さらに気になるのは、「税金を使ってこんな動画を作る前に、安心して結婚できるような経済対策・子育て政策を考えるべき」という見解である。
筆者の狭い見聞にすぎないが、ふだん待機児童の解消、ワークライフバランスの実現、若者や女性やひとり親家庭の貧困対策などを訴える「リベラル」なメディアや識者のなかに、こうした見解に与する人が多いように思われる。
彼ら/彼女らは、結婚奨励よりも、「安心して結婚できるような経済対策・子育て政策」のほうが、少子化対策として有効だと言いたいのであろう。
しかしこれまで本コラムで指摘してきたように、現代日本の出生率を高めるには、夫婦やカップルの子ども数を増やそうとする出産・子育て支援よりも、未婚者の結婚を促進する結婚支援のほうが、約9倍効果が大きい(筆者コラム「こんなに少子化対策している日本で、子どもが増えない厄介な矛盾」参照)。
今回の結婚動画は、この結婚支援による効果を狙ったものであり、その政策意図が実現されるならば、リベラル派が強調するような子育て支援や経済支援などより、少子化対策としてはるかに「有効」である可能性がある。
ところでこの結婚動画、なかなか興味深い。
「不思議なゲートをくぐると祖父母がいた」という設定で、1964年の東京オリンピックをきっかけに結婚した祖父母から父が生まれ、その子ども、つまり孫世代の男女が、結婚・出産に踏み切った友人や、2回めの東京五輪を心待ちにする祖父母を見渡しつつ、結婚を考慮し始めるというストーリーとなっている。
ここでは世代の連続性が強調されている。
このテーマを印象深く表現した映画のひとつが『永遠の0』(山崎貴監督、百田尚樹原作、2013年)である。
本作がよくできた映画であったことは、イデオロギーの左右を問わず、多くの映画評論家が認めるところであろう。
この映画のほぼラストシーンで、大戦末期に特攻で戦死した主人公・宮部久蔵(岡田准一)の遺志を、彼の孫である佐伯健太郎(三浦春馬)が、東京の巨大ビル群の間で感じ取る場面がある。
現代日本の繁栄が、さまざまな葛藤を抱えて海に散った父祖のいしずえに成り立つことを示す、名場面といえよう。
今回の結婚動画が、映画版『永遠の0』を下敷きにしている可能性は、それなりに高いのではなかろうか(筆者は映像の専門家ではないので、間違っていたらすみません)。