森弁護士の資料3(pdf)や木下准教授の資料4(pdf)でも同様の懸念が示されている。

 刑法第37条の緊急避難についても幾つかの学説があるものの、条文上、「現在の危難」「を避けるため、」「やむを得ずにした行為」(補充性)であって、「生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合」(法益権衡)に成立するものであり、今までの官民の法的整理において、特に補充性と法益権衡の観点から緊急避難としての著作権サイトブロッキングが認められる余地はないのである。そもそも緊急避難かどうかは個々の事案に応じて個別具体的に判断されるべきものであって、犯罪対策閣僚会議のような不透明な政府会議で緊急避難かどうかを決定してブロッキングを要請(この場合の要請はほぼ政府の命令に等しい)するなど論外と言う他ない。(私自身はインターネットコンテンツセーフティ協会による今の児童ポルノブロッキングですら不透明であり、問題があると思っているが。また、毎日新聞の記事によると、ブロッキング要請予定の3つのサイトの内2つは他国で行政指導や捜査当局の摘発を受けたとしているが、日本国内からアクセスすると閲覧できる状況が続いているのでは、どこまでまともに権利行使をしたか良く分からず、残りの1つのサイトに至ってはその言及すらないことからすると権利行使以前にいきなりサイトブロッキングを求めているのではないかという疑念が拭えない。このような状況では、これが欧州域内の話であるとして、訴えたとしても裁判所から差し止めとしてのサイトブロッキング命令すら得られるかどうか怪しいと私は見ている。)

 このように著作権ブロッキングと称して不透明かつ不合理極まるネット検閲を導入することは日本における憲法と民主主義に対する愚弄に他ならない。政府与党としては今月の犯罪対策閣僚会議で著作権ブロッキング要請という名のネット検閲命令を出すつもりのようだが、これは断じて許し難い暴挙である。

 最後に念のため書いておくと、私は決して海賊版サイトを守るべきなどということを言っている訳では全くない。海賊版サイトの提供・運営はサーバーの場所に関わらずどこの国であろうが今でも著作権侵害で違法なのは間違いないので、現行法で民事・刑事の両方から地道に速やかに対処するべきであって、それ以上に良い対策はなく、ブロッキングのようなネット検閲にしかならない最低最悪の手段を取るべきではないと思っているだけである。本来であれば表現の自由や通信の秘密に最も気を使うべきコンテンツ業界が政府与党に対するロビーでブロッキングの導入に安易に乗ったことは行く行く自分たち自身の首を締めることにも繋がるだろう。

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