ダンジョンで幸せを探すのは間違っているだろうか 作:モーリン
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物語ですが、私の趣味の無限の剣製をオリ主君にぶち込んだぶっちゃけ作者の自己投影も多分に含まれるオリ主君ですのでご理解をお願いします。
……無限の剣製ってロマンですよね。
1話
そよ風が気持ちよく大地の匂いを運びながら草木を撫で上げ、それに歓喜したかのように葉を揺らし独特な自然の歌を奏でる。そんな自然あふれる大地の中で村が一つぽつんとある。人口は100人にも満たない程の小さな村で、男は畑作業、女は筵を編んだり洗濯をしていたりと、のどかな風景が広がっている。
そんなど田舎に一人の男が鍬を持ち、村外れの畑を耕していた。年の頃は18歳位で、すでに青年と呼んでも差し支えない。髪は黒く、太陽の光で時折茶色にも見える程軽い毛を汗で濡らしながら、その鍬で畝を作ってる。
「……ふぅー。疲れた」
首をコキコキと鳴らしながら質素なタオルで汗を拭い一息つく。身長は180C前後で農作業で鍛えられた肉体に贅肉などなく、引き締まっていた。
「はぁー……せっかく転生して神様特典も貰えたのに……」
大きく深くため息を吐いてまるでこの世の絶望ばかりにそう言葉をこぼす。
良く耕された土の中からミミズがはい出るのを見ながら
「なんで、イケメンじゃないんだ……!!」
土から完全に顔を出したミミズが顔なのか何なのか分からない先端をこちらに向けてその胴体を傾げた。
キューティクルが完璧な黒い綺麗な髪、180Cの高身長、日焼けした健康的で引き締まった体。ここまでは何も文句が無く、男の理想と思うが、ところがどっこい。現実は常に非常でありその顔を覗き見ると、不細工。とは言わないが、何処にでもいる平凡な男の顔が綺麗な前髪から覗いた。若干優男な顔で一言で言うなら野暮ったい顔。である。
眉毛は整えておらず、少し童顔な男とミスマッチをしている。整えれば恐らく中の上位まで行くと思うが現状良く見て中の中で贔屓目無しで中の下であった。
「そ、れ、に!」
言葉と合わせて鍬を思いっきり振り下ろしながらミミズを避けるように畝を立てていく。
そこに怨念がこもっていないとは言えない。
「神様特典……なんで、なんでこうなったんだ!」
上空へ向けて叫ぶ青年。そうして思い出す。
生前の青年は何処にでもいるオタク気質な三十路手前のサラリーマンであった。
給料は少ないが勤務時間等は噂やニュースで聞くブラック企業とはかけ離れており、そこそこ満足した生活であった。だが、決定的に刺激は少なかった。そんな時にアニメ漫画ゲーム等色々なインドアな趣味を持って平々凡々と過ごしていたはずであった。
その日は飲み会で係長になりそうだという事を上の人からポロっと情報を頂き偉くご満悦な表情でベットに付いてはずがいつの間にか、何故か白い空間で神様と名乗る老人に二次創作のテンプレである神様転生と特典つけてやるという事を青年に提案した。
勿論青年は了承した。どうせ夢だしと思い転生特典は
「勿論、無限の剣製で決まりです!」
無限の剣製はまさしく大人気の能力だ。神様転生の定番にもなっている。
因みに対をなすのは「王の財宝」である。
だが、この男はあの中二臭い長ったらしい詠唱で広がるあの世界が大好きであった。
一度見た剣を投影という魔術で現世に限りなく能力も本物に近づく程のものが作れるという、あの世界では規格外ではないけどそれでも状況を顧みながら使用していけば無類の力を発揮するのは想像に難くない。
そして決定づけたのは無限の剣製の丘に突き刺さっている宝具の数々。アーサー王伝説に始まりケルト神話も網羅し全世界の神話や伝承で残っている武具が登録されている。これにロマンを感じずにいられないのが男である。
そんな意図せず転生してしまった記憶を少年時代に思い出して、最初は自失呆然としたが現状どうする事も出来ないし、絶望しても始まらないと気を取り直して(1年掛けて)夜寝静まったのを見計らい家を抜け出して、あのカッコいい詠唱(アーチャーバージョン)を詠唱し無限の剣製の真髄が世界を侵食する。
