お待たせしました。
最初に約束しますが、今日で答弁作成は完了して無事答弁が終わりますのでご安心を笑
これまでのシリーズ一覧
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目次
---(前々回)国会答弁の作り方1---
http://kasumigasekipeople.hatenablog.com/entry/2018/03/31/133947
- 1. 国会日程決定(質疑の数日前〜前日)
- 2. 質問者決定(数日前〜前日)
- 3. レク(問取りレク・議員レク)の日程決定(前々日〜前日夜)
- 4. レク(前々日〜前日夜)
- 5. 割り振り(レク終了後直ちに)
---(前回)国会答弁の作り方2---
---今回---
7. 省内で了(As soon as possible)
我々が書いた答弁書は、然るべき手順で了承をもらわなければなりません。
ここで、政府による答弁の種類を分類する必要があります。
答弁者で2タイプに分けたいと思います。
○政務三役による答弁
・大臣
・副大臣
○参考人答弁
・局長等
(参考)衆議院規則
第四十五条の二 委員会が審査又は調査を行うときは、政府に対する委員の質疑は、国務大臣又は内閣官房副長官、副大臣若しくは大臣政務官に対して行う。
第四十五条の三 委員会は、前条の規定にかかわらず、行政に関する細目的又は技術的事項について審査又は調査を行う場合において、必要があると認めるときは、政府参考人の出頭を求め、その説明を聴く。
つまり、基本的には、大臣、副大臣、政務官の、いわゆる政務三役に聞いてくださいね。ただし、行政に関する細かいことは、官僚(政府参考人)に聞いた方が効率的ですからそうしましょう。ということになっているわけです。
質問が政府三役に対するものか、参考人に対するものかで、答弁書の審査のプロセスは異なります。
更に言えば、そのプロセスは、本当にケースバイケース、でして、省庁ごとにやり方は異なりますし、局ごとでも違うでしょうし、質問によっても異なります。
例えば、既存の想定問答ですでに準備してある質問と全く同じ質問に対する答弁をわざわざ上司にはかるのは時間の無駄で意味がありませんよね? そういう実質的な部分も判断しながら答弁書をチェックしていくわけです。なので、とにかくケースバイケースなんだ、ということをまず抑えていただいて、その上で、なんとなくのイメージをご紹介します。
7-1. 政務三役の答弁の場合
政務三役の答弁の場合は、その役所の代表が答弁するわけですから、役所全体の取りまとめである官房(※)がチェックをするのが基本です。更に、最終的には、政務三役に付いている秘書官がチェックをします。この秘書官というのは、政治家が雇っている政務秘書官ではなくて、役所の職員である事務秘書官のことです。
(※)第1話でも触れましたが、機構の関係で「官房」と名がつく部署がないところもあります。名目的な官房ではなくて、実質的な取りまとめ機能を有している部署と御考えください。
局で審査
→官房で審査
→秘書官が審査
→おしまい
こんな感じです。
それぞれの段階で、どのレベルの人まで見ているか、これもケースバイケースです。「局で審査完了」というのは必ずしも全て局長がチェックしていることを意味しません。内容によっては局長が見るものもあればそうでないものもあるでしょう。あるいは、とにかく局長が全部見るんだ、という運用をしている部局もあると思います。
政策の中身自体は担当局の方が詳しいはずなので、官房は何を審査しとるんだ、とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、得てして担当局は「守りの答弁」を作ってしまいがちです。事実だけを淡々と述べてわかりにくい、とかまぁそんな感じとかです。そこを、官房や秘書官が現場から離れた目線で見て、これは聞き手からするとわかりにくいとか、もうちょっと気の利いたことを言えんのか、みたいな審査を加えます。
更に秘書官はより政務三役との距離が近いですから、言い回しの癖とか、思考回路まで頭に入っていますので、喋りやすいように修正を加えたりします。
これでようやく答弁書が完成です。お疲れ様でした。まだ電車ありますかね?
7-2. 政府参考人の答弁の場合
政府参考人の答弁は、ちょっと楽チンです。
多くの場合は局内で完結します。だって、局長が喋ってくるんですから。
えー、それでいいの!?とお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、先ほどご紹介した答弁者の種類の説明を思い出してください。
細目的又は技術的事項
についての答弁は政府参考人でしたよね?
これはむしろ、事務的なデータの提供や事実関係を説明するのが目的ですから、それについて大臣や官房のチェックを受ける必要があまり無いのですね。基本的には局内で完結するケースが多いと思います。
やはり政務三役が絡むロジはなんでも大変なんですよ。
7-3. (ちょっと寄り道) 問取りレクでの振り分け
ちょっと待て、質問に誰が答えるかってどうやって決まるんだ?
