2018年04月04日

ゆるキャン△ レビュー・感想 暑苦しい連帯や自己実現をオミットした快作

 観測範囲で評価が高かったので便乗して観た。なかなか面白かった。

『ゆるキャン△』は人物の作画、美術、音楽と全体的にクオリティの高いアニメだった。特にロケハンにガチで取り組んだと思われる背景美術は実写と見まごう美しさだった。あとは五感(視覚:山の風景や夜景、聴覚:牧歌的なサウンド、触覚:冬の山の身を切るような寒さ、嗅覚と味覚:言わずもがなキャンプ飯)を刺激する描写がやたら巧くて、キャンプという非日常と言うにはちょっと近く、日常と言うには遠い空間に自然と没入させられた。
 作品全体を包む不思議な居心地のよさについて。この作品は特定のアクティビティに取り組む作品だが、何がよいかって、克己や連帯を無闇に強要していないところがよいのだ。日常作品というのは得てして、前者はともかく仲間意識や帰属意識はシリアスパートで妙に強調してうっおとしくなることもままあるのだが、この作品はうまくバランスをとっている。具体的に言うと、野クルを中心とするグループキャンプと、リンを中心とするソロキャンプを等しく面白いものとして書いている。賑やかでせわしないグルキャンもよいし、マイペースに静けさを堪能するソロキャンもまたよいというスタンスはなかなか粋だった。劇中での主たるコミュニケーションの手段が、時間と話題をゆるやかに共有するLINEというのも作風に合致していたと思う。そして作品名に「ゆる」を冠したのは大正解だったなと。
 この作品が暑苦しい連帯や自己実現をオミットしながら、静かな達成感や去りがたさを呼ぶのはなぜだろうか。一つ、ゆるいと言いつつ、寒空の下でするキャンプの大変さや財布事情の切なさをしっかりと描いている。二つ、よい景色が観られたとか、自分の提案や練った企画を喜んでもらえたとか、こづかいやバイト代を貯めてよい装備を買えたとか、うまいメシが食べられたとか、そういった女子高生らしい等身大の喜びがていねいに描写されている。三つ、想定していた交通路が使えなくなっている、思った通りに火が起こせないといった小さな失敗と、それに対するリカバリーのエピソードも描かれている(そして、その際には必ず誰かの助けがある)。そして四つ、どのような形式のキャンプでも、人と何かを共有することの嬉しさや楽しさが鮮やかに表現されていること、これが自分にとってインパクトが大きかった。なでしことリンが別のキャンプ地にいながら同じ空の下で夜景をシェアするところや、リンがなでしこと千明のナビで一人旅をするところ、野クルメンバーが部室の壁を写真で埋めようとするエピソードなどに、それが顕著に表れていたと思う。
 最終話のエピローグ、リンと出逢った思い出の場所で初めてのソロキャンプにチャレンジするなでしこが、同じくソロキャンプをしていたリンと偶然合流するエピソードは、この作品のアクティビティに対するスタンスをこれ以上なく表していて好きだ。ソロキャン中のリンからキャンプの楽しさを教わったなでしこが、なでしことの縁からグルキャンの面白さも知ったリンとはじまりの場所で会うという円環構造が美しい。二人はあの後グルキャンをするんだろうし、以後はソロキャンもグルキャンも思い思いにやるんだろうなと想像させてくれるのがよいのだ。このエピソードはアニメオリジナルらしいが、よい仕事だった。

 最後に余計な一言を付け足すと、作品の良さが五感に訴えかける要素や全体的なクオリティの高さに依っている分、作画がヨレヨレもヨレヨレだった8話は訴求力の衰えを如実に感じた。あと、ギャグの寸劇はあんまり肌に合わなかったかな。

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