紅い世界
錆びた歯車
乾いた大地
そして
数々の武器
「あ、あれ?」
……数々の武器
「あ、あああ……」
……数々の
「ひ、ひどくこざっぱりしてるうううううううう!?」
男の目の前に広がったのは数々の武器ではなく、何処まで行っても荒れ果てた荒野と錆びた歯車「だけ」の紅い世界。ふと足元を見ると鈍色に光っている刃物を見つけ、手に取る。
「……お母さんが使ってる包丁だ」
ふと横を見ると父が使っている鎌や鍬、鋤などがカッコいい背景を背に突き刺さっていた。
「ふ……ふざけんなあああああ! え!? マジで!? これどうすんの!? 全然出来ないじゃん。全然『I am the bone of my sword』出来ないじゃん!? どうしてくれんのこれ!?」
そして荒野に突き刺さっている鋤を飛ばしてみる
「……シュールすぎだろう!」
膝をついて慟哭する。
「何だよ、何のセリフ言えばいいんだよ強敵相手に! 『行くぞ大英雄、農具の貯蔵は十分です』とか言うの!? 締まらなさすぎだよ! 何? この荒野を開拓するの!? 牧場〇語じゃないんだよ!!」
包丁もあるから料理もできる
そんな事が頭をよぎり
「っは! もしかして」
急いであるものを手元に引き寄せる。そしてやはりあった
「鍋とフライパン! そしてまな板!」
手元にお料理セットを用意した姿を俯瞰で見下ろすと上空に錆びついた歯車が回り、どこまで行っても紅い荒野に風が吹くこの寂しい世界に、鍋とフライパンを携えている少年というどこまで行ってもひどくシュールすぎて逆に笑えない光景が広がっていた。
「……ちくしょおおおおおおおおおおおお!!!」
少年は慟哭を上げた。
そんな事を思い出してそこからすでに10年も経っている。
この世界には魔物がおり人の生活を脅かす。が、そこそこ訓練を積んだ守衛で事足りる場合が多く、至って平和な生活であった。正に理想の田舎の生活。陽が上り目を覚まし夜はロウソクの火が消えたら寝るというザ・INAKAという環境。一応守衛の剣を登録し、経験を吸い込んで物にはしている。
UBWはあれからもう一度だけ展開し、実践では役に立たないと確信していた。
宝具等があるから無限の剣製が意味あるのであり、名剣なぞなく、ちょこちょこっと登録した剣がひっそりと突き刺さっているまだまだこざっぱりしたあの空間にそれ程戦略的価値は無い。
奇襲での価値はあるかもしれないが、どうしても決定打に欠ける。
しかしそれをふるう機会は本当に殆どなく、かといって家を飛び出して冒険に出るという金銭的な余裕も無く、青年は既に今生でこの力を振るう機会が中々訪れない事にもどかしさを感じていたが、今の家での生活を経て理性が落ち着いてきて、諦めを通り越しこの生活も悪くないと思い始めている。いや、実際悪くはない。
ざくざくと畝立てを再開して思う。
可愛い幼馴染は居ないがこのままいけば結婚するだろうなーというちょっと可愛い女の子は居るし、食事には何不自由はしない。現代知識を活用してこの村を発展もさせず、たまに川に罠を設置したり、狩猟用の足罠を設置したりして魚や野ウサギ、大きいものでイノシシをたまに食べたりする生活。
前世では緩かったがモンスターも居ない本当に平和な世界でいつの間にか神様転生だったが、特典が何であれ、若干荒んでいた精神を癒すには良い環境であったことは間違いなかった。
田舎は田舎でも一応読み書き等は完璧に順応し、村では顔以外は完璧と称され両親も顔以外は鼻が高かった。
ただ、完璧に順応はしてもやはりそこは男。守衛の仕事もこなしながら情報を収集していた。
この村はかなり外にあり、街から徒歩半日も掛かる。故にキャラバンが村を行き交い、そこで情報を収集していた。
この世界は果たして何なのか。地球ではないのか。ここはどこなのか。魔術はあるのか。
片田舎なので人々の話題は明日の天気と釣りと男は女の事で女は男の話題がほぼ主である。
事件らしい事件も起きず、本当になだらかに時が過ぎていく。そんな中で腐らず青年は情報だけは収集していた。
情報は時に万金にも勝る。これは前世の社会で培ってきた経験である。後それ以外にやる事がほとんどないというのも要因だが。
