また近年の人口学が示しているように、夫婦の理想子ども数や予定子ども数は、ここ30年ほど大きく変化していない。
実際に産む子ども数の平均も下がっていない。つまり日本の少子化の要因は、結婚した夫婦が子どもを多く産まなくなっていることにあるのではなく、結婚しない人の割合が増加したことにある。
要因分解という手法を用いると、その比率は約1:9とのことである(岩澤美帆「少子化をもたらした未婚化および夫婦の変化」高橋重郷・大渕寛編『人口減少と少子化対策』原書房、2015年、の内容を筆者がまとめ直した)。
要するに、夫婦の子ども数を増やすことを企図した少子化対策よりも、結婚する人が増えるような対策を行うことのほうが9倍効果があるのである。
待機児童の解消などの子育て支援、男性の育児分担などのワーク・ライフ・バランス、古くは男女共同参画など、日本の少子化対策は、結婚し、子育てする夫婦が、もう1人追加的に産むことを推奨するような政策に偏ってきた。
国民全体がそのような政策を望むのであれば仕方ない、ということもできる。ただ、とすればなおさら、現在の少子化対策が出生率を高めるという過剰な期待は抱かないほうがよい。
特に日本の場合、政府が、子どもを産み育てたいという国民の「希望」を躍起になればなるほど、その実現から遠のいてしまう、という厄介なパラドクスが存在するように思われるのである。
本コラムでは、このパラドクスが現代の家族や子育てをめぐる風景のなかで、どのような形で現れるかについて、今後、論じていくことにしたい。