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【産経新聞】 相模原大量殺人 なぜ実名発表を求めるか

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 相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」で入居者19人が刺殺された事件は、戦後最悪の凶行とされる。
 元職員、植松聖容疑者は重度の障害者を標的に犯行に及んでおり、その残忍さ、卑劣さは際立っている。さらに異常なのは「重複障害者が生きていくのは不幸。不幸を減らすためにやった」とする、あまりに身勝手な供述である。
 今年2月、衆院議長公邸に持参した手紙には「保護者の疲れきった表情、施設で働いている職員の生気の欠けた瞳」「障害者は不幸を作ることしかできません」といった記述もあった。
 懸命に生きる障害者や見守る家族を、これほど侮辱する、腹立たしい犯行動機があるか。
 知的障害者と家族などの団体「全国手をつなぐ育成会連合会」は障害者に向けて「私たち家族は全力でみなさんのことを守ります。ですから、安心して、堂々と生きてください」とメッセージを公表した。
 そして、障害者の不安を軽減するためにも、誰よりも被害者の家族に、容疑者を強く否定してもらいたい。
 怒りや悲しみ、被害者への愛情や思い出、容疑者への反論を直接聞き、伝えたい。そのための取材である。容疑者の供述や妄想に満ちた手紙の文面が、当事者に否定されることなく社会の記憶に残る事態は耐え難い。
 神奈川県警はこの事件で、「実名報道が基本ということは承知している」とした上で、被害者氏名は非公表とした。「被害者が障害者であることと、ご遺族の意思」がその理由とされた。
 だが、報道側が求めているのは実名報道ではなく、実名の開示である。実名は取材の起点として不可欠なもので、実名を報道するか否かは取材の結果で決める。まず取材がなければ、真実へは一歩も近づくことができない。
 平成17年に個人情報保護法が施行されて以降、警察や関係省庁が被害者氏名を公表しない事例が増えている。だが同法は報道目的の情報提供は適用除外としており、同法を根拠とする被害者名の非公表は誤りである。
 報じる側の集団的過熱取材(メディアスクラム)には強い批判がある。深く反省すべき点も多々ある。それでも、取材をやめるわけにはいかない。

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