そんな中で迷宮都市オラリオという情報を手に入れる。曰く古代から存在しておりダンジョンの上に築かれた巨大都市だという。ダンジョン内の魔物は外にいる魔物とは比べ物にならない程強く、日々冒険者と言われる者がダンジョンを攻略し富を築くものや死して夢破れる者と千差万別である。
そして魔物に対抗するために神が冒険者に恩恵を授ける。つまり神は地に舞い降りているのだ。
勿論、神としての能力は封印されているが、それでもこの地に生きて居る者たちとは一線を画している存在であるのは間違いがない。
その情報を掴んだのは青年が10歳の時であった。その時の青年は歓喜したが、外にいるゴブリンですらかなり手古摺るのにダンジョンに跋扈しているモンスター何て倒せるわけがないと冷静に判断を下した。
そこから守衛の人に鍛えてもらい、農作業も積極的に、そして勉学も一生懸命に励んだ。二年位。
勉強は飽きたが守衛の人たちと模擬戦出来るまで成長した少年は初めてモンスターと戦った時に何故か知らないが罪悪感を抱いてしまい、それに苛まれ、ようやく抜け出したのがその2年後の14歳の時であった。その時丁度祖父が亡くなり、農作業の量が多くなり、父も祖父に任せていた作業に悪戦苦闘しており、この状況でこの家は空けられないなと、そう思い、兎にも角にも家族の一員として奮闘するのが一番良いと判断し、今に至っている。
その中で夜中の守衛や遠くの街へのキャラバンの護衛等をしてそこそこ小遣いを稼ぎ貯金している。
これは将来オラリオへと繰り出すための軍資金としてだ。すでに剣の腕前は一人前で、冒険者が差していた剣を解析し、投影、模倣しながら数年体に馴染ませてきた。この技術は村では知りえない技術ですでに村では誰も相手にならない程強くなっている。
因みにオラリオへと旅立つのは両親ともにしっかりと了承している。弟が生まれて父の補佐をしているおかげで後継者問題も解決済みだ。弟の意志はまだ定まっていないが、青年の両親なら比較的自由主義なので、息子たちの幸せであれば他人にあまり迷惑が掛からない様に生きて行けば良いという方針である。
「しっかし、無限の剣製からこぼれたこの魔術は最高だ。剣も農作業も一瞬で一流の動きだぜ」
青年本人は何故発動できるかの根拠は分かっていない。ただ本能で発動できる。という認識だ。
それは神が与えたものだからである。すでに魂レベルで癒着しており正にこの世界においては彼しか持ちえない魔術……いや「魔法」である。勿論身体能力強化もしており、農作業の腕前は既に父を越していると言っても過言ではないレベルだ。その証拠にかなりのスピードで畝を立てている。
……尤も元々青年のポテンシャルがそれなりの能力があるというのも加味しなければならないが。
因みに魔術……魔法を行使する事によって痛みが伴う事は無いとここで宣言しておく。
とはいえ、宝具が無いのは不満で不満で仕方がないが、それでもすでにそれを受け入れ、今生のUBWを育てていく事を決心している。遠い町でそこそこ武器を見て、丘に突き立てたから今はそこそこ見栄えがするかと、青年は思っている。ただ、やはり非常時には宝具等の魔剣や神剣等を投影し窮地を脱する手段が欲しいというのは我がままではあるまい。だが、どうする事も出来ない現状。何か伝承が伝わっている伝説等の情報を収集しか手立てがない事にもどかしさも感じていた。
そのもどかしさを振り払うかのように鍬をふるい続けていると、ふと遠くの街道から一組のキャラバンが村へと馬車を進めていた。
「あ、リヒトさんのキャラバン」
少年時代からこの村に数か月に一度の頻度で訪れるようになったキャラバンである。
そして、青年が最も欲しい伝承や、魔剣の情報等を豊富に持っている商人でもあった。
青年が様々な情報を得てきたのはこの商人によってもたらされた情報によるものが大きい。
「おーい! リヒトさーん!」
農具を片手に近づいてきたキャラバンの御者……リヒトに向かって手を振る。
近づいてきた彼の姿は赤髪でショートウルフでセットされ、目は細目で雰囲気は物腰柔らかそうである。
