最初によくある質問に答えておく。
Q:その本には写真が掲載されるのか?
A:実用的な写真や図が満載
前回の本しゃぶり
「PVを取るのは猫とおっぱい」と知って片っ端から本を読んで記事にする。
記事を書いている途中で、乳房文化研究会が出した『乳房の科学』を見落としていたことに気がつく。
- 作者: 乳房文化研究会,北山晴一,山口久美子,田代眞一
- 出版社/メーカー: 朝倉書店
- 発売日: 2017/06/20
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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ここに来てスルーするのもアレなので、あとで読むことに。
図から凄み
最初にこの本から「凄み」を感じたのは表紙をめくった時だった。
いきなり乳がん早期発見のためのセルフチェックが載っていた。しかも部位ごとの確率まで記してある。これを見た時、「あっ これガチなやつだ」と思ったのは言うまでもない。
前から順に読む前に、とりあえずパラパラとページをめくる。そうすると画像を見つけるたびに手が止まった。初めて見るようなものだからだ。あの『乳房全書』*1にすら載っていない。例えばこれ。
乳房の成長過程である。今までに読んだものだと「思春期になると乳房が発達し〜」というように、外見に関して言えば一文程度でしか説明されていなかった。対して本書は「少女のバストは大きく三つの段階に分かれている」から始まるのである。万事がこのレベルで説明されると思ってもらいたい。
ちなみにこのバストの成長の解説は、ワコールのサイトにも掲載されている。知らなかった絵師は目を通しておくべき。
ガールズ親なび|成長期の女の子がいる「おうちの方」のための情報サイト by ワコール|ガールズばでなび
データで語る
タイトルに「科学」とつくだけあって、本書は全体を通してデータで語るのが良い。何を解説するにせよ、その根拠が用意してあるのだ。もし無い場合は、それが仮説であると分かるように書いてある。
例えば「母乳育児で母子の絆が深まる」という話でも、乳児による吸乳刺激によって分泌されるオキシトシンやプロラクチン濃度の変化によって語られる。データとメカニズムが用意されていると、次善の策を検討できるのが良い。母乳育児を推奨する時に問題となるのが、母乳が出ない人はどうするのか、ということである。これが理由もなしに「母乳育児は素晴らしい」とされるとどうしようもないが、メカニズムが分かれば別の手段を講じることができるだろう。
データと言えば少しマニアックなネタとして、乳房の感度の話が載っていた。乳首はポルノではもちろんのこと、「男性の乳首は海賊が気温や風向きを計るのに必要だったため存在する」なんて話があるほどに感度の高い器官とされることも多い。では実際はどうなのか。
本書にある調査では、太さの異なるフィラメントを測定部位に乗せ、それを感じ取れるかどうかで評価した。上図の各部位にある数字は、感じ取れた最も細いフィラメントを表しており、値の小さいものほど感度が高いことを示す。見て分かるように、乳首は尻や足裏よりも感度が鈍いという結果となった。
これは乳首は刺激が加わりやすい部位であり、そのため角層が厚くなりやすいためと推測されている。実は今回の被験者は授乳が終了した40代50代がほとんどである。授乳前の人を測定すると、また別の結果になるかもしれない*2。
ところで何でこんなネタみたいな話が載っているかというと、乳房の感覚というものは乳がんによる乳房再建時に重要となるからである。見た目だけ乳房を再現しても、患者は何か異物が胸にぶら下がっているようにしか思えない。なので神経を接続し、再建した乳房に感覚を取り戻す必要があるのだ。ゆえに正常な乳房の感度を知っておかなくてはならない。
ゆりかごから墓場まで
本書は乳房文化研究会の前著『乳房の文化論』と同じく、講演論文をまとめたものになっている。前著について、俺はこのように書いた。
内容はどれも興味深いのだが、元が講演なので一つ一つは短い。そのためこれだけではどの話にしても物足りなさを感じる。
しかし本書ではこのような印象を受けなかった。それは章を「しくみ」「医療」「授乳」の三部にまとめてあるためだ。これにより関連した内容を連続で読むことができ、著者が異なっても分断を感じなくなっているのである。
加えてこのまとめ方としたことにより、乳房の「獲得」「活用」「喪失」について書かれた本となった。つまり人生における乳房の主なイベントを網羅しているのである。例えば先に乳房の成長過程を紹介したが、その後についても本書で解説されている。
ちなみに加齢が進むに連れてバストが柔らかくなるのは、乳腺が減って脂肪が増えるためである。よく「おっぱいなんて脂肪の塊だ」なんて言う人もいるが、MRIによる断面図*3を見ると若い場合は乳腺の方が多く見える*4。あれはおっぱいを知らない人の発言なのだろう。
話が逸れたが、ともあれ女性ならば生涯を通して役に立つ本であると思われる*5。少なくとも、これまで乳房について学んだことのない人は読んでおいたほうが良い。困ったことに人間というものは自身の身体のことですら、本などから学ばないと正しい知識を得ることはできないのだから。
終わりに
開封して本書を手にとった時「思ったより大したことないな」と思った。値段の割に薄く見えたからだ。『乳房全書』というヴィレンドルフのヴィーナス*6のような本を見た後だと、物足りなく思えるのは仕方ない。
しかし、読み始めて評価は変わった。実用性という意味では、先に紹介した16冊のどれよりも上であると言える。特に驚いたのは、初めて知ることが多かったからである。ニッチな範囲について書かれているならともかく、本書で書かれているのは乳房界隈でも王道的なものだ。にも関わらず知らないことだらけ。自分がこの分野については明るくないことを思い知らされた。
それだけ凄いと思ったのに、amazonのレビューは執筆時点で0である。本書の発売日は2017/6/20なので、十分に時間は経った。これだけの本が知られていないとなると、おっぱいが人気ということも疑わしく思えてくる。なので前回の記事に追記という形をとらずに、新たに記事を書いたというわけだ。
- 作者: 乳房文化研究会,北山晴一,山口久美子,田代眞一
- 出版社/メーカー: 朝倉書店
- 発売日: 2017/06/20
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