救命措置をしていた女性に対し「土俵からおりるように」とアナウンスをした相撲協会のニュース。大の大相撲ファンである僕でさえも世論と同じく「そのアナウンスは間違いだ」と強く思います。
しかし、この出来事に対する批判が「伝統VS人命」という対立構造(人命より伝統の方が大事なのか! という論調)でなされていることについては、僕はまったく別の意見を持ちました。
今回の問題は、相撲協会が「人命より伝統を優先した結果」ではなく、相撲協会が「神事としての相撲をきちんと取り扱えていない結果」だと思うのです。
相撲協会は自称としても他称としても、「伝統」や「神事」という言葉をよく使いますが、実はその中身はがらんどうで、そこに思想はなかったということに気づかされました。
相撲ファンの僕はそこにとてもガッカリしています。
それはどういうことか。まずは、相撲の伝統について考えてみると、女人禁制のルーツも見えてきます。
土俵が女人禁制なのは、相撲のもとの形が神事だったことに由来します。
その神事は五穀豊穣を祈るもので、対象となった神様が女性神であったために、屈強な男を使い、喜ばせたのがはじまりだと言われています。その場に、ほかの女性があがると神様が嫉妬するというのが、土俵が女人禁制になった理由です。(諸説あります)
今回、緊急を要するために女人禁制の禁忌を犯すことは仕方なかった。
けれども、「伝統」や「神事」をきちんと取り扱えていない人々が相撲という神事を動かしているせいで、「万が一その禁忌を犯すことになったらどうしたらいいか」を考えられておらず、単に「土俵からおりてください」と言うしかなかったのです。
女性が土俵に上がるのを禁ずるのは、前述の通り神様が嫉妬するから。
では、あがらざるを得なくなってしまった場合には「神様を鎮めるための儀礼」をやるのが神事としての自然な振る舞いではないでしょうか。
たとえば、横綱がその土俵で揃い踏みをやることだったり、土俵祭りをもう一度行うことだったり、方法はいくつもあるはずです。
もし今回の件で、(相当に困難なことですが)世間から許しがもらえたとします。そのとき、相撲協会が本当にやらなければならないのは、神を鎮める儀礼なのです。
しかし、ここまでそんな声は一つもあがっていません。
こんなにも「神事」を自称しながら、神を置き去りにすることがあるでしょうか。
禁忌を犯さなくてはならなくなった時に、誰も「神を鎮める」ことに思いが至らないことこそ、相撲が神事として死んでいることを表しているのです。
あのタイミングで土俵からおりるようにアナウンスしたことに対しては、皆さまが怒ってくれればいと思います。
だけど、僕の本心であり役割として、こんなに神様のことを考えられない人たちが相撲協会をやっていることに、ひたすら哀しさと寂しさをおぼえます。
でも、乗りかかった船といいましょうか、嫌いになることはありませんが、いろんなことを取り戻して欲しいと切に願うばかりです。(文◎Mr.tsubaking)
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