身長はコウと同じくらいの180C前後、白いシャツから見える胸板は引き締まっており、鍛えられているという事が伺える。黒いパンツを履いており、そのシンプルさ故に彼を引き立てていた。
そして最大の特徴は、その耳である。
エルフの様な長い耳を有しており、彼が純粋な人間でない。ハーフエルフである。
そんな彼が青年の存在に気づき、手を振った。
「さて、さっさと畑仕事を終わらせますか」
そうして更にスピードを上げながら畝立てをしていった。
青年が畑仕事を終わらせて村へ入ると、いつもは閑散としている広場にはキャラバンが様々な品を広げたり、村で作った工芸品や筵等を換金しており、まるでお祭り騒ぎであった。
元々娯楽が少ない村ではキャラバンが来るという事だけで大きな刺激となる。女性は服や化粧、香水類。男は酒、煙草、そして
「や、コウ。いい剣が入ってるよ」
青年……コウ・カブラギが騒ぎの中心へと足を運ぶとそれに気付いた赤髪の男性、リヒトが手を挙げてにこやかにコウへと剣を売り込む。
「へー、確かにいい剣ですね。今までのとは一線を画してる」
「さすがコウだね。やっぱりうちのキャラバンに欲しいよ。どう? 両親の説得なら任せてよ」
「あはは、まぁ考えときます」
「うん。その時が来たらいつでも声を掛けてほしい」
ありがとうございます。と返事を返しイケメンリヒトへとほほ笑む。
そうして手元の剣をコウに渡し、コウもマジマジとその剣を見る。
刀身は非常に綺麗で若干「薄い」そして何より鉄では出せない色味がにじみ出ていた。
「……これはもしかしてミスリルが入ってますか?」
「ご名答。刀剣の目利きは本職のそれと変わらないね。それは一級品でね。そこそこな魔法程度なら切り裂くことが出来るのさ」
「しゅごい」
コウは白目でそうつぶやいた。そうして柄に付いている値札を見ると
「……400万ヴァリス」
「そうだとも、一級品の剣には一級品の値段を付けねばならないだろ?」
「高すぎて買えませんよ!」
因みにコウの総資産は5万ヴァリス。足元にも届かない程だ。
「はっはっは。悪い悪い。まぁコウに手が届くのは今は持ち合わせてないんだ」
「他の所で売れたのですか?」
この村は比較的最後の方である。食料品等は最寄りの街などで補給し村に供給するが、剣等の一品物は最初の金払いが良い村などに赴きお金を確保してから、コウが住んでいる工芸品や筵を買い、それを商会を通して卸す。というサイクルが生まれており、リヒト率いるキャラバンもそれに外れていない。
「ああ、まぁこいつの買い手が中々付かなくてね」
「さすがに高すぎです……」
そうして手元の剣をしっかりと解析し剣の丘へと突き立てつつ、手元の本物の剣をリヒトへと返す。
そのコウの口元はひくひくと動いていたがそれは誰も気づかなかった。
「でも、コウにうってつけの情報を運んで来たよ」
「え?」
そうして優しそうな顔からニヒルな笑みが浮かび、ぴっと人差し指を上げた。
「この村の近くに深い森があるよね」
「え、ええ。そうですね。少し近づきがたい雰囲気ですが」
世界地図の外に位置すると言っても過言ではない程辺鄙な村の西北に地図には記載されていない所がある。
それがリヒトが言う深い森である。探索隊が入ったり調査がコウが生まれてくる前には頻繁に行われたらしいが、誰一人としてその全容を把握出来ていない。ただ、探索隊の一人が偶然その森の中で大きな泉を見た。そう証言をしている記録は存在している。ただし、それがどこにあるかは定かではない。
また、その森が放っている独特の雰囲気が方位感覚を奪い。更に方位磁石も役に立たない。
陽の光を頼りにしようとも森で光が遮られ何処から太陽が昇っているかも伺い知れないのだ。
勿論、コウもその場所へと近づいてみたが、モンスターも散見されていた為深入りは出来なかった。
「うん。僕もあまり近づきたくないんだけど……よっと。この本によるとだね」
そうして分厚い本の中からしおりが挟んであるページをめくり、指でなぞる文章を読み上げる
「深き森の中に広がる湖に乙女在り。乙女より剣を受け取りしアーサーは……」
「っ!?」
――馬鹿な!?