と、思った方、とても鋭いです。
それは実は「問取りレク」で決めています。
質問が細かかったり専門的だったりする場合は、我々の方から「この質問は技術的ですので、差し支えなければ副大臣や政務官、あるいは参考人から答えさせていただいてもよろしいでしょうか」と提案します。これをやっておかないと、何十問も大臣が答えることになり、大臣がパンクします。細かな制度や数字の話を全部大臣が答えるのは現実的にはなかなか厳しいです。
あるいは逆に質問者から「この質問は細かいから政務官から答えてくれればいいや」というふうに指示されることもあります。
「問取りレク」ってそういうこともやってるんですね。
そんなこんなで、無事に答弁書が完成です。
……総理問でなければね
8. (総理問等の場合は)官邸了(As soon as possible)
質問者が総理宛に通告している場合は、官邸の審査も必要です。
省内プロセスが整ったところで、官邸に送ります。
局で審査完了
→官房で審査完了(※)
→官邸送付
→官邸審査完了
→おしまい
(※)基本は官房審査を通す気がするのですが、状況によっては、例えば質問が多すぎて官房審査で作業が滞ると全体に多大なるダメージを与えるような時には、事実上すっ飛ばしている省庁やケースもあるかもしれません。ここは正直全ての省庁のやり方を把握しているわけではなく自信がありませんのでその旨申し添えます。
官邸には総理問に関する全省庁からの答弁書が集まってくるので、当然、チェックの時間がかかります。これ、結構かかります。ただこれはもう限られた人数でやっているので仕方ない部分があります。
なので、ひたすら待ちます。官邸に送付してから修正指示orOKの連絡が来るまで数時間かかることもあります。
念のためですが、霞ヶ関の全ての答弁書を官邸がチェックしているわけではありません。あくまで、総理(及び官邸の人の答弁。例えば官房長官とかです)の答弁書のみチェックします。
ヤバイ時はそろそろ日が昇ってきそうな気配が漂い始めます。
官邸審査ってどうしても時間かかっちゃうんですよ。
9. 答弁者レク(当日朝が多い)
答弁書作成が終わってもまだ気は抜けません。
答弁者本人に、答弁書の内容を説明する必要があります。
参考人答弁の場合は、詳しい人が専門的なことを答弁してくるわけですから、この説明はそんなに大したものではありません。「資料作ってくれれば自分で読んで頭整理して喋ってくるわー」という人もいます。そういう人が多い気がします。
時間がかかるのは、政務三役への説明です。
基本的には委員会は朝から始まります。
委員会が9:00スタートとすると、ギリギリでも8:30ぐらいには霞ヶ関を出発しなければなりません。説明に要する時間は質問の量にもよりますが、大量に質問があってもめちゃくちゃ簡略化してやるとして30分、説明開始は8:00となるわけです。
で、質問が大量に来ている時は答弁作成作業も時間がかかっているはずですから、29:00作業終了とかも、まぁなくはないんですね。前後両方からスケジュールが圧迫されていくイメージです。
ちなみに、内閣人事局が国会作業に関する調査を行なってまして、それによれば、割り振り完了が最も遅かった例が28:50ですから、その日は、ワリモメしながら書いていたとしても、答弁が最終的に完成したのは30:00とか31:00にはなっていると思います。
で、8:00(32:00)から答弁者に説明をするわけですね。
まぁこれはかなりやばい特殊な例ですので、毎日こんなことやっているわけではありませんよ。そんなに心配しないでください。事実をお伝えしたいのであって、こんなに大変なんですよー、ということを伝えたいわけではないのです。一般論として、仕事が遅いのは恥ずかしいことですからね。時刻が、慣れていない人だとちょっと衝撃だとは思いますが笑
ただ、なんとなくの感触ですが、27:00に退庁して翌日7:00登庁ぐらいは、まぁそんなに珍しくはないかなという感じはします。
(参考)国会に関する業務の調査・第2回目 (調査結果)
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/h281222_chousa.pdf
なお、我々は超人ではないので、30:00まで答弁作成作業をやって32:00からご説明というのは体力的に厳しいです。
ですので、ここはうまいことシフトを組んで、例えば、
○答弁作成作業は課長補佐が頑張る。課長は翌日に備えて帰る。
○課長は朝早く出て来て、出来上がった答弁書をささっと読んで、大臣に説明。
○課長補佐は答弁が完成したら家に帰って仮眠
とかまぁ、色々工夫して乗り切ります。