余りの驚きに本を見つめる目を見開く。アーサー王伝説は生前の伝説でこの世界では聞いた事もなかった。
そもそもブリテンのブの字も無いし、地形地図もケルト地方すら無い。というより地球の何処の大陸でもない。
(けど、この世界には俺が知っている「神」が降臨しているのは確かだ)
ダンジョン都市オラリアでは神が多数ファミリアという団体を率いて暮らしているという。
その中でゼウス、ヘラ、ロキ、フレイヤ等神話の神々の名前が挙がっているのはコウも知っている。
そして神話その物もほぼ同じである。尤も、コウはたぶんそんな感じだったと思っているだけだが。
「ん? 聞いてるかい?」
「は、はい。……それで、その湖はその森の先にあるんですか?」
「ある。……と、言いたいけど実際目で見たわけじゃないからね。ただあそこの森には大きな泉があるのは分かっているからね。まぁ僕はキャラバンを組んでるからそんなに調べられないけど……君なら出来る」
イケメンの爽やかな笑顔で言われたコウに断る手段は無かった。元々断るつもりは毛頭ないが。
「わかりました、調べてみます。……もし伝説が本当で剣があったら」
「ああ、本当にあったら君の物だよ。情報料で取る事は無いから安心して欲しい」
「ありがとうございます。個人的な調査なので気長に待ってください」
「うん。次のキャラバンまで数か月以上も日にちがあるからね。進展があれば僕の拠点の街まで近況を手紙で教えて欲しい」
「お安い御用です。ですが、期待しないでくださいね」
そうしてコウはお辞儀をしてリヒト率いるキャラバンから離れていった。
離れていったコウのその背に期待を込めた視線をリヒトは投げていた。
「うーん……」
リヒトから得られた情報よりとりあえず方位感覚や方位磁石が通じない事を改めて実感した。
とりあえず糸を他のキャラバンから買い取り全長恐らく1,000M以上あるのが10個手元にある。
それを一つにして探索へ向かい早ひと月が経とうとしている。
モンスターはたびたび見かけ、フロッグ・シューターを極まれに見かけるが、あの400万ヴァリスする剣の切れ味が凄まじく、あまり苦戦せずとも探索が可能なのだが、農作業等も並行して行っている為中々成果が上げられないのと、広すぎてひとりで探索するのはかなりの時間がかかるという事で頭を悩ませていた。
かといって誰かに手伝ってもらいたいわけでは無く、なるべく宝物は独り占めしたいという至極欲求に正直な行動原則に基づいて動いており、内心数年かかりそうだなこりゃ。という思いで一杯だった。
また、それに拍車をかけていたのが、モンスターの活発化である。
最初の頃は殆どモンスターを見かけなかったが、日に日にコウに触発されたのか、森から異物を排除しようとしているのかは定かではないが、遭遇するモンスターの数は増していった。
それに負ける訳では無いが、万が一がある。
伝説の剣があればそれは欲しい。けど、自分の命には代えられない。
それが本心であった。
とはいえ、ここまで進展も収穫も無いとため息が出るのが人間という生き物であった。
「はぁ……オリ主人公ならここで悲鳴が」
「きゃああああ!?」
「ま、マジで!?」
噂をすれば影が差すという言葉通り、鬱蒼と茂っている草木の間から確かに何か青白い物体が動いているのを視認して、不謹慎ながらちょっとにやけていた顔をパチンッと活を入れ。その方向へ駆け出した。
「っ!?」
地面に伸びる木の根に足を取られ、バランスを崩す女性を視認した瞬間に最近はあまり使っていなかった「魔法」を詠唱した。
「――――――
加速する世界で、地面へと激突しそうな女性のお腹に手を回し衝撃を消すように幾分か余裕を作りながら支える。そして木々の間を押っ取り刀で此方へと駆けて、その勢いで飛びかかってきたゴブリンを女性を腕に抱えたまま二体を一刀両断した。
「ギャァ!?」
短い断末魔を森へ響かせ体を大地へと沈めた。だくだくと噴出する血を見てコウは死んだことを確信し闘気を霧散させる。ぴっと剣を振るい、地面に突き刺して腕に抱えている女性を離し、そして顔を見る
「あ、ありがとうございます」
ふ、ふつくしい……
髪は長く、尾骨までストレートに伸びたスカイブルーの髪であれだけ動いていたのに枝毛一本もない正に完璧なストレートヘア。そしてその顔はまさに美貌の極地。傾国の美女と謳われていてもおかしくない程の美でエメラルドグリーンの瞳は何処まで行っても優しさを感じる。鼻は程よく唇はふっくらとし、ルージュを塗ったかの如く艶を放っている。
「あ、あのー……」
そしてこの声である。コウの脳髄に響き、理性を溶かすように甘い。ほっそりとした首筋から下へ行くと鎖骨が見え撫でまわしたくなる欲求に駆られる。少し土汚れた白く胸元が広い服で腰を強調するように紺色のスカートをしておりほっそりとした腰を強調しつつ谷間もコウは指を突っ込みたい衝動に駆られるほどである。つまりはデカい。
スカートは膝上より少し高く、ニーハイを着用している
ば、馬鹿な! 絶対領域だと!
「そ、そんなじろじろ見ないでください……」
消え入るような弱弱しい声をその機能しなくなった聴覚が必死に手繰り寄せた結果ようやくコウの脳みそ、いや視覚と嗅覚以外の五感が再起動し始めた。
「あ、すすすみません! あ、怪我はにいですか!?」
急に見惚れてたことに恥ずかしくなり、回転しない頭から繰り出される言葉は拙かった。
さらに手を伸ばせば触れそうな程近くに美女がいた事が無かったため、さっと一歩後退した。
「は、はい。大丈夫です。その、逆に大丈夫でしょうか?」
「す、すみません! 大丈夫です!」
「いえ、ぼーっとしておりましたし」
「ああああの、綺麗だったから! その、あああすみません!」
前世から合わせてもコウの目の前にいる程の美女は見た事なかった。村一番の美女のコルタナさんすら霞んで見えてしまう程だ。ちなみに既婚者である。
コウも初めて戦闘を行うときの何十倍もテンパってしまいついつい本音を漏らして謝ってしまう。
そんなコウのセリフに目を瞬かせ、ふんわりと笑う美女。
「ありがとうございます。もしよろしければお礼にご昼食でも一緒にいかがでしょうか?」
なん……だと……!?
あり得ない。前世を含めてあり得ない。そう頭の中でリフレインする。
もしかして罠か。そうも思ってしまう。だがと、頭の中で両天使がゴーサインを出している。
だが、そんな天使も悪魔もコウにとっては既にどうでもよかったのだ。
「よ、喜んでー!」
生きてて良かった……!!
苦節17年。精神的にも体につられて退化しているがしかし、前世を含めてもう40になる男に二度とチャンスが巡ってこない可能性を考えると誘いに肯定するという選択肢以外はあり得なかった。
後でツボを売られようが、美人局だろうがどうでも良かった。ただただ
「あ、すみません。申し遅れました。私の名前はヴィヴィアンです」
極上の笑顔で自己紹介をするヴィヴィアン。
そう、コウ・カブラギはこの目の前の美女に一目ぼれをしたのだ。
「は、初めまして! コウ・カブラギです!」
勢いよく頭を下げたコウに向かって優しく微笑みを向けるヴィヴィアンであった。
誤字、脱字等御座いましたら、ご指摘を宜しくお願いいたします。
基本的には1万文字前後で投稿しようと思いますので、定期的には難しいですが、ご了承ください。ってか皆さんにお願いしまくってて何かすみません。
……ぶっちゃけ酷くこざっぱりのシーンを書きたいが為に書き始めた部分もあります(笑)
4月4日 扉絵追加しました。