人が足りなくてそんな分業してられない時はアドレナリンで正面突破します。
10. 答弁
ようやく、頑張って作った答弁書が、答弁という形で世に出ていく時がやって来ました。現場で何か起こった時のために、答弁作成者が後ろの席に座ります。我々はあまりテレビ中継の邪魔にならないように座るのですが、たまに映りこみます。職場に戻ってくると、お前映ってたぞー、とか冷やかされます。
で、現場で大臣が答えに窮したり、急遽通告を受けていない質問が来た時などに、そばで控えている秘書官と協力して、資料を渡したりメモを渡したりして、議論の円滑な進行を助けます。
また、現場に行っていない職員も、霞ヶ関の職場は国会会期中は基本的に国会の様子がずっとテレビで流れ続けていますから、それを横目で見ながら仕事をします。重要な質問の時や、なにやら紛糾している時は、次の仕事にハネてくる可能性があるので、みんなでテレビの前に集まって見たりします。
そうこうしているうちに、委員会日程によっては、明日の質問通告が入って来たりします。
長くなりましたけれども、こんな感じで、無事に質問に答えることができました。
さて、ここまでこの長い文章を読んで疲れているあなたにも悲報があります。
こんなに頑張って答弁を準備したのに、本番で聞かれないことがあります。
これを、「空振り」とか「落ちた」とか「外れた」とか言います。
基本的に外れると10秒ぐらい放心状態になります。
まぁそう時もあるさー、ということで、すぐ忘れるに限ります。
長々とお付き合い頂きましてありがとうございました。
まーとにかく説明がへたっぴなので、簡潔にまとめられませんでしたけれども、そのぶん現場の雰囲気はなんとなくお伝えできたかなと思っています。
第一回の冒頭でも申し上げましたが、
これを受けて、
やっぱり官僚が書いている原稿を読んでいるだけの国会は違和感あるけど…
とか
質問通告のシステムって本当にいるの?
とか、多くの人が疑問に思われていそうなことについて、
時間ができたときに少しだけ考えてみたいと思います。
エピローグみたいなものですね。
ただ、次がいつになるかわからないのでこれだけ書き残しておきたいのですが、
どうしても「仕事が大変すぎる」感が出てしまっていると思うのですが、
「仕事が大変そう」→「働き方改革をするべき」
というのは、当然のことなのですが、
(これは人にもよりけりですが)本当に国家のために必要な仕事は徹夜してでもやるぜ!というメンタリティの人が少なくない職場だと思います。
なので、
「国家のために本当に必要な議論が国会でなされる」
というのも忘れてはならないポイントであって、職員のモチベーション維持の観点から最も大事な点なのではないかなと思うのです。
別に、働き方改革はしなくていいなんて言ってるわけじゃないですよ。
やれるところは絶対にやらないといけないのです。
ただ、「遅くまで作業する」という物理的時間的なことよりも、
「この作業って国のためになってんのかね……」と、仕事の中身に対して一抹の疑問が生まれてしまう時の方が、精神的にはよっぽど辛い気がします。
もちろん「何が国家のためかはお前の主観だろ」ということになるので何ともコメントし難いのですが、
何と言いますか、
「長時間勤務大変だねー」
と思って頂くのは、何となく私の本意とはちょっと違うかな、という、何とも言えない違和感があったので、最後の最後に少しだけ書かせて頂きました。
それは違うぞ、と思う人も同業者の中にはたくさんいると思うので、これはあくまで私個人の気持ちです。文字でうまくお伝えできているか自信ないのですけれども。
とりあえず、「答弁の作り方」自体はこれでおしまいです。
こんな超マニアックなトピックについて多くの方が読んでくださいまして、ありがとうございました。ちょっと想定外のアクセス数で、ぶっちゃけ焦りました。
またなんか面白いトピックを思いついたらシリーズ化します。
Twitterに既にちらほら「こういうの書いてくれ」というお声を頂いたりしてまして、既に消化不良の匂いがプンプンするのですけれども。
ではでは
Twitterやってます。
<おことわり>
このブログは私が所属する組織の見解を示すものではなく、あくまで個人の見解に基づくものであります。
また正確性を一義的な目的とはしていないため、事実であるかどうかの裏づけを得ていない情報に基づく発信や不確かな内容の発信が含まれる可能性があります。
(参考:総務省 『国家公務員のソーシャルメディアの私的利用に当たって』 H25.6.28)
http://www.soumu.go.jp/main_content/000235662